⑪二日目にはご注意を。

「ぅぅ……痛い……」

「和純〜?朝だぞ……」

「お兄………お腹痛い……」

「んん〜?もしかして…月一で来るあれか…」

起床と同時に女性特有の痛みが私の下腹部と精神を襲う。そう、私は昨日から生理が来てしまっている。生理は簡単に言うと、使用しなかった子宮内膜が血液と共に体外に押し出される時期で、女性なら誰もが通る道だ。人によっては生理痛の重軽があり、経血の量も異なる。もちろん私も生理痛が重い側の人間である。兄も私の生理事情を理解しているのが救いであるのだが……

「とりあえずハーブティー飲むか…立てるか?とりあえずこのパックして、歯磨いてこい」

「うん……いてて…」

「確か生理って………いつもより疲れやすかったり、眠かったり熱っぽかったり……するんだよな……確かにお前この前虎ちゃんに隠れてドカ食いしてただろ……」

「ごめんなさい…」

「生理というのもあって肌も若干荒れてるな…」

生理に対する知識も乏しい…。虎哲さんも私の生理については理解している。何とかスキンケアと歯磨きを済ませ、制服にも着替えた。今日も学校があり、しかも体育まである…最悪な日である。

「おはよ……ございます…」

「和純ちゃんおはよう…今日顔色悪いけど、大丈夫?」

「矢間さん……和純さん、今生理中なんです」

「そうだったのか…ごめん。俺達もサポートするから、辛いかもだけど何とか耐えてくれ」

「和純さんも……女性なんだね…」

「いずみん……肌荒れしてる………」

ある程度身支度を済ませ、リビングに行くと、既に虎哲さん、玄牙さん、矢間さん、龍聖さんが座っていた。家庭環境や例の事件により、私の生理が来てない時が続き、久しぶりに最近生理がきたのだ……。それにしても下腹部が痛い…。油断して下腹部に力を緩めると、経血がドバっと出てしまう…。

「とりあえず座りなよ…ハーブティーも淹れたし、ご飯はしっかり食べないとダメだからね」

「虎哲さん……ありがと…ござい…ます」

「生理の時………眠気、倦怠感、イライラ、集中力低下、浮腫みやすい……乳房が張る?」

「ぶふーっ!」

「龍聖さん………汚い…です」

「げほっ!けほ!いや、ごめんね……」

「人によっては二カップぐらいサイズ違うらしいぞっ!」

兄がとんでもない発言をしてしまい、龍聖さんはコーヒーを吹き出し、矢間さんに掛かってしまった。乳房の張りも、生理による症状の一つであることも間違いではないのだが、兄にはもう少し空気を読んで欲しいものだ…。

「お兄最低……」

「そうだぞ………」

「乳房の張り、ねぇ………」

「龍聖さんまで……」

龍聖さんの視線の方向が矢間さんから私の胸に変わる。慌てて胸を隠すが……まだ成長するのかが不安だ。矢間さんはシャワーを浴び、私達は部屋を後にし、サロンや学校へと出かけた。


「眠いなぁ……」

「……ねぇねぇこの前見たんだけどさ…小沼さんがサラリーマンと歩いてたの…」

「嘘でしょ……何?パパ活?」

「お兄ちゃんお金持ちなのに……あ、実は男好きだったとか?最近綺麗になって調子乗ってない?」

生理痛が酷いあまり、座ってるだけの授業は何とか受けられ、虎哲さん特製の栄養満点のお弁当も頑張って食べた。そして午後は体育の授業…しかもよりによってバスケの授業…運動は苦手ではないのだが、とことんついてない。しかも体育の担当教師は、美容系YouTuberこと詩喜の妹である私を毛嫌いするようになり、私が転んでも見学はさせてくれなかった。

「いてて……」

「小沼さん………早く立ちなさい?」

「いや私…生理痛で…」

「それはお兄様に解決してもらえば?ほら立って」

「…………このババア」

「……何ですって!」

「あーあ。詩喜君、昔は荒れてたから、遺伝してるのかも……怖い…」

確かに、龍聖さんと街を歩いて二人きりでご飯に行ったのも間違ってはいない。でも私と彼には歳の差があり、それを見てパパ活と言う人も少なくはない。貧血で無理やりだるい体を起こすと、私の体は横に傾き、体育館の床に強く打ち付けた。

次に目を覚ますと、サロンの休憩室にいた。


「ここは…?」

「サロンだよ。和純さんが倒れたって…虎哲君から聞いて……俺が連れて帰ったの」

「龍聖さん……ありがとうございます」

「ううん…とりあえず、事情は分かったよ。和純さん……本当にごめん。俺の自覚なしに君が辛い目に遭ってたなんて…」

「いえ…龍聖さんは何も………」

龍聖さんに頬を撫でられ、私は安心する。私が倒れた後、学校からサロンへ電話が来たが、矢間さんも玄牙さんも、兄も虎哲さんも…皆施術中で私を連れて帰れない状況のなか、たまたま外回りで学校近くを通っていた龍聖さんに連絡がいき、連れて帰ったという経由に至るらしい。すると施術を終えた兄が休憩室に駆け込んできた。

「い、和純っ!お前……学校で倒れたとか大丈夫なのかっ!」

「こら詩喜君……和純さんを休ませてあげて」

「ごめんな…本当にごめん。よく頑張ったな」

「お兄…龍聖さん……」

「和純ちゃん、大丈夫?ほんとにあの先生非常識だよ……生理を理由に体育の見学させてくれないなんて…」

「矢間ぁ………和純が辛そう……」

「とりあえずハーブティー淹れてくるよ」

兄は私の姿を見るなり抱き締めてきた。生理痛が酷いあまり、兄が異常なシスコンということをすっかり忘れていたところに、丁度施術を終えた矢間さんも休憩室に来て、私に温かいハーブティーを持ってきてくれた。

「和純ちゃん、ハーブティー飲めそう?」

「待て、俺がフーフーしてやる」

「お前のシスコンっぷりには呆れるよ…」

「お兄怖い……矢間さん、ありがとうございます」

「ううん……この調子だとご飯食べるのは厳しそうだね…」

暫くして休み、夜になった。が生理痛の辛さは相変わらずで、ご飯もあまり食べれなかった。手で箸を持ち、食べ物を口に運び、歯で噛み砕いて飲み込む作業を繰り返す…。そう、生理中の食事や風呂は生活習慣ではなく作業だ。作業以外、当てはまる言葉がないくらい…生理というのは当たり前の習慣をこなすのが難しいものだ。何とか食事は終わり、入浴へとなったのだが………

「和純ー、風呂で汗流してこい」

「体が……重い…」

「困ったなぁ………風呂まで連れてってやるから、頑張ってくれ」

生理中は日頃のイライラも倍増してて、情緒もよろしくない。兄に首根っこを掴まれ、洗面所まで連れてかれた。クレンジングをし、髪を梳かす。服も下着も脱ぎ、風呂へと入る。バスチェアに座り、ひと息つく。体が言うことを聞かず、ただ鏡の前でぼーっとしている。生理前は肌の調子が不安定になりやすい……どおりでニキビができてしまっている。すると、浴室に誰かが入ってきた。

「お、お兄……」

「大丈夫か?シャンプーしてやる」

「…………嘘でしょ」

兄だった。幸い、兄はTシャツとハーフパンツというシンプルな格好だった。矢間さんと同じ、兄も美容師の資格も持っているので髪に関しては詳しい……。私は体の前を洗い、兄は背面を洗うことになった。

「生理中は、髪がベタつきやすくなったりパサつきやすくなったり、抜け毛が増えるらしいな……」

「ベタつきとパサつきか……」

「エストロゲンが弱まって、皮脂の分泌が増えることでベタつきやすくなる。あとホルモンバランスの乱れや貧血、頭皮の栄養不足によってパサつきやすくなるし抜け毛も増えるんだ」

「へぇ……それらはどうすれば改善できるの?」

「頭皮マッサージだ……ヘッドスパ。風呂から上がったら体験してみようか」

ヘッドスパというのは、いわゆる頭皮クレンジングや頭身浴のことで、頭皮の毛穴の皮脂詰まりやたまった汚れを浮かして落とす施術のことをいう。それにより、リラックス効果はもちろんだが顔の血色が良くなり、リフトアップや小顔効果、目の疲れや肩こり、首こりの予防にも繋がる。何とか入浴もボディケア、スキンケアも終わり、サロンに移動してヘアメイクスタジオに入った。

「とりあえず、歯磨きも済ませたし、寝なよ」

「うん……」

「よし、それじゃ始めるぞ」

「うーっす……って、和純ちゃんに詩喜…何してんの?」

「シャンプーついでにヘッドスパ。今体洗ってボディケアとスキンケアは済ませたんだよね」

「なるほどね……」

「あ、いずみん。大丈夫か?おいチビお前さ…生理中は肌がより乾燥しやすいんだよ」

兄がシャンプーを始めようとすると、矢間さんも玄牙さんもサロンに入ってきた。どうやら私が心配で来たらしい。それに玄牙さんは保湿のパックを渡したかったようだ。ありがたくそれを受け取り、兄はシャンプーとヘッドスパを始めた。

「かなり抜け毛があるな……」

「確か生理中は髪がパサつきやすいんだよね…保湿系のヘアヘアのコスメ使おうか」

「洗い流さないトリートメントか……いいな」

「最近俺使ってるけどお気に入り。スペシャルケアとして使えばいいさ」

「ヘッドスパだなぁ……めちゃくちゃ凝ってるじゃん……」

「生理が終わるまではしっかり休ませてあげよう」

シャンプーが終わり、ヘッドスパに取り掛かろうという時に、私は眠ってしまった。頭皮をクレンジングしたりゴリゴリとマッサージしたりなど…血流が良くなったせいか頭皮の凝りが和らぎ、気付けば眠ってしまった。次に目を覚ますと、龍聖さんの部屋で眠っていて、髪も肌もつやつやになっていた。

「髪……艶々……ふふっ」

「お、和純さんおはよう。落ち着いた?」

「龍聖さん…おはようございます。まだ辛いですけど、昨日より落ち着きました」

「それは良かったね……というか、髪サラサラだよね…詩喜君、流石」

「ヘッドスパ凄かったですよ……今度龍聖さんも試してみて下さいよ!目の疲れや肩凝りの予防、リラックス効果もあるんです」

「へぇ……今度矢間にお願いしようかなぁ…」

一番生理が重い日を乗り越え、徐々に生理が終わりを迎えていった。昨日を気に龍聖さんとの距離も縮まっている気もする。学校は相変わらず憂鬱だが、このサロンの皆がいる限り、大丈夫だろう…。





……To be continued

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