第5話【手を繋ごう】(動物園編)

!!

俺と宍嶋しししまさんが手を繋いで歩いている!!

どうしてこうなった!!!!????

そうだ、千歌ちかが言ったんだった。

「2人とも、手繋いで!」

宍嶋しししまさん、言うこと聞かなくていいからね」

「別にいいよ?あたしは」

……ってなったら!普通、俺←千歌ちか宍嶋しししまさんでしょ!!

…思い出せ…。

「じゃあ、あたしとはこっちの手を繋ごっか、千歌ちかちゃん」

「なら、兄ちゃんはこっちかな、ん?千歌ちか?どうした?」

「う~ん、まんなか落ちつかない!」

そうだ!こうして今の宍嶋しししまさん←俺→千歌ちかの構図が出来上がったんだ…。

「あ、あの宍嶋しししまさん?」

俺の右手をぎゅっと握っている彼女の表情を、不安げに伺う。

「ん?あぁ平気だよ。クラスメイトに会って勘違いされないかだろ?」

隣で微笑ほほえむ彼女からシトラスのいい香りがする。

ッ召され……たらダメだ!!

慌てて首を振って、意識を取り戻す。

「なんだよ、そんな首振って。違うのかよ、あたしだけマセてるみたいじゃん」

「い、いや…家族以外の異性と手を繋ぐのが初めてで…その、俺クサくないかな、みたいな…」

あ、やべ…。

意識しちゃってますアピールをしてしまった。

流石にキモか…

隣を見ると、少しだけ瞳を潤ませて、頬を紅潮させた彼女の横顔が目に入った。

宍嶋しししまさんは、照れた様子でそっぽを向き、口先を尖らせてボソリとつぶやく。

「そんなこと言ったら、あたしだって初めてだし……バカ…」

ぐほぉあ!!

ボディブロウを喰らったような衝撃が俺の心臓を打ち鳴らす。

「ニオイは…ここ、動物園だし、獣臭すごくてよくわかんないけど…いいニオイなんじゃないか…ふん」

「そ、そう?ありがとう。宍嶋しししまさんもいいニオイだね…」

「っ!…バカ、……バカバカバカ」

禁止カードだ、こんなに愛らしいバカがあっていいはずがない。

俺の手を握る彼女の力が少し、強まった気がした。

「2人ともケンカしてるの?」

「いやいや、してないしてない!」

「…千歌ちかちゃん、行きたいところ、ある?」

「お姉ちゃん、サファリゾーン行くとちゅーだったんだよね?そこ行こうよ!!」




『サファリゾーン 園内屈指の大人気ゾーン!

当園職員一同もオススメする最高の…』

「デートスポットォ?!宍嶋しししまさん…これは?」

「あたしも何度も来てるのに、知らなかった…。看板とか…あんま見ないからさ。でも、あたしみたいな1人客もいるだろうし、気にしないでいいと思う」

「わ~い!!デート!!デート!!!デ・ー・ト!!お兄ちゃん幸せ者だね?!こんなにかわいい妹とこんなにキレイなお姉ちゃんとデートできるなんて!」

頼むから、余計なことを言わないでくれ!

あぁ…宍嶋しししまさん、嫌だろうな、好きでもない男とこんな風に手を繋いでデートスポット…。

千歌ちかちゃんの言うとおりだな、感謝してくれよ」

あれ?よかった、めちゃくちゃご機嫌だった。

宍嶋しししまさんは、本当にこの動物園が大好きなんだね」

「うん!大好き!だから、早く入ろ!」

「わたし、キリンさんが気になる!!」

「よし、行こう!」

なんて無邪気な二人だろう。

宍嶋しししまさんがおしゃれだから変に意識してしまうけど、2人ともこんなに純粋に楽しみにしてるんだ。

俺も余計な事は考えずに、全力で楽しもう!!




やっと受付…。

広大な動物園の敷地内は移動するだけでもなかなか大変だ。

「サファリゾーンの一日通行証、600パオになります!」

「入園料と別で、お金…いるんだね」

「…お兄ちゃん、わたしたち入れないの…?」

「…大丈夫!今日のために小さい頃から置いてた貯金箱を割ってきたから」

「へぇ。じゃ、あたしのカレシさん?あたしのぶんも支払いよろしく、それと後でデート代1万パオも」

「!?ぼっ!ぼったくりだ!!」

「あははっ!冗談だって」

くっ。

目を閉じて、眉をあげて、屈託なく笑う彼女の顔はやはり、子どものように無邪気だ。

「では、こちらが通行証です。有効期限は今日一日、閉園時間まで何度でも再入場していただけます!

それでは、ご家族で心ゆくまでお楽しみください!」

「家族ではありません!!」

今のスタッフさん、わかってていじりにきてたような。

俺は自分と千歌ちかの2人ぶんの入場料1200パオを支払い、宍嶋しししまさんは手慣れた様子で600パオを払って無事に3人でサファリゾーンに入場したのだった。




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