⑫休憩


「あれ、和純ちゃん……髪だいぶ伸びたよね」

「だよな……だいぶ減量もしたよね……多分十キロは減ったと思う」

「和純さん…よく頑張ったね……」

「肌も艶々になってるし……でも」

「「「「髪型が………」」」」

あれから一ヶ月…兄と再会してから半年が経過した。私は十キロ程の減量に成功し、スキンケアやメイクもそれなりに上達していた。鏡を見る度に見違えった自分に驚いている……のだが、私に足りないものが一つあった……それは、髪のケアである。

「ごめんなさい………」

「いや、仕方ない…今日の午後は施術の予約も入ってないしヘアケア、やってみようか」

「賛成っ!なぁ矢間〜、和純の髪、俺ヘアアレンジしたい!」

「えぇ…お兄がやると髪の毛が……」

「和純さん、今度体育祭あるとか言ってたよね」

「そうそ………って龍聖さん」

「ふわあ…おはよう……皆勢揃いで何話してたの?」

「龍聖さんおはようございます……いずみんの髪をケアしようって話になったんです」

私の今の髪の毛はかなり悪い状態にある。私がヘアケアを怠ったせいで、髪を乾かす時に何もつけずにドライヤーで乾かしていたので、当然だが、髪はボサボサでうねりも凄いことになっている。矢間さんはそれを見て困った顔をしていた…。そんな時に龍聖さんもサロンに入ってきた。

「かなりうねってるし、パサパサだね……ヘアオイルだけつけてもあれだし、とりあえずシャンプーしようか」

「ついでに髪も整えてやろうぜー」

私がシャンプー台の椅子に座り、横になり次第、矢間さんは施術を始めた。

「あれ?和純ちゃん俺の施術は初めてだよね?」

「はい……よろしくお願いします」

「よろしく〜。このチビがどうしてもって聞かなくてねぇ…」

「そりゃ俺の方が和純のこと分かってるからな!」

「それは詩喜君と和純さんが兄妹だからでしょ」

「同じ血なのに性格はマジで似てねぇよな……」

まずはお湯で予洗いし、矢間さんはシャンプーを手に取り、手で泡立てる。サロンには沢山のシャンプーやトリートメントが置いてあり、どれも皆同じなのかが気になり、思い切って矢間さんに聞いてみた。

「お、和純ちゃんいい質問だね。シャンプーはね、その人の髪質や髪の悩みに合わせて沢山の種類置いてあるんだ。シャンプーにも色々種類があるんだよ」

「例えばノンシリコン、アミノ酸系、アルコール系とかかな……アルコール系のシャンプーは刺激が強くて頭皮に悪いから、使うのは勧めないぜ」

「へぇ……確かにうねりケアとかダメージケア、保湿ケア、ごわつきケアのシャンプーとか色々あるよね」

「そう!頭皮の肌質によってシャンプー選んでもいいし、ニオイやベタつき、育毛促進にカラーリングケア向けのシャンプーもあるよ」

矢間さんと兄が言うには、ノンシリコンシャンプーはきしませない髪に近付き、サラッと軽い仕上がりにしてくれるもの。アミノ酸系シャンプーは肌と同じ弱酸性なので髪や頭皮に優しいもの。石けんと同じ成分が配合されているため、石けん系シャンプーは肌に優しくて敏感肌や環境におすすめのものらしい……。

「そうだ。詩喜、お前龍聖さんにヘッドスパしてやれよ」

「この前和純さんから聞いて試してみたかったんだよね〜……本当は矢間に頼もうかと思ったけど、和純さんの手伝いで手一杯だから、詩喜君にお願いしようかな」

「仕方ねぇなぁ………」

二回ほどシャンプーをし、洗い流した。濡れた髪を絞り、トリートメントを浸透させる……。目が荒いコームで髪を梳かし、数分放置する。すると頭皮に圧と痛みを感じた。

「こういう頭皮ブラシあるといいよ……ヘッドスパより効果は劣るけどね」

「へぇ……痛!」

「ごめんね。これにも硬いのと柔らかい頭皮ブラシあるから、それは和純ちゃんの好みで選べばいいかな…ちなみに今はトリートメントじゃなくてヘアパックしてるよ」

「ヘアパック……?トリートメントじゃなくて?」

「うん。ヘアパックはね、毎日やる必要はなくて週に二回ほどやればベストなんだ。ダメージ補修、うねりケア、保湿ケア、ボリュームアップとかに効果がある。これは髪が濡れてる時に使うものだね」

「へぇ………」

「毛穴に詰まった角質や皮脂汚れ、人の指では取り切れない汚れも取ってボリュームアップ……ヘアケアにはインバスとアウトバスがあるんだ」

矢間さんが言うには、インバスは洗い流すトリートメントのことで、アウトバスは洗い流さないトリートメントのことをいうらしい。アウトバスのトリートメントには、水のようにサラサラなテクスチャやコンディショナーのようなとろみのあるテクスチャのものもあるらしい。もちろん、髪質に合わせて使うテクスチャのヘアケアのコスメは異なるのだとか。

「和純ちゃんは詩喜と同じ髪質だからねぇ、軽くて水分量が多いやつにしよう」

「最近これに変えたんだけどさ……髪ちゅるちゅるになるからいいぞー!」

「いずみん、どうよ?」

「すう……すう…」

「寝ちゃいましたね……あ、今日のおやつは…タルトでも………丁度冷凍庫に作ったサブレ生地と昨日の夜に仕込んだダマンドが…でも和純さんが起きてから彼女と作ろうかな…」

「この前和純さんが作ったナッツのクッキー、あれ美味しかったなぁ…何時でも嫁にいけるよね」

「龍聖さん……いずみんはまだ女子高生っす」

矢間さんの丁寧な施術により、気持ち良すぎるあまりに私は寝てしまった。後から起きて、兄や彼から聞いたが、ヘアマスクは髪質で選ぶといいらしい。

「ふわあ……」

「さっぱりしたね……俺みたいに髪が太くてまとまりにくい髪質は重めのヘアマスク、詩喜や和純ちゃんみたいに猫っ毛で柔らかい髪質は水分量が多くて軽めのヘアマスク、虎哲君みたいに広がりやすいくせ毛は油分が多く含まれたヘアマスクがいいんだ」

「そうそう。アウトバスで使うヘアミストやヘアオイルも髪質によって選んであげれば最高だよ。ヘアミストは猫っ毛向け、ヘアオイルは固くて太い髪や広がりやすくごわつく髪に向いているんだ」

「へぇ……」

「そうそう。それで今ヘアマスクしてるんだ。これはシャンプーしてコンディショナーつける前に塗って、十五分くらい置けばいいよ」

「十五分……」

「その間に湯船に浸かったり、顔や脚のマッサージでもするとよりいいぞ」

「あれ痛いんだよ……やると痣出来るもん」

ヘアマスクをし、コンディショナーを馴染ませ、お湯で乳化させてから洗い流す。バスタオルで水気を拭き取り、兄がヘアミルクを手に取り、私の髪に馴染ませる。

「これはヘアミルク、いつも塗ってるやつね。ヘアミルクは乾燥による枝毛や切れ毛を予防するんだ。これはヘアオイルの前に塗ってあげるといいかな」

「ヘアオイル先に塗ると、ヘアミルクの水分が入らなくなるからね……ヘアオイルは髪の毛一本一本をコーディングして、外部からの刺激や負担を減らすものなんだよ」

荒めのコームで髪を梳かし、ドライヤーを掛ける。八割ほど乾いてきたら温風から冷風にし、髪のキューティクルを閉じる。これだけで髪はサラサラになったのだが、最後にヘアオイルを塗っていい感じになった。

「さっきとは全然違いますね…」

「すっごいサラサラ……さすが矢間だよな」

「わぁ……髪サラサラ!矢間さん、お兄…ありがとう!」

「髪サラサラな和純、可愛い……」

「ちょ…お兄……暑苦しい」

「和純さん、本当に綺麗になったね……」

「いつも同じ位置で髪を結ぶと痛む原因にもなるから、学校以外ではこのヘアクリップで髪を纏めてあげてね」

「ありがとうございます!あ、ハートのヘアクリップ……可愛い!」

紺色のハートのヘアクリップで髪を纏められ、ヘアケアは終了となり、矢間さんが今度最近流行りのリバースケアをしてみようと言ってくれた。そして……

「和純さん、そのヘアクリップいいね。丁度今サブレ生地とダマンド常温に戻してるから、一緒にタルト作ろうか」

「タルト!私作ってみたかったんですよ!やった〜!」

「妹のいずみんが料理出来て、兄のお前はなんで料理下手なんだよ…」

「一応頑張ってはいるんだよ?」

「ははっ今度詩喜君にも料理教えるよ……今朝のランニングの時に、ジムの利用者様に会ってね、採れたてのイチジク頂いたんだ……和純さん、行こうか」

虎哲さんと一緒にタルトを作った。最近ハマってることはお菓子やパンを作る動画を見ることである。もちろん調理師免許のある虎哲さんから料理を教わることも多く、今日は旬のイチジクのタルトを作った。サブレ生地を伸ばし、型に敷き込んでダマンドを絞る…。

「虎哲さん、このダマンド?って何が含まれてるんですか?」

「ダマンドはね…アーモンドクリームのことさ。タルトに使われることがメインなんだよね。バターとアーモンドプードル、粉糖に卵…それらが主な材料だよ」

「へぇ……この前見た動画……カスタードクリームも入ってたものもあったような…」

「それはフランジパンというんだ。ダマンドとカスタードクリームが同割で混ざったやつ。切ったイチジクをこのダマンドと一緒に焼いちゃおうか」

ダマンドはアーモンドクリームを意味する…フランジパンはカスタードクリームとそれを同割で混ぜ合わせたもの。切ったイチジクをタルト生地に絞ったダマンドと一緒に焼き込み、三十分が経過した。

「玄牙……さっきから虎哲君の言ってること分かる?」

「いや…分かんね……矢間は?」

「俺もだよ……初めて聞いたよ、ダマンドって」

「エプロンしてる和純さん……ふふっ」

「気持ち悪ぃな……和純、エプロン似合ってるぞ」

「あはは。さ、和純さん……そろそろ焼き上がるよ」

矢間さんと玄牙さん、兄と龍聖さんは私達がタルトを作っているのを見てる。やがてオーブンの音が鳴り、虎哲さんがオーブンを開けると、アーモンドの香ばしく甘い香りとイチジクの甘酸っぱい香りが部屋中を漂わせた。

「やべぇ……めちゃくちゃいい匂い…」

「本当に虎哲君料理上手だよね…和純さんも楽しそう」

「美味しそう……早く食べたい…」

「冷めてからね……とりあえず型から外して…粗熱取ってる間にクリーム作ろうか。イチジクはナッツと相性抜群だし……とりあえず生クリーム泡立てようか」

生クリームを泡立てたり、ナッツをローストしてるうちに焼いたタルトは粗熱が取れていて、一度冷蔵庫に入れている間に洗い物も済ませた。デコレーション用に切ったイチジクを飾り、ローストしたナッツを散らばせ、生クリームを絞ってイチジクのタルトは完成した。

「めちゃくちゃ美味しそう……プロじゃん」

「写真撮ってもいい?」

「ぜひ。写真撮るなら金粉をほんのり乗せて…」

「……まぁ、今日ぐらいいいよね」

「いいんだよ。減量が停滞していたらチートデイ……ダイエット中に好きなものを自由に食べる日が必要だよ……ダイエット中はお菓子や油ものを我慢すべきだけど、たまには食べても大丈夫さ」

タルトを切り、コーヒーや紅茶を入れ、皆で食べている。やっぱり虎哲さんのチョイスは天才的で、ナッツとイチジクは予想以上に相性抜群だった。すると彼は席から立ち上がり、冷蔵庫から何かを取り出した。兄が気になって見に行くと……

「虎ちゃんこれ何……?」

「モンブランだよ。和純さんと玄牙さんが好きそうだなと思ってチョコレートも入れて作ってたのを忘れてたよ」

「虎哲君は本当に凄いね…俺もそれ食べたい!」

「俺も食べたい!てか今夜は…どっか食べに行かない?」

「何だよあんたいいやつじゃん…和純、龍聖さんの財布が終わるくらい遠慮なく食えよ」

「ぇぇ……龍聖さんの財布が…」

「和純さんの為なら全然問題ないよ。とりあえず決まりだね」

兄や虎哲さんが言うにはダイエットにも美容にも……何事にも休憩は必要だということ。私的には目標体重は達成してるものの、もう少し減量したいが停滞期なので、今日はチートデイということで、久しぶりに甘いものや食べたいものを沢山食べた。美味しそうに食べてる私を見て、龍聖さんはほっとしていた。








……To be continued

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