第12話:なんとしても守りたいと思い
『秘儀の間』に踏み込んだヴィンス隊長は、最初、何が行われているか理解できなかった。だが魔術円の真ん中に私が倒れているのを発見し、そこでリオが間違いなく私に対し、何かをしようとしていると確信し、問いただすことになった。
「まさか国王陛下の指示もなく、勝手にアンナ様のことを、元の世界に戻そうとしているとは。この事実には驚愕しました。止めなければいけない。そう思い、まずは言葉で説得し、それが無理な場合は、実力行使も止む無しと思っていました。でも……悪魔相手に言葉での説得なんて、無意味でしたね。最初から武器を手にしていれば……」
「でもヴィンス隊長は、騎士道精神を学んでいるのですよね? 女性に武器を振るうなんて、できなかったのでは?」
つい指摘すると、ヴィンス隊長は「そうですね。ですからあの事態は……避けられなかったと思います」と申し訳ないという顔になる。
「話をしている最中でした。それなのにリオ様は……。魔術を行使する際、いろいろなものが用いられます。植物だったり、鉱石だったり、動物だったり。自分とリオ様のそばには、テーブルが用意されており、そういったものが並べられていました。そこに壺があったのですが……」
ヴィンス隊長の手は、自然と自身の首の後ろへと伸びている。
つまりは怪我をした場所だ。
「リオ様の視線が、不自然に動いたのです。まさかと思い、咄嗟に動いたところ、後頭部の直撃は免れました。でも後頭部の下の首あたりに壺が直撃し……。部屋の中には警備の騎士はなく、魔術師達とリオ様しかいませんでした。その魔術師達は、魔術の詠唱で忙しくしていると思ったのですが、どうやらその中の一人が、自分に攻撃をしたようです」
あの時、私が耳にした音。
あれは壺でヴィンス隊長が殴られた音だった……。
もし後頭部に直撃していたら、現代医療をもってしても、ヴィンス隊長は助からなかったかもしれない。
ヴィンス隊長は、身長が高かった。ゆえに瞬時に避けることで、頭部への直撃自体を避けることができた。もし壺で殴り掛かった魔術師と身長が同じぐらいだったら、頭頂部への直撃を避けられても、後頭部に直撃を受けた可能性もある。
さらにヴィンス隊長が精鋭騎士であったからこそ、リオの目線の動きで異変に気付き、瞬時に動くことができたのだ。
ヴィンス隊長だからこそ、九死に一生を得るにつながったと思う。
本当に無事で良かった――そう思いながらも、心配になり、思わず尋ねずにはいられない。
「傷は、傷はちゃんと処置できたと聞いていますが、大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません。朝食と一緒に痛め止めも飲みましたから、落ち着いています」
その言葉に安堵する。
「後頭部の直撃は避けることができたので、気絶することはありません。ただ、魔術の詠唱に集中し、動かないと思った魔術師が動くことが分かりました。もし私に対し、魔術を行使されたら面倒です。そこで気絶したフリをしました。そしてリオ様に隙ができるその瞬間を、待ちました」
そこでヴィンス隊長が、改めて私を見た。
「その時、自分は……とても名状しがたい体験をすることになりました」
名状しがたい体験……?
一体何が起きたのかしら。
ヴィンス隊長によると、気絶したフリをするため、床にゆっくり倒れたのだが……。
「床に倒れた直後に、頭の中で見知らぬ人間の人生が展開されたのです。一方のリオ様は、自分のことを死んだと思っていました。血も流れていましたからね。そして魔術円の光はどんどん強くなり、アンナ様を元の世界へ戻すための魔術は、いつ発動してもおかしくない状態でした」
その時のことを思い出し、ヴィンス隊長の話を聞く私は、心臓が落ち着かない。
魔術円のエメラルドグリーンの輝きが強まり、魔術の詠唱の声が響く中、絶望していたことが脳裏によぎる。
「もう、アンナ様を元の世界に戻せると、リオ様は完全に無防備になっていました。今なら剣を喉元につきつけ、魔術師達の詠唱を止められると分かったのですが……。自分は……自分が何者であるか、そこで分かってしまったのです」
「それはどういうことですか……?」
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