⑮Pro
「本日メイク担当させて頂きます。武里と申します!よろしくお願いします!」
「………よろしく、お願いし…ます」
「それではまずは…拭き取り化粧水を…って…どうしました?」
「…あの、今日の前撮りは…中止すること出来ますか……」
「…は、はぁ……」
「私、本当は大好きな彼氏がいるのに!無理矢理両親に好きじゃない男と結婚させられそうなんです…しかも彼氏よりお金持ちの高学歴で…」
「だ、大丈夫ですかっ?え、ええと……矢間、どうすれば…」
「とりあえず、式場スタッフに相談だっ…電話電話…」
この日、私達は結婚式場に来ていた。それは結婚式の前撮りでのメイクや着付け、ヘアセットをして前撮りを行うので、急遽ヘルプとして矢間さんも玄牙さんも来ていた。私や兄は前撮りする方と同じ控え室にいた。
「和純見ろ…前撮りのメイクやヘアセットだ」
「う、うん」
「成人式もそうなんだけど、こんな感じで化粧するんだ。覚えときな」
「へぇ…」
「ヒック…どうしてっ!どうしてなのっ!」
「わ、大丈夫ですか?いかがなさいました!」
「あの…実は彼女、お付き合いしてる男性がいるのにも関わらず、好きでもない高学歴でお金持ちの方と強制的に結婚させられそうとか…」
「……困りましたね…」
なんと、結婚式の前撮りをする方には他に付き合ってる男性がいるにも関わらず、両親に無理やり別の男と結婚させられるみたいである。話を聞く限り、彼女の家は両親の浪費癖で経済状況が良くなかったが、愛する人とお付き合い出来た…しかしそれは、彼氏より高学歴かつ高収入だという。
彼女がいきなり泣き出したことで、矢間さんや玄牙さんはもちろん、式場スタッフ一同も困っていた。すると、別の式場スタッフが駆け付けてきて、前撮りの前に結婚式のフルコースの試食をしてもらうことになった。
「すっごい……盛り付けも綺麗…流石プロの料理人」
「お気に召して頂きましたか?」
「はいっ…とても美味しいですっ!特にこのお肉…」
「お褒めに預かり光栄です。ところで……あの方さっきから泣いてるけど、何かあったの?」
「虎哲さん…実は……あの女性、好きでもない異性と結婚させられるみたいで……しかも相手は高学歴かつ高収入で…しかも彼女は両親の浪費癖のせいで貧しい家庭だったみたいです」
「へぇ…?つまり、あの方のご両親、失礼だけど外面はいい…。でも…「ちょっとっ!」
「あ〜、なんか凄い展開になりそうだ。和純さん…ちょっと行ってくるね」
式場内のレストランコーナーへと通され、私が前撮りするわけではないのに、何故か兄や私の目の前にも料理が出された。先程の彼女とは少し遠いテーブル席に私と兄、矢間さんと玄牙さんが座っていて、繊細で美しい料理はフルコースだった。
「……てか、なんで私達まで?」
「あれは虎哲君の希望だよ。一流ホテルのレストランでバイトもしてるし、SNSで最近有名な料理人でもあるからね…」
「そうそう。現役大学生で料理人ってだけでインパクト強いのにな…火加減や食材の使い方も凄い……このチビには見習って欲しいな」
「でもめちゃくちゃ美味い……このメインの肉、めちゃくちゃ蕩ける…」
「あれ……虎哲さんは……?」
元々虎哲さんは今日、何処かのレストランで手伝いをすると言っていたが、それがここだったなんて……。後で聞いた話だが、今日は難しい料理を作るため、シェフが急遽彼の力を貸して欲しいと、虎哲さんを呼んだらしい。しかもそのレストランのバイトは大学入学と同時に始めたのだとか…。でも……
「ちょっとっ!この料理味が濃いっ!しかも肉だぞ…?この私の持病を悪化させる気かっ!」
「そうよっ!この娘の料理はもう片付けていいから、これ作った人呼んできてっ!」
「それは大変申し訳ございません。ですが、これらの料理は…この僕が作りました。他にご不満でも……?」
「…ちょっ……体格が良過ぎるからって調子に乗らないで頂戴っ!この娘の結婚相手は、大企業の御曹司で、高学歴なのっ!この味は相応しくないっ!作り直しなさい!」
「もう……やめ…て……」
「………確かに、これは僕の手際が招いたのは事実です。本当に申し訳ございません。ですが……娘さん、凄い嫌がってますよ?無理やり好きでもない男と結婚させられるなんて…」
「だからって……あんな貧乏そうな彼氏よりも、お金持ちで高学歴の方がいいに決まってる!見習いの料理人ごときのお前が首を突っ込むのは間違っている!」
「うわぁ…凄い修羅場……虎ちゃん大丈夫かな…」
「……これはヤバそうだね。俺も加勢してくる」
「ちょっ、矢間っ!」
我慢できずにいたのか、矢間さんも席から立ち上がり、持っていたグラスの水を、その料理の頭に掛けた。
「何するんだっ!」
「……間違ってるのはあなた方でしょ……どうして娘さんの人生を犠牲にしてまで、自分達だけ幸せになろうとしてるのやら……話を聞く限り、彼女には大好きな彼氏がいるのにも関わらず、毛嫌いしてるそうじゃないですか」
「……しかもあなた方の浪費癖のせいで彼女は凄く苦労した。娘さんを思うなら、こんな強引に、好きでもない男との結婚はさせないはずです…」
するとその両親はヒステリックを起こし、レストランコーナーの一部は荒れてしまっていた。矢間さんはひたすら泣きじゃくる女性の傍にいた。虎哲さんの作った料理を、ひっくり返したりしていて、さすがに虎哲さんも怒ってしまった。そう、彼は誰よりも怒らせてはいけない人物なのだ。
「…あなた方は人として最低です。確かにこのお肉は塩漬けにしてるので味が濃いと感じさせてしまったことは謝ります。でも、これまであなた方が浪費してきたことで、娘さんの今後の人生を壊すことは…許せません」
「虎哲君……」
「矢間さん…ここは俺に任せて、彼女を別の部屋に……」
「あ、あぁ……」
「玄牙さんも詩喜君も和純さんも、別の部屋に…」
虎哲さんの言うとおりに私達は先程の部屋に戻ったのだが……
「にしてもあのジジババおかしいだろ…」
「自分達の為に、娘の人生を奪おうとしてるのは間違ってるよ……虎哲君、怒るとあれだから別の意味で手を汚さないといいけど」
「…………」
「いやぁ、やっと終わった。手強すぎましたね」
「虎哲君…大丈夫だったのか?」
「えぇ…しっかりケジメつけてもらいました!それにこの女性の方も大丈夫ですよ?」
「皆さん…本当にありがとうございました」
何と十分もしないうちに、虎哲さんは戻ってきた。彼曰く、ケジメをつけさせたらしく、先程の女性も安全だった。彼女は私達にめいっぱいお礼をした。
「いえ…良かったです。また何かあれば僕がケジメつけるので」
「はいっ!それとお料理凄く美味しかったです!皆さん、本当にありがとうございましたっ」
「一晩掛けて考えたレシピ、役に立ったな…こちらこそ嬉しいです」
「本当に、ありがとう……あ、彼氏からLINE…」
「なるほど。デートの誘いか……あ、お姉さん。この女性メイクしてもいい?」
「僕達、今日は元々この女性のメイクやヘアメイクのヘルプで来てました…お願いします」
そしてまた、玄牙さんのメイクや矢間さんのヘアメイクにより、女性はあっという間に綺麗になった。彼女は泣きながら私達や式場スタッフの方にお礼をし、結婚式場を後にした。
「いやぁ、なんか今日大変だったよねえ…」
「あぁ。泣いてたから目の浮腫みもあったし、パック持ってきて良かったよ…高保湿のやつが正解だった…」
「ヘアメイクも崩れないようにスプレーも掛けたんだよね……あの髪型やってみたかったんだよ、俺」
「あ〜確かに、あのハートの三つ編みハーフアップ…すっごく似合ってた!今度和純にもやるからな!」
その日の夜、私は虎哲さんの料理を手伝い、その日はビーフシチューだった。ブツ切りにした牛肉に塩コショウを振り、兄の野菜嫌いを克服するためにも沢山の野菜を鍋にぶち込み、デミグラスソースとニンニク等の薬味、トマト缶や赤ワインを加え、鍋で煮込んでいる時だった。
「相変わらず虎ちゃん凄いよなぁ…あ、俺のやつに野菜は入れないでくんね?」
「それは無理だよ……詩喜君は和純さんより野菜嫌い激しいんだから……ちょっとだけお肉多めにしてあげるから頑張って克服しようか。野菜にも牛肉の旨みが染み込んでるはずだ」
「お兄……野菜食べないと肌荒れるよ?」
「確かに、日頃のビタミン剤とパックと水でこのちゅるちゅるの肌保ってるからな……ニキビパッチも上手く使いこなせてるし」
「いずみん…こんなふうになるなよ?」
「あはは…」
「ただいまぁ……」
「あ、龍聖さん!おかえりなさい」
大の野菜嫌いなのにも関わらず、兄の肌は毛穴やニキビが一つもない…俗に言う白玉美肌だ。私も兄と同じで野菜だと白菜が嫌いだが、兄の場合はブロッコリーや人参、ゴボウやピーマン、キャベツやサニーレタス、ズッキーニ、れんこん、なす、トマト、アボカドなど…兄は野菜の殆どが嫌いだ。兄曰く、火が通っているのは食べれるらしいが、味や食感があまり好きではないらしい。ニキビパッチやフェイスパック、美容液も使いこなせるのも、流石だと思う。ビタミン剤や日焼け止め、水分摂取や睡眠時間やストレスなど…肌は思ったより敏感だ。矢間さんや玄牙さんは兄の肌や野菜嫌いに対し、よくは思ってないらしい。すると龍聖さんが帰宅し、玄関に入ってきた。
「和純さん、皆…ただいまぁ…疲れた」
「よしよし…ふふっ」
「先輩おかえりなさい。いやぁ和純ちゃん…いい感じだね」
「そういえば龍聖さん…背伸びました?」
「そうなんだよ!矢間とそんなに変わらないくらいかな?」
「栄養もしっかり摂るようになったのも大きいですね……百九十センチぐらいですかね」
「たっか……てか龍聖さんだいぶ変わりましたよね…出会った当初と全く違う。頑張りましたね」
「いやー虎哲君の指導の成果も、このとおりさ。三十超えてた体脂肪率が今じゃ十パーセント前後さ。自分に自信が持てた気がする」
「和純さん、君と出会えたお陰で俺は…こんなにも変われた。何度も言うけど、ありがとう」
「龍聖さんの努力ですよ……私も自分磨き頑張らないと」
「なら今度…爪のケア教えたるぞ。虎ちゃん腹減った!飯食おうぜ」
「虎ちゃん〜!俺のビーフシチューは野菜少なめね?」
「だからそれはダメだよ……詩喜君には野菜嫌い克服してもらうって矢間さんと決めたんだから」
この日は色々なことがあった。まるで私達の家庭環境のように、悪かった家庭環境…そのせいで彼女はずっと苦労していたのだ。でも最終的には、矢間さんや玄牙さん、虎哲さんのお陰で彼女は笑顔になり、美しい美貌になって私達にめいっぱいのお礼をしてから愛しい人への元へと出掛けた。これが……美容の盛大な力、プロにしか出来ないことだと思った…。
……To be continued
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