⑰+1

「中顔面短縮…かぁ……」

「ん?どしたいずみん」

「玄牙さん…美容アプリの投稿で、中顔面短縮ってのを見てるんですけど…それってどんな感じなんですか?」

「中顔面短縮ってのはな…眉から鼻の下までを中顔面っていうんだけど、それが長いと面長に見えちまうんだ。だからそれを解消するメイクのことさ」

「へぇ……私って、その中顔面長いですか?」

「いや…いずみんは……ちょっと肌荒れてるだけで、顔の比率には問題ない」

「和純さん、メイクのコツ?」

「虎哲さん……はい。中顔面短縮ってどんなやつなのかなって」

「なるほどね…」

「よし虎ちゃん。肩を貸せ」

ある日の放課後、この日はサロンが定休日で私達はゆっくりしていた。某美容アプリの投稿で、中顔面短縮というメイクのコツを見てると、携帯を覗いてきた玄牙さんがそれについて教えてくれた。買い物から帰ってきた虎哲さんもその投稿を見ると、玄牙さんは虎哲さんであるメイクのコツで試してきた。

「見とけよ〜?俺の得意な中顔面短縮を」

「あはは…玄牙さんは一目で人の顔の比率分かっちゃうの…流石ですね」

「一応チビも矢間も分かるけど、俺の方がピカイチだっ!中顔面が長い人は…下瞼のアイメイクを極めるべき」

「確かそれ…涙袋とか地雷ラインっとか…必須でしたっけ?」

「ああ。他に頬骨の下にチークやハイライトを入れたり、リップライナーで唇の山を描いたり、下睫毛を描いたり、シェーディングの入れ方を変えるのもありだぞ」

「へぇ……」

人中の下と唇の下にシェーディング、唇の山にハイライトを乗せていく。メイクの練習してるだけで意識はしてなかったが、これだけでも十分印象が変わっている。

「…にしても虎ちゃんって凄く目ぱっちりしてるよなぁ……平行二重は強いぞ」

「あはは……でも二重幅広い方で…そうだ。玄牙さん……その、二重幅によってアイメイクの仕方って変わるんですか?」

「いい質問だ。平行か末広か奥二重かでアイメイクは変わる。例えば虎ちゃんみたいに二重幅広い人が、ピンクのアイシャドウ使うと腫れぼったく見えるから、ブラウンかベージュとかの色を使うといい」

「そうそう……平行二重は発色強い色を使うと、目が小さく見える…淡い色のアイシャドウにラメやパールで立体的な目元になるぞ……」

「末広二重は…目尻に濃い色のアイシャドウで目元の印象を引き締める。奥二重はアイホールにハイライトカラー、二重幅に淡めのカラー、目尻に締め色を足すといい感じになる」

「なるほど……もちろん、鼻の形や顔型によってはシェーディングの入れ方も違うんでしたよね?」

「そう。ちょっとしたひと手間加えることでメイクの印象は全然違うぞ……虎ちゃんやいずみんはメイクする時、ハイライトはどこに塗ってる?」

「鼻と目頭…ぐらいですかね」

「私も…」

「実はシェーディングやハイライトの入れ方次第で口ゴボをマシにさせたり、透明感を出すことも出来る。例えば、頬骨や目尻のCゾーン…デコにも入れるだけでも仕上がりは変わってくる」

玄牙さん曰く、目下のハイライトは少し下めに入れると中顔面が立体的になるんだとか。数分後、虎哲さんのメイクの仕上がりは少し変わっていた。下まつげを描き、涙袋の濃いめに、もちろん地雷ラインもプラスし、ハイライトやシェーディングの入れ方を変えただけでこんなにも変わるとは…。私は気になったことがあって、玄牙さんに質問をした。

「玄牙さん…その、口ゴボって何ですか?」

「口ゴボはな…横顔を見た時に口元が盛り上がってる状態のことさ。鼻先から顎までのラインをEラインっていうんだけど、それが真っ直ぐだったら口ゴボじゃないんだ」

「へぇ……」

「人差し指を顎先と鼻先に当てた時に口元が押し潰されるなら口ゴボだな……歯周病や虫歯のリスクも高くなる…遺伝や骨格も原因の一つだな」

「歯列矯正とかもありますよね」

「あぁ。大学時代、俺も矢間も歯列矯正したことあったけど、高いし死ぬ程痛かったぞ……メイクスタジオや美容室で死ぬ気でバイトして貯めたぞ」

「へぇ…それ、俺もやった方がいいのか悩んでて」

「いや、虎ちゃんのEラインは綺麗だぞ……いずみんは…顎が小さいから上の歯列だけ矯正掛けた方がいいかもしれないな」

「痛いの怖いです……」

「大丈夫だよ。歯列矯正掛けてから一週間くらいで痛みは消えるよ……でも歯列矯正は噛む時に激痛が走るから、お粥とかスープくらいしか食えなかったなぁ…」

「あぁ。時間もかかるから、歯にワイヤーつけながら口ゴボをメイクで隠してたよ……口ゴボだとほうれい線があるように見えちゃうから、そこは明るいコンシーラー塗って、パウダー多めにね」

「矢間さん……」

「ってな感じで、いつものメイクに一つ付け足すだけでもこんなにも印象は違うんだ…美容の世界はまだまだ広いぞ」

「料理の世界も負けてないですよ……」

部屋でゲームしていた矢間さんもリビングに入ってきて、玄牙さんと歯列矯正をした思い出について語った。後でネットで調べると、部分矯正は早くて二ヶ月から一年、全体矯正は一年から三年といわれてるらしい。暫く談笑をしていると、腹の音が鳴った。

「誰だよ腹鳴ったの…」

「私です」

「いや俺です……」

「そろそろお昼ですもんね……今日は中華にしようと思ってたんです」

「いいねぇ…めちゃくちゃ腹減ってたんだよ!」

「良かった。野菜多めの回鍋肉に酢豚、小籠包に海老チャーハンにしましょう…あとデザートに杏仁豆腐も」

「ボリューム多めだね……毎度虎哲君の作る料理には驚くよ……詩喜の野菜嫌いには呆れるけど」

「あと今日龍聖さん休みだから……龍聖さんの好きな青椒肉絲も作ろうかと…」

「よし、俺達も手伝うよ」

その日、兄は外出しており、矢間さんと玄牙さんと虎哲さんとお昼ご飯を作り、食べてる時だった。

「海老ぷりっぷり……小籠包も肉汁ドバドバですっごく美味い…」

「チャーハンもパラパラで…青椒肉絲の筍もシャキシャキ……こりゃあ飯が進むな…おかわり!」

「美味しい……」

「ふふっ……和純さん、頬っぺた落ちそうだし米粒ついてるよ」

「あ……本当だ…」

「いずみんは美味そうに飯食うよな……あのチビにも見習って欲しいよ」

「あー、そういえばさっき詩喜に電話したんだけど、もうすぐ帰ってくるみたい……飯いるって」

「大丈夫です。詩喜君の分は取り分けてますので……海老の頭を油で長時間似て、海老の成分を抽出した甲斐がありました」

「すっごく美味い……上司と行くランチより全然美味い!」

「……てか思ってたんですけど、龍聖さんって普段何してるんですか?」

「え」

パラパラのチャーハンにはぷりっぷりの海老がどっさりと乗っていて、小籠包は噛めば肉汁が溢れるように出てくる…。青椒肉絲の筍はシャキシャキ……。これらは全て、虎哲さんにしか出来ない調理技術…。龍聖さんは青椒肉絲を頬張っている…。そんな彼を見て思った……普段サラリーマンと名乗っている彼が…普段何の仕事をしてるのか……私は勇気を出して、彼に聞いてみた。

「……うーん……これ、答えていいのかな?」

「…海外に留学して、大手企業に勤めてるって…」

「…それなんだけどね、実は少し違うんだ」

「え、そうなんですか?」

「和純ちゃん…先輩は「矢間」

「有難いけど……ここは俺から話させてくれ……確かに俺は社会人…でも、少し違うんだ」

「…具体的に言えば……?」

「実は俺……弁護士なんだ」

一瞬、頭が真っ白になった…。龍聖さんはサラリーマンではなく…会社員ではなく…弁護士……。その弁護士を勤めてる彼が……私を好きでいてくれている…いやぁ、違う……?

「やっぱりいずみん、頭が真っ白ですよ…」

「…だよね」

「……和純さん……大丈夫?」

「………え、龍聖さんが弁護士…?」

「…君の兄は、美容師兼大人気美容系YouTuber…矢間は引っ張りだこの美容師……玄牙君は世界レベルのメイクアーティスト……虎哲君は現役大学生ながらジムのインストラクター…兼料理人…」

「………そして、弁護士の俺。優秀な人達と暮らしてる君に、弁護士の俺が加わると…和純さんが凄い気遣いするんじゃないかって…打ち明けるタイミングが…分からなかった…その、今まで隠しててごめんっ!」

「…先輩は、弁護士の仕事についた君に話そうと何度も俺達と相談してたんだ……」

「……龍聖さん、頭を上げてください…龍聖さんが私のために、私達のために仕事を頑張ってくれてる…それに、打ち明けてくれて、ありがとうございます」

「和純さん……」

「ふふっ」

「おー、帰っ……虎ちゃん?」

「お帰り詩喜君、手洗いうがいして、野菜嫌い克服しようか」

「何このカオスな展開……」

「逃げても無駄…。サプリで補えない美容成分も摂れるんだよ」

「そうだぞ……トマトジュースに含まれる美白成分、人参に含まれる美髪成分……浮腫みに良いカリウム……毛穴やシミに効くビタミンC…美容系YouTuberとしての自覚あるのかよ…」

「うげぇ……」

「お兄、野菜嫌い克服まだ出来て無かったんだ……」

「とりあえず食べなよ…吐いてもいいから」

「よし、詩喜は俺が抑えとくから虎哲君、気にせず食わせて」

確かに兄率いるア・モード・ミオのスタッフは皆それぞれの分野で大活躍している。それに龍聖さんも加わるとなると、私が気遣うのでは、と…中々言い出せなかったらしい。するとそのタイミングで兄が帰宅した。兄は大学のゼミがあり、それを終えて帰宅したようだ。兄の姿を見た虎哲さんは野菜嫌いの特訓を始めた…。それに便乗した矢間さんは兄を抑え……そして…

「うっ………」

「ちょっとは野菜食べれるようになったね」

「言ってもピーマンぐらいしか食べれてないけどね……」

「いや、このスピードが丁度いいんです。美容と同じ…ボディメイクと同じ……。痩せるタイミングやニキビが治る時間……人それぞれです」

「それもそうだね……あ、和純ちゃん…その髪、自分でやったの?」

「はい!コテの使い方、兄のYouTubeで見て頑張ってやってみたんです」

「なるほど……初めてにしては上手いけど、もういっちょ欲しいかな」

「え?」

兄は顔を青くし、テーブルでぐったりとしていた。確かにこの前よりは野菜嫌いは克服されているものの、ピーマンくらいしか克服出来ていない。すると矢間さんは私の髪に気付き、私の髪を編み込み……そしてとても可愛い髪型へと変化した。さすが某美容アプリで上位を保つ美容師…。

「ほら、出来た。羊だよー」

「可愛い……ありがとうございます!」

「寝起きの髪の和純さんも…羊ヘアの和純さんも可愛いなぁ…」

「今度猫耳ヘアもやろうな……野菜が…」

「待ていずみん!俺ももういっちょやらせて!」

「玄牙さんも…?」

手鏡で編み込まれた髪の毛を見てると、玄牙さんも立ち上がり、あるリキッドライナーとグリッターを手に取り……私の顔に一つプラスした。

「わあ〜!」

「血色感足して…唇の山も描いて…口角も…目の粘膜ラインも描いて……あとは黒目の下にグリッター入れると…ほら可愛い!」

「おー!流石俺の妹っ!」

「……和純さん、似合ってるよ」

「ありがとうございますっ!」

何かを一つ付け足すことでこんなにも印象が違う……。顔型や骨格、パーソナルカラーや目の形…それに対応するメイクにもう一つ足すと…こんなにも印象が変わる……。そうだ、今度メロンパンでも作って皆んなにお礼をしよう……。






……To be continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の美容系兄チューバーは無限∞でした。 檻射舞|おりーぶ @ygtn_hn126

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ