君との出会いで色づいた。

第3話【妹と母にしてやられる】

や、やりきった！！

金曜日、転校して最初の一週間を無事に乗りきったぜ！！

友だちできてないけども…。

違和感しかなかった通学路にも、クラスの雰囲気にも大分（だいぶ）慣れてきた。

隣の席の宍嶋（しししま）さんには、…まだ慣れない。

なんとなく、恥ずかしいのだ。

とはいえ、2日目に褒めちぎったのがよかったようで、朝に交（か）わす挨拶（あいさつ）はスムーズになっていた。

「ただいま～、おう、千歌（ちか）」

「お兄ちゃん、おかえり～！」

口をもごもごさせながら、小３の妹、千歌（ちか）が玄関まで来てくれた。

かわいいやつめ。

「って！それ、俺のアイス！！」

ぐぬぬ…。

かわいくないやつめ。

「まぁ、10本入りのやつだし、1本くらいいいけど…」

「これ、6本目かも。ごめんね～、お兄ちゃん」

………。

2とか3ならまだしも、…それでも食べすぎか。

普段なら怒ってやりたいところだが、今は慣れない環境で頑張って疲れてるしな…。

「兄ちゃん、部屋に行ってるから、残りのアイスは置いといてくれよ」

「うん！ありがと！！……お兄ちゃん、顔ぐったりしてる」

「う、うん。まあな、千歌（ちか）は元気そうだな」

「毎日、新しいお友だちとあそべて楽しいの！すっごくじゅーじつしてるよ！！」

「また難しい言葉を…」

ときどき思う…。

同じように育てられた兄妹なのに、どうしてこんなにもコミュ力に差ができてしまったのか。

2階へと続く階段を昇り、自分の部屋についた。

荷物を放り投げてベッドに倒れ込む。。

____。

「はっ！…う～ん」

いつのまにか、ぐっすり寝ていた。

夢か…。

夢の中に宍嶋（しししま）さんが出てきた。

俺は宍嶋（しししま）さんのサラサラとした髪に手を回していた。

……回して、何をしていたんだろう？

そもそも、俺と彼女は出会ったばかりで、まだ日常会話すらもままならないのに。

頬がカッと熱くなる。

ただただ幸せな夢であったことは確かだ。

できることなら、覚めないでいてほしかった。

「あ！お兄ちゃんやっときた～！寝てたの？」

「うん、まあ」

1階に降りて洗面台で顔を洗い流し、壁掛け時計で時刻を確認する。

「ふぅ…もう19時か」

「茂道（しげみち）～！晩ごはんできてるわよ、食べなさい」

母さんに呼ばれて机の上を見ると、チキンをはじめとした煌（きら）びやかな副菜、ケーキ等のデザートがたくさん用意されている。

「うお！すんごい豪華！！季節外れのクリスマスみたい！これどうしたの、母さん？」

「ふふん、今日は【引っ越しを終えて最初の一週間みんなお疲れさま会】よ！千歌（ちか）はもういっぱい食べてるから茂道（しげみち）も食べちゃって」

「千歌（ちか）、アイスもあんなに食べて…」

「お兄ちゃん…しっ！」

妹が小さな瞳できっと睨みつけてきたので、それ以上は何も言わないことにした。

「ところで…茂道（しげみち）、この土日はなにして過ごすの？」

「いや、特には…。ちょっとゆっく…」

「それなら！！ほら、千歌（ちか）」

「お兄ちゃん！動物園！！行きたいな！！」

「え…やだ」

「動物園！！！！行きたいな！！！！」

「……。父さんと行ったら？」

「あら、お父さんは仕事でお疲れでしょ？それに貴重な休みにはわたしとじっくりイチャイチャするのよ」

いらない情報…！！

…新居の最寄駅から数十分で、有名な動物園があるというのは聞いていたが……。

「ねぇ～、お兄ちゃ～ん！」

「うっ…」

ま、まあ学校での話題をGETできるとポジティブに考えるか…。

動物好きだし。

「お兄…ちゃん」

「しょうがないなぁ、連れて行くよ」

うるうるしていた千歌（ちか）の表情が、一気に明るくなった。

「ありがとう！お兄ちゃん！！」

明日は朝早くから動物園か。

課題、今日中に終わらせておこう。

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