第2話【褒め上手"さん"】

俺は宍嶋しししまさんと他愛たあいもない話ができる関係性になるべく、ある作戦を練った。

まずは会話の中で相手の名前を頻繁ひんぱんに投入するという方法だ。

これは心理学的にいいと聞いたことがある……気がする。

そして兎に角、褒める!相手をべた褒めする!

自分のフィールドではなく、相手の話題に誘導することで、自然と聞き手にまわって、"会話が盛り上がってます感"を演出できる素晴らしい戦法だ。



「おはよう!宍嶋しししまさん!宍嶋しししまさんっておしゃれだよね!ほら、髪型とか、目の色もさ!もしかしてカラコンみたいなの使ってたりするの?」

昨晩、家で妹の千歌ちかからあわれみの視線を送られながらも、数十回は練習した台詞をナチュラルに言えた。

さあ!大いに気持ちよく喋るがいい!

仲良くなろうよ、宍嶋しししまさんっ!!

というテンションでやってきたのだが、返ってきた反応は意外なものだった。

「ひゃっ!?あ、転校生の…おはよう。別におしゃれじゃないよ、果耶かやの方がよっぽどさ」

「かや?」

そうして指された方向にいたのは夏梅なつうめさんだった。

あぁ、あの人か。

フルネームは夏梅なつうめ果耶かやだっけ。

絵に描いたような明るさの人で、真っ先に名前が刷り込まれていた。

「そうだね…輝いて見える」

「……。ね、めちゃくちゃキラキラしてるよ、あたしなんかよりもかわいいし」

彼女は少し自嘲じちょうするようにそう言った。

宍嶋しししまさんだって、負けてないと思うけど…。

案外、自己肯定感が低いのだろうか。

「…うん、宍嶋しししまさんは凛としてるというか、どちらかというとかっこいい系だよね」

「…ッ!?そんなに見つめられたら、恥ずかしいんだけど?」

「あぁ!ごめん、ごめんよ!急に変なこと言って!」

彼女は少し照れた様子で「いいよ」とわらった。

その笑顔を見てつい…。

「…かわいい」

思わず心の声が出てしまった。

出会って二日目の女子にかける言葉ではない。

『え?キモっ!あんたとはもう話さない!』そう言われるのを覚悟したが…

「っは?!そ、そんなの、あたしなんかには…もったいない言葉だ!あ、あんた、すごい褒め上手さんなんだな」

なにこの想定外にウブな反応、、、

「ま、まあね、それじゃ、今日も1日よろしく!」

カバンに手を突っ込み、一時間目の提出課題を探しているふりをして、その空気をやり過ごす。




今朝以降、会話しなかった!!

え、もう帰り道!?時間が経つのが早すぎる…。

______。。。

「「あんた、すごい褒め上手さんなんだな」」

ふと、宍嶋しししまさんの表情と声が脳内で再生されてしまった。

褒め上手"さん"って言い方がなんか、なんかさ。

…今、頭を働かせたらまずい。

少し体が火照ほてってきているのに気づかないふりをして、俺は歩くスピードを速めた。




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