第16話:溺愛宣言
あまりにも別人過ぎると、健斗自身も思った。でも届けられた荷物の中にあったスマホを見ると……。
もう驚くことになる。
沢山の写真。
そこには私とのデートで撮った写真が多くあったが、そこに映るのはヴィンス隊長の姿。騎士団の隊服ではなく、ちゃんとスーツを着ていたり、ジーンズをはいていたりで、現代の服を着ている。前髪をジェルでアレンジしていたり、サングラスをかけていたりする姿まであった。
つまりこの世界の黒川健斗は、いつの間にかヴィンス隊長の姿になっていた。
そう思ったが。
「じゃあ、元々の俺ってどんな姿だった? 思い出そうとしたけど……。思い出せない。俺自身のことなのに。杏奈は黒川健斗の姿、覚えている?」
「!? そんなの当然、覚えているわよ!」
「教えて。杏奈の覚えている俺を」
「それは……」
そこで私は、黒川健斗の姿を説明しようとするが……。
脳裏に浮かぶのは、日本人離れした顔。
鼻筋の通った整った顔立ちで、キリッとした眉、形のいい唇。でも黒い髪はサラサラ艶やかで、大きな黒曜石のような黒い瞳をしている。よく鍛えられた体躯をしていて、身長も高く、引き締まった体をしていた。
「え……どうして? 私、健斗の顔が思い出せない。というか、健斗の容姿は、ヴィンス隊長とイコールだわ……」
「だろう。これはなんだか不思議だけど、異世界転生・召喚・送還における辻褄合わせなんじゃないのかな。それにさっき言った通り、俺の肉体は、もう存在していない可能性が高い。だからこうなったのかもしれない」
なるほど。でもそう考えないと、説明がつかない。
「ともかくこれはさ、俺らが関知することができないメカニズムのような気がする。だってあの不二山理央も、存在していないことになっているだろう? いくら考えたところで誰も答え合わせできないし、そういうものなのだと受け入れるしかない」
「健斗って、リアリストで論理的な説明がないと納得できないタイプなのかと思ったけど、そうでもないのね」
すると健斗は「杏奈、なんか俺に対する分析、冷たくない?」と拗ねる。そしてさらにこんなことを言う。
「リアリストで論理的な説明がないと納得できないタイプって……なんかみんなに嫌われそうなのだけど」
「でも健斗はそういうタイプなのに、愛嬌があるから。だから人気なのでしょ」
実際そうだった。健斗は仕事もでき、容姿にも恵まれていた。これで性格がリアリストで論理的だと嫌われそうだが……。健斗は違う。性格が明るい。愛嬌があり、人懐っこい。ゆえに理央も、健斗に目を付けたのだろう。
「! それって俺がモテるって、杏奈、認めている? やっぱり杏奈も、そんな俺のことが好き?」
またも私に抱きつこうとするので「だから~、ここ病院だから!」とその胸を押し返す。健斗はあっさり私の力で押し返されているけど。本気を出されたら間違いない。その腕の中から逃れることは、できないだろう。
見た目はスリムなのに。触れる腕に、はしっかり筋肉が感じられるのだから。
こんなに健斗って、逞しかった?
いちいちドキドキしてしまう。
「杏奈さ、さっきから『ここは病院なのだから』って言っている割には、俺に触れた後、顔、赤いよな」
「! そ、そんなことないもん!」
そこで不意に健斗は私の腕を掴み、ふわりと抱き寄せるので、ビックリしてしまう。
ふわりと優しく、なのに、予想していた通り。
一度完全に抱き寄せられてしまうと、もう身動きはとれない。
「いいよな、杏奈。この顔と体で。だって杏奈を抱いている俺の記憶は、この顔と体だろう?」
いきなりそんなことを、抱き寄せた上で、耳元で言うなんて!
「健斗、騎士道精神はどうなったの!?」
「うーん、残っている。それにいつだってヴィンス隊長の性格に戻れる。馬も乗れるけどさ……って、え、何、杏奈。ヴィンスみたいなお堅いのが好きなわけ?」
「!? そ、そうゆう問題では……!」
すると健斗は私を抱き寄せたまま、左手をとると、甲へとスマートにキスをする。
「杏奈様。自分はいつだってあなたの騎士ですから。一生おそばでお守りします」
その口調はヴィンス隊長そのもので、なんだかドキドキが収まらない。
「なるほどな。日本人女性は、西洋文化に慣れていない。こうやって手の甲にキスされるだけでも舞い上がる。しかも女性を敬う騎士道精神に弱いのか。いいよ、杏奈。会社では健斗として振舞うけど、二人きりの時はヴィンスとして溺愛するから」
「な、なんてこと言っているの!? こ、ここは病院なのよ! みんなに聞かれたらどうするの!?」
もし健斗のお母さんがすぐそこにいたらと思うと、もう気が気ではない。
「大丈夫だよ。それより今のプラン、いいと思うよな? 一粒で二度美味しい男って、俺のことだと思う」
「もー、健斗のバカ! ふざけないでよ!」
なんだか猛烈に照れくさくなり、その腕の中から逃れようとすると。
健斗は、思いがけない強さで、私を抱きしめる。
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