⑬流行りに乗って

「……ただい………ま?」

「おかえり〜!和純、今日もよく頑張ったな!」

「んん…お兄苦し……ってか、その頭何?どうしたの?」

「あー……染めた!ちなみに皆も髪染めたんだ」

「へぇ…?」

「あ、和純ちゃん帰ってたんだ。お疲れ様。今年流行りの色に染めてみたんだけど、どう?」

某日、学校が終わりサロンへ帰ると、兄の髪色が変わっていた。地毛の白髪から深い紅髪に変わっていた。すると矢間さんも出てきて、彼の髪もオレンジ色に染まっていた。

「凄い色……暖色系…」

「今年の夏は赤系のカラーが流行ってて、秋冬はグレージュが流行ってんだ」

「そう!美容も流行りはあるからね!そうだ、和純ちゃんインスタやってる?」

「あ〜……一応垢はありますけど……この前兄に作らされたやつです」

「あの鍵垢の……それで色んな投稿も見れるんだよね。俺達はインスタで最新の流行やコスメの情報を調べて、お客さんにトレンドカラーを提案することもあるんだよ」

「髪色に流行りってあるんだ………」

「そう。もちろんメイクにも流行りはあるよ…あ、いずみんお帰り。俺も髪染めたんだけど、どう?」

ヘアメイクスタジオに玄牙さんもやってきて、彼の髪は黒からチョコレートのようなブラウンに染まっていた。彼曰く、チョコレートが大好物らしく、その色に決めたのだとか…。

「美味しそうな色……艶々…似合ってます!」

「ありがとう。もちろんメイクにも流行りはある…。最近、純欲メイクとか兎メイク、子猫メイクとか………あとはオタクが考える、アニメキャラ風のメイクとかね…」

「あ、和純さん帰ってたんだね……俺も今日矢間さんにオリーブグレージュで染めてもらったよ〜」

「虎哲さん………あ、虎メイクとか……あるのかな?」

「虎メイク…研究しがいがある……ありがとういずみん!今度虎メイクやってみようぜ!」

「虎はダサい……せめてタイガーメイクと呼んでくれ……あ、和純。ちなみにだけど俺も矢間もメイクは出来るからな!玄牙さんほどじゃねぇけど」

「ちなみに俺も最近メイク練習してるんだ……料理と同じで鶏ガラベース、パンを焼く前に卵塗るようにアイシャドウ塗る……うん、覚えた」

「覚え方の癖強……美容の知識が全部筋肉に行っ……痛てててててててっ!」

「詩喜君……この前、ハンバーグ作った時にダークマター生んでなかったっけ?」

「あれか……それ動画にしたらバズりそうだよね……」

何を隠そう。この大人気美容YouTuber兼私の兄である小沼詩喜は、美容や学業に集中しているせいか料理のセンスが皆無どころか壊滅的だ。同じ材料かつ分量で作ってるにも関わらず、出来るのはダークマター一択だ。虎哲さん監視の下で最近は料理を練習してるらしいが、ほぼ空回りしてしまうのだとか……。

「これでも、最近は頑張ってるんだよ?」

「この前カップ麺に水入れてた奴がよくいうよ……」

「しかもその後電子レンジに入れて爆発したよな」

「詩喜君……はぁ……」

「そもそもお兄が一人で電子レンジ使うのも危ういんだよね……」

「オーブントースターの中身も全部ダークマターにしちまったもんな…」

「うぐっ……で、和純……お願いだから今度一緒にご飯作ってよぉ…虎ちゃん怖いし」

「この前こいつ妹と飯作りてーっ!ってめちゃくちゃ叫んでたよ」

兄の壊滅的に欠けてる料理のセンス、それとは逆に上級といわれる美意識…。天秤に掛けると後者の方が絶対重いだろう。確かに再会して数日経ったある日の朝、兄は電子レンジで何かを加熱しようとしたら何か爆発音がしてたような……。いや、兄には家庭科の授業を小学生からやり直して欲しいものだ。私と虎哲さんはそれに苦笑いすることしか出来ずにいたが、玄牙さんが私に携帯である画像を見せてきた。

「よしいずみん……今度の休みは皆で服買いに行こう」

「……あの、この画像は?」

「和純ちゃんに合いそうなコーデ。和純ちゃん、あまり服にも興味なさそうだし…」

「それなら!俺に任せろ……っと…もしもし?」

<あー、詩喜君?今休憩中だよー>

「良かった…ちょっとお願いあるんだけどさ、妹の服選び手伝ってくんね?レディースのファッションとかちょっと俺達分からなくてさ…」

<え〜いいの?やった!そしたら来週あたりにでも行こうよ!>

「わかった!また後で電話するわ!じゃ」

「じゃ〜ね〜!」

兄がブツっと電話を切り、キャラメルのように澄んだ瞳を輝かせてはこちらを見てきた。

「和純……今度の休み、皆で出掛けるぞ」

「……ええと…?」

「服買いに行くの……お前服に対しての興味薄いだろ々とりあえず決定事項だからな!」

「ぇぇ…でもさっき、電話で話してた人…誰?」

「雫さん。俺の高校の同級生でね…詩喜君とよくコラボしてる美容系YouTuberさ。普段は脱毛クリニックで働いてるけどね」

「虎哲さんの……同級生…!?」

「とにかくいずみん……服買うぞ」

「よし、俺来週有給取るよ。和純さんの買い物に付き合いたい」

「わざわざいいのに……」

「あー、先輩毎月手取り四十万とか言ってるからね」

たった今知ったことだが、龍聖さんは予想以上の手取りを毎月得ていたのだ…。彼の務める企業を考えると納得はいくが、二十代後半かつ激務で、その高い給料なのも納得はいく。どおりでこの広大な部屋に住めるわけだと改めて納得した。そしてざっくりではあるが服を買いに行く計画を立て、その日はやってきた。

「もうすぐ雫さん来るよ。和純さん、大丈夫だから」

「しず氏久しぶりだなぁ……なんていったって今日の企画は、美容系YouTuber同士がファッションセンス対決してみた!だからね」

「撮影も兼ねてか……でも和純ちゃんは一切動画に出さないって言ってたじゃん」

「それなんだけどさ……和純が動画に出たいらしくて…勿論モザイクは掛けるけどね」

「いずみん…?なんか理由あるの?」

「はい……それは…」

兄と虎哲さんが言う、雫さんという人物を待ち合わせ場所で待っていた時だった。兄は今日の買い物を動画の企画として撮影するみたいで、元々私は兄の動画に一切出ないという約束をしていたのだが、これには理由がある。女子高生かつ大人気美容系YouTuberの妹である私を、面白く思わないために私に嫌がらせしてくる人も多い。ずっと我慢を重ねていたせいで限界を越え、逆に嫉妬狂わせようと考えたまでだ。すると、ある女性がやってきた。

「あー、詩喜君!虎ちゃん!久しぶり〜!」

「しず氏!久しぶり!生きてた?」

「全然心臓動いてた!虎ちゃんも久しぶりだねぇ」

「……雫さん、相変わらず元気だよね…仕事はどう?」

「それがさぁ……ヤクレーザー当てて痛過ぎて泣いてたお客さんいて、その親御さんに怒られて大変だったよぉ…」

「あはは。それは大変だったね……そういえば雫さんに抹茶ベーグル…はい。この和純さんと一緒に作ったんだよね」

「わぁ〜!虎ちゃんの作るパン大好きなの!ありがとう!ってか……この子が…」

「俺の妹、小沼和純……可愛いだろ?」

「可愛い〜!あ、あたし松兎雫!虎ちゃんとは高校の同級生なの!よろしく和純ちゃん!」

動画に映る彼女と今私の体を抱き締めている彼女は同一人物…。雫さんは兄と同じように変装していた。というか、初対面なのにも関わらず、よく出来るよな…と思っていた。とりあえず場所を変えようということで、某飲食店へと足を運んだ。

「和純ちゃん高校生なんだ!この前の事件、大変だったよね…よしよし」

「確かにあの時は辛かった…でもまたサロンを再開することも、やってみたかった施術も出来るようになったし、和純ちゃんも気に入ってるからいいんだけどね」

「へぇ…確か詩喜君と矢間さんが美容師…玄牙さんがメイク…虎ちゃんがボディメイクか…じゃあこの人は…?」

「この方は龍聖さん。俺達のサロンを救ってくれた恩人なんだ。矢間さんの大学の先輩でもあるんだよ……和純さんに夢中でね…」

熱々のカリカリポテトにフォークをぶっ刺し、頬張っては喋る雫さん……喉がパサパサにならないのだろうか…。

「雫さん、水も飲みなよ…」

「んぐんぐ……ありが、と!」

「本当に詩喜も雫ちゃんも良く喋るよね…疲れない?大丈夫?」

「大丈夫だよ。それでしず氏、どの店から攻める感じ?」

「そうだね……下の階の、アパレルコーナーから行こうよ…ところで和純ちゃんは骨格ウェーブ?」

「……骨格?ウェーブ?」

「そう!人によって骨格が違うんだけどね…骨格によって似合う服や自分に合ったダイエット法も分かるの!」

骨格……そういえばこの前兄に髪をカットしてもらった時に「骨格に合った髪型は…」と話していたような…。雫さん曰く、骨格は三種類に分かれているらしい。ストレートは腰が高く、上半身にボリュームがある為に立体感のあるグラマラスボディ、ウェーブは上半身が薄い為にバストは低く、柔らかなボディラインが特徴的、ナチュラルは筋肉や脂肪を感じないスタイリッシュな体型らしい。手の大きさや鎖骨の存在感の強さ、バストの位置や体の薄さなどによって決まると言われているが、似合う柄や服のタイプもそれで決まるらしい。

「そうだね…和純さんはストレートじゃないかな…」

「肩やウエストの位置が分かりやすいし、脚のラインも綺麗だからね……」

「つまり…出るところが出てるってことなの?お兄」

「あぁ。和純の年齢を考えるとまだまだ成長するな!てか下着…そろそろキツいだろ…」

「詩喜…ここで言うなよ…」

「それなら後で下着も見に行こうよっ!当たり前だけど、メンズはお留守番ね」

兄の視線が私の顔から少しは膨らんだはずの胸に移る。それと同時に龍聖さんの視線も同じように変わった。矢間さんや虎哲さん、玄牙さんは彼らの私に対する想いに対して呆れてるが、今日来てるショッピングモール内で売られている沢山の服やコスメが輝いて見えた……。




……To be continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る