第6話【インポッシブルなミッション】(動物園編)

おお…!サファリゾーンだ…!!

空気がうまい!!

「わぁ!お兄ちゃん!見て見て!!白いトラさんがいるよ!!」

「うわぁ!遠くからでもすごい迫力だな!!」

千歌ちかちゃん、あれはホワイトタイガーっていうんだよ」

「お姉ちゃん、物知りだねぇ」

「あたしは毎週来てるからな!…バスに乗るコースは初めてだけど」


サファリゾーンでは数種の動物とふれあい体験ができる。

さらに、"サファリバスコース"では途中でミッションをクリアして通行証にスタンプを貯めることで、退場時に特別なプレゼントが貰えるそうだ。

「お兄ちゃん!わたし、絶対にプレゼントがほしい!!」

「任せて!千歌ちか!!」

「…あたしも、あたしもほしい…かも、このコースは1人じゃ参加できなかったから」

「今まで家族と来たりはなかったの?」

「全員、動物アレルギー持ちで…」

「そんなことある!?クラスメイトとは…?」

「これ、男女で2人以上じゃないとダメ…なんだけど…、あたしには仲いい男子とかいないし」

そうか、ここは仮にもデートスポットだ。

サファリバスコースの参加基準が男女2人以上なことにも納得できる。

「だから、嬉しいんだ…。参加できてさ。あんたたちのおかげ」

「俺も…、今日がこんなにいい1日になるとは思ってなかった!宍嶋しししまさんのおかげだよ!」

「うん…ありがと」

「絶対にミッションクリアしようね!!」




サファリバスがしばらく進んでエリアが変わったタイミングでバスガイドさんが喋りだした。

「では!ここで!みなさんお待ちかねの第一のミッションです!!」

乗客から自然に拍手が起こった。

「第一のミッションは!"キリンの餌やり"!みなさんにはバスに乗った状態のまま、窓越しで当園のアイドルキリン【ミサキちゃん】にこちらのごはんを与えていただきます!!」

バスガイドさんから配られたのは、ざらざらとした手触りの草だった。

そうか、これを食べて暮らしているのか。

野生を感じる…、流石サファリゾーン。

「ですが!食べてくれるかは彼女の気分次第!このエリアには10分間停車するので、その間に【ミサキちゃん】に草を食べてもらえたら、各自ミッションクリアとなります!!」




「よし!宍嶋しししまさん!千歌ちか!3人で同じ窓から草を出して興味を持たせよう!!」

「よし、ノッた!!」

「ラジャ!お兄ちゃん!!」

「それでは、バスが停車したのでタイマーを開始しまーす!!ミッションスタート!!!」

第一ミッションは割りと簡単で【ミサキちゃん】はすぐに近寄って来てくれた。

「わ~!!かわい~!!」

「【ミサキちゃん】は園のキリンの中でも食欲が旺盛おうせいで有名なんだ、もぐもぐアイドルってね」

「おぉ~!詳しいね、お姉ちゃん!」

「あたしは毎週来てるからな!…ってこの流れ、さっきもあったな」

「じゃあ、俺!流れ変えちゃおっかな!」

……。

調子に乗った。完全に見きり発車だった。

何も思いつかず不発に終わる。

ダサい…。

「あはは!あんたってそういうところあるよな!すぐに冗談言おうとするけどさ、出てこなかったり、出ても微妙だったり!っはは!」

豪快に笑いとばされてなんか悔しい。

「むぅ…」

「ごめんごめん!ねんなって~!」

まだ出会ってから一週間も経っていないとは思えない会話の内容だが…。

どうやらこの動物園での偶然の遭遇が、俺と宍嶋しししまさんの心の距離を急速に近づけているようだ。

ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!

ピッ……ー

「はい、時間です~、どれどれ、お!おめでとうございます~!みなさんミッションクリアです~!!お持ちの通行証にスタンプを押させていただきますね~」

「わ!見てみて!これ!キリンさんの絵だ~!!」

「よかったな、千歌ちか宍嶋しししまさんも」

宍嶋しししまさんは千歌ちかほど感情を表に出していないが、フルフルと体を震わせながら喜びを噛みしめているのが伝わってくる。

途中で見たリスみたいだ。

「…かわいい」

うっかり、また口に出してしまった。

「はぁ?!ッ……あんたって、そういうところあるよな!!!!」




その後もバスガイドさんの一口ひとくちばなしを楽しみながら、俺たちを乗せたサファリバスは順調に進んだ。

道中、第2のミッション【ネコ科神経衰弱】、第3のミッション【フラミンゴポーズキープ】もなんとか突破し、いよいよラストミッションの時を迎えた。

…あれ?

第1のミッションが山場やまばだったんじゃないか?

尻下が…

「さてさて!!サファリゾーンも残りわずかとなりました!!みなさん、疲れたなんて言いませんよね!?まだまだいけるかー!サッファリー!!」

いや、幕張まくはりメッセのLIVE後半でメインヴォーカルが客席をあおるときのMC!!

まくはりー!!の語感でサッファリー!!と言われましても…。

ほら、みんな元ネタがわからずにポカンってしてるよ!!

「…や、幕張まくはりかよ」

「え?!宍嶋しししまさんも!?」

「……?…え、あんたも!?」

「うん、愛してるぜ!って続くやつ…」

「あぁ、そうそう」

「はわ!お兄ちゃんとお姉ちゃんが2人のセカイでおしゃべりしてるよ……!!」




サファリゾーンも残すところあと少し。

「第4のミッションは~!なんと!今日から始まった新イベ~ント!!」

え?今日って…最強開運日かなにかですか?

宍嶋しししまさんも意外そうな顔をして目をパチクリさせている。

「だらだらだらだらだらだらだらだん!!!!」

セルフドラムロール!!

「ラストミッションは~~で~す♡」

「今、なんて…?」

最後に待ち構えていたのは耳を疑いたくなるようなインポッシブルだった。




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