第7話【ハッピーライラック】(動物園編)

「ラストミッションはラブラブフォト撮影で~す♡」

ここにきてデートスポットの本領発揮ぃ…!!

「ルールは簡単!座席順で前にいる男女2人から、幸せの象徴"クアッカワラビーパネル"の前で、このカメラに向かってポーズをしてもらいます!そのポーズは後半になればなるほど、ラブラブ度が高いものでなければなりません!!」

前にやった人たちのポーズを越えろということか…。

俺たちが座っているのは最後部の座席…、順番が回ってくる頃には、ラブラブ度は最高潮になっているだろう。

「撮影と判定員はわたくしつとめます!」

「お兄ちゃんは千歌ちかとそーしそーあいだからよゆーだねぇ♡」

どこで覚えた、そんな言葉…。

まあ実際、心配はないよな。

問題は…って!

宍嶋しししまさん、めちゃくちゃ赤くなってる!!

とはいえ、人前で見せるポーズなんてたかが決まってる!…よな……?

「それでは最前席の仲良しそうなカップルのお2人から参りましょう。準備が整い次第、どうぞ!!」

すご…、お揃いのTシャツに、髪色まで2人で統一している。

「ねぇ~!ラブラブポーズだって~!!ウチ、恥ずかしいんですけど~!!」

「僕たちの愛に不可能はないってところ、見せてやろうよ!!テルミ~!!」

「あん!ミチル~!!」

「ハイ!OK!!バッチリ撮れました!お写真は後で差し上げます!それにしても、うらやましいくらいアツいハグでしたね!!」

1組目からハードル上がりすぎなんですけどぉ??!!

「次のお2人にはこれを越えるポーズをしていただきます!!」





そうして、見ているだけで恥ずかしくなるような甘々な光景を目にして、ついに俺たちのターンがやってきた。

「では、最後は…って、そうだ、3人でしたね、そしたらお兄さんには2回参加していただいてもよろしいでしょうか?」

「は、はい」

「では、どちらの方から撮られますか?」

「お姉ちゃん、ちょっとキンチョーしてるみたいだから、わたしからいくね!」

千歌ちかの申し出に、宍嶋しししまさんはうつむきながら無言でうなずく。

サファリバスを降り、クアッカワラビーパネルの前に行くと、カメラを構えられた。

「う、バスの中からの視線が思ったより…」

「準備はよろしいですか?」

「いつでもいけるよ!お兄ちゃん!!」

「あ…うん」

カメラマンを兼任けんにんしているバスガイドさんから、片手でゴーサインが出された。

「お兄ちゃん!座って!!」

「え!?うわぁ!!」

パシャッ!!

「えへへ、久しぶりにおんぶしてもらっちゃった!!」

「これは兄妹ならではのポーズでしたね!!素敵な写真が撮れました!!」

……くっ、ごめんな。母さんに危ないからダメよと制限されていたが……、そりゃおんぶしてもらいたいよな。

…ただ、これでラストの俺と宍嶋しししまさんのラブラブポーズのハードルが雲を突き抜けるほど、高くなってしまった。

ああ!!あんなにリスみたいでかわいかった宍嶋

《しししま》さんが、今度はまるで、でダコのように!!

「さぁ!大トリのお2人いきましょう!!高校生の彼氏、彼女って感じで初々ういういしさがあっていいですね~、婚期を逃した私とは違って、なんてー!はははは!!」

宍嶋しししまさん、大丈夫…?」

「う、うん…」

「では、撮影しましょう!いつでもどうぞ!!」

ピ…ピース!

「あれれ?これでは前のポーズを越えた判定にはできませんね~、もう1枚だけいきましょうか!ラストチャンスですよ!」

って言ってもどうすれば…、宍嶋しししまさん、マジで顔が沸騰しそうになってるし…。

「あたしはプレゼントがほしい…こんなチャンス、もうないかもしれないから…。協力してくれる…?」

「もちろん、俺は協力するけど、その…」

「じゃあ!ごめん!!かがんで」

えっ?

えっ!!??

一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

俺は宍嶋しししまさんの両手にひょいと持ち上げられ、"お姫様抱っこ"をされていた。

「これで…おんぶを越えたでしょ?」

「ひゃっ!素晴らしいです~!!!!」

「お姉ちゃん、すご~い!!かっこいい!!わたしもしてほしい!!!」

肩の辺りに宍嶋しししまさんの心音を感じる。

いい匂いもするし、柔らかいしで、なんかもう、どうにかなってしまいそうだ。

宍嶋しししまさんは相変わらず顔を真っ赤にしているが、俺も今の自分が普段の表情を保てている自信がない。

「…は、はやく撮ってよ」

パシャッ!!パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

「撮りすぎだっての!」

こうして、全てのミッションをクリアした俺たち3人は無事にプレゼントを貰ってサファリゾーンを後にしたのだった。





「ランダムアニマルチャーム!!わたし、ペンギンさんだった!!お兄ちゃんは?!」

「俺は…、どれどれ、お!ライオンだ!!」

「いいな~!ライオンさんかっこよかったよね~!!お姉ちゃんは?!」

「あたしは、……!!あたしもライオンさんだ」

「え~!?すごーい!!おそろいだね!!」

「ふふ、なんかあたしたち息ピッタリだな」

「…俺も…!俺もそう思ってた!!」

「あたし、このライオンチャーム、スマホにつけよっかな」

宍嶋しししまさんがポーチからスマホを取り出した。

「あ、その手があったか、俺もそうしよ」

「あんた、それっておそろい…無自覚?」

「え?……は!い、いや、違くて!って、なんにも違わないけど」

「ふん、好きにすれば」

「…もう、夕方だね、帰らないとだけど、お姉ちゃんとバイバイするの、さみしいなぁ…」

「…千歌ちかちゃん、大丈夫だよ。あたしとお兄ちゃんは同級生だし、呼んでくれればいつでも遊びに行くからさ」

「うん…ありがとう…」

千歌ちか、そんな顔するなよ、帰ったら…また、楽しい日曜日が待ってるさ」

「そうだけど…」

「…なぁ、あんたもスマホ出してよ」

「え?あ、うん」

「…じゃあ、これ。あたしのPINE ID」

「!!!」

ピロン♪

父、母、まだスマホを持っていない千歌ちかを除いた家族だけしかいなかった俺の『友だち一覧』に、女、女子が、あわわわ。

「……はじめてだ」

ボソッとつぶやかれた宍嶋しししまさんの言葉を全て聞き取ることはできなかったが、"はじめて"と聞こえた気がしたのは気のせいだろうか。




「それじゃあ、俺たちはこっちだから」

「そっか、ふふ、おんぶしてもらえてよかったな。うとうと千歌ちかちゃん。それと、ありがと……茂道しげみちくん…」

「…うん!!宍嶋しししま…あ、あれ?」

「ライラ!!"宍嶋しししま 蕾来らいら"」

「…!!楽しかったよ!ライラさん!!」

千歌ちかは家に着くまで目を覚まさず、俺が起こさなかったがために、お姉ちゃんにバイバイが言えなかったとしばらく責められた。

…俺にとっても、千歌ちかにとっても、今日は本当に刺激的でいい1日になった。

その証拠にアニマルチャームと共に受け取った写真の中の俺は、過去最高にきとした表情をしていた。

…父と母も妙にホクホクとしていたがえて触れるまい…。

…ふぅ。

俺はきっと、この日のことを…、転校してから一週間で体験した、かけがえのない思い出を一生忘れない。

そうだ、スマホにライオンチャームつけよ。

「…!!宍嶋しししまさ…ライラさんからメッセージ?」

…折角、PINEを交換したんだから、挨拶あいさつくらいしておくべきなのかも。

自然と口角が上がっているのを感じながら、俺はメッセージを確認するのだった。

       


        動物園編 完

   



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