⑩化け化け
「目の下にクマが少しあるな………少しはマシになったが、コンシーラー使おうか」
「コンシーラー……?」
「うん。クマや赤みとかね、肌の悩みを隠すために必要な、部分的なファンデーションさ。これも色によって使い分けるんだよ」
化粧下地を塗り終わり、次はコンシーラー……だ。それは肌の悩みを隠す、部分ファンデーションのことを指す。化粧下地同様、グリーンは小鼻や頬の赤み…口の両端に、オレンジは産毛の剃り跡やクマに、ベージュは毛穴に、ピンクはハイライト代わりに使えるらしい。先程化粧下地には、クリーム状のものだけでなく、液体状のものもあると教わった。極小量のコンシーラーを目の下や口周り、小鼻に乗せ、二分ほど置いてからスポンジで馴染ませていく。
「あ、ちなみに手で塗ってもいいんだけど、こういうブラシやスポンジ、スパチュラを使った方が綺麗な仕上がりになるぞ」
「そうそう。ブラシは色ムラが出来ることなく塗れるし、スポンジは余分なコンシーラーとかを取りながら馴染ませられる。スパチュラは薄く均一に塗れるんだよ」
「よし、次はパウダーでベースは終わりだな。パウダーにも色んな種類あるんだけど、今日はフェイスパウダーでいくね」
「はい」
大きなブラシにフェイスパウダーを取り、優しくパウダーを塗られていく。フェイスパウダーを塗り終わると、肌色が均一で元から綺麗なベースメイクが完成した。
「もうこの時点で……和純さんは綺麗だね」
「龍聖さん……いずみんは更に、更に化けますよ」
「詩喜、お前が使ってる眉毛のコスメは…何だったっけ……」
「丁度今手元にある。ほら」
「ありがとう……でもいずみんの眉毛は濃いめだから、ペンシルで足りない毛を描いて、眉マスカラで色を変えよう」
「眉マスカラ……?」
「そう。眉マスカラはね、眉毛の毛流れを整えたり、眉毛の色味を変えられるんだ。眉毛がふんわり仕上がると、目元や鼻筋に陰影が出来て、目元の印象が強まるんだよ」
兄は玄牙さんに、普段使っている眉毛のコスメを渡した。兄とは同じ遺伝子だが私の場合は眉毛が兄より若干濃いめなので、眉マスカラで眉毛の色を変えた。眉毛を往復するように塗ると、眉毛がふんわりと仕上がっていた。
「おお……」
「凄いだろ?次はシェーディングだな……いずみんはこのチビと似て顔小さいからな…鼻と口元だけでいいかな」
「シェーディングはね、顔に立体感や陰影を作り出せるんだよ。顔の形や鼻の形によってシェーディングの入れ方は違ってくる」
「へぇ……あ、でも少し小鼻小さくなったかも」
「だろ?和純は俺に似て素がいいからな!」
「次はハイライトな……鼻を高く見せたり、頬をふっくら見せたり、透明感や顔のメリハリを引き出せるんだ」
玄牙さんが言うには、シェーディングは小顔効果だけでなく、人中を短く見せたり口ゴボを解消させることも出来る。ハイライトは肌を明るく見せたり、アイシャドウやチークを引き出せることも出来るものである。そして…個人的に一番興味があった、アイメイクに移った。
「お次はメインのアイメイクだ。いずみんはブルベ冬だから……今日はボルドーのアイカラーでいこう」
「俺に似てぱっちり二重だし、映えると思う……ラメはベージュでいいな」
「だな……あ、アイシャドウを眉尻に乗せると統一感出るよ。目の形、出目か奥目か、目の縦幅横幅によってアイシャドウの塗り方も変わってくる」
「出目は横から見た時に目が眉骨より出てる状態、奥目は逆に眉骨より奥に入ってる状態なんだ。目の形は一重か二重、奥二重って分けられる」
兄が言うには、出目はぱっちりとした目元が印象的なため、少しのアイメイクでも派手に見えてしまうので明るめのアイシャドウは不向きであり、逆に奥目は目が小さく見えるため、ピンクやオレンジといった明るめのアイシャドウが適切らしい。玄牙さんはベージュのカラーを小さいブラシに取り、私の瞼に塗っていった。
「今日は基本的なアイメイクしてくね。まずはベースのカラーをアイホール全体に塗っていく。次に次にこの赤を二重幅に……そしてこのメインのボルドーを目尻に塗る。これだけでも似合うな」
「あ……龍聖さん…寝てる……」
「……昨日出張だったからね………後で疲労回復のご飯、作ろうか……」
「私も手伝いますっ!」
「ありがとう。今日は……疲労回復の豚のヒレ肉でなんか作ろうか」
「まだまだ十七歳のお前に花嫁修行は早過ぎるぞ……」
「このラメなんだけど、黒目の上に置くだけでも雰囲気が変わってくる。でも瞼全体に塗るのはやめた方がいい」
玄牙さんは私の瞼にラメを塗った。すると、思った以上に自分に合ったアイメイクが完成しようとしていた。すると玄牙さんは更に小さいブラシを手に取り、更にアイメイクを進化させた。
「次は締め色だね……本来なら睫毛の生え際にやるのが古いやり方なんだけど、今は目尻に使うことが多いんだよ」
「そうそう。目尻の目の際に塗ると白目拡張で目が大きく見える。もちろん下瞼に入れても可愛いぞ」
「本当だ……」
「下瞼にはピンクや赤などの血色を出す色とか……影を描くペンシルもあってね…それを使うだけでも違ってくる」
「俺もこのペンシル使ってるよ。てかアイライナーどうするの?」
「やべぇ、忘れてた!いずみんごめん!アイライナー先だったわ。ほら、こんなに種類がある」
締め色を目尻に塗った後に、玄牙さんはアイライナーというペンのようなものを三本出した。それは目元の輪郭を強調し、目元の印象を際立たせるものであるらしい。
「まずはジェルライナー。とにかく落ちにくくてはっきりとしたラインが描きやすい。これはペンシルね。ぼかすのも簡単で、細いも太いも自由自在に描ける。最後にリキッド。ツヤのある発色で、はっきりとしたラインが描きやすい」
「カラバリも豊富で、最近発売したコレも可愛いだろっ!秋っぽいグレージュのアイライナー、これお気に入り」
「わぁ、可愛い………アイライナーって確か…睫毛を埋めるように描くって…」
「それもあるけど、目尻にサッと描けば十分」
アイライナーにも種類があるのだと知った。兄のお気に入りである、マロングレージュのアイライナーでアイラインを描き、涙袋へと移った。影様のリキッドライナーで涙袋の影を玄牙さんが描く。さすがメイクアップコンテスト世界大会出場の実力者…クオリティが違い過ぎる。普段の学校メイクでも涙袋の影は描いてるが、アイブロウパウダーの薄い色を描いているだけ……。涙袋の中心に濃いめのパウダーを乗せ、涙袋を更に強調させる。
「この影用のリキッドライナーは涙袋だけじゃない……二重幅の延長を描いて……ほら、目が大きく見えるだろ?」
「わぁ……凄い」
「これがメイクの力さ。涙袋にもラメは入れた方が可愛いからなっ!」
「次はマスカラだろ……言い忘れてたけど、睫毛を上げるビューラーも、目の形によってものが違うからな」
「そう。一重用のビューラーもある。まずビューラーで睫毛上げて、下地を塗って……出目の場合はロングのマスカラを塗ってな……」
「マスカラはね、下地とマスカラが一緒になってるものもあるんだ。でもダマダマ睫毛だとせっかくの和純が台無しになっちまうから…マスカラコームで綺麗な睫毛にしてあげな」
病院に置いてあるような、小さなコームはマスカラコームといい、マスカラによるダマを無くすことで真っ直ぐで綺麗な睫毛に仕上がるものらしい。マスカラコームで睫毛を梳かした後に、もう一度ビューラーで睫毛を上げた。マスカラには三つのタイプがあり、一つ目は睫毛の長さをカバーしたい時のロングタイプ…二つ目は下向き睫毛をカバーしたい時のカールタイプ…そして、最後は睫毛の量をカバーしたいボリュームタイプ……。私の場合は兄と似て睫毛が長いものの、若干下向きで量も少ない方である。すると矢間さんがあるマスカラを玄牙さんに手渡した。
「ボリュームとカールか……いいね。それに繊維も入ってるからいずみんにピッタリだな」
「繊維……?」
「マスカラにはね、人工の繊維が入ってるものがあるんだけど、ボリュームや長さを増やす効果があるんだよ」
「そうそう。マスカラにラメが入ってると……睫毛に輝きやツヤを与える効果もあるとか……」
「虎ちゃん分かってんな……和純、アイライナーとマスカラの色の組み合わせでメイクはかなり変わるから、覚えときな…」
そして次は……チークへと移った。兄が言うには、チークは血色巻やど立体感、陰影を出すためのものであるという。
「今日は和純ちゃん、合うチークを色々用意してたんだ。今日はこのカシス系でいこう」
「チークって確か……クリームのと、パウダーのがありますけど、どう違うんですか?」
「いい質問だ。パウダーのチークは軽いつけ心地でふわっと仕上がる。逆にクリームのチークは水分を含んでる分肌に馴染みやすい」
「リキッドのチークもあるんだけど、リキッドチークは持ちが良いんだ。持ちを長くしたいならクリームチークつけてからパウダーのチークを重ねる方法もある。顔の形にも合わせて塗ってあげないとね」
チークをスポンジとブラシを使って重ね塗りしていく。すると血色の良い頬となっていた。玄牙さんチョイスのカシス色……妖艶な色をしていて、私の肌に馴染んでいた。兄が言うには、鼻や顎にブラシで乗せると人中が短く見えたり、顔全体が引き締まった印象になるらしい。
「よし、最後は……リップだ」
「ブラウンにオレンジ…ピンク………今日はこのレッドブラウンでいこう」
「レッド……ブラウン…?」
「そう。カシス色に近いやつだな……まずは下地を塗って、唇の縦じわを消す」
「次に濃いめのリップを唇の内側に置いて、外側にぼかしていく。これだけで可愛いね」
「そしてこのグロス…じゃない……もっかいプランパーを塗って、グロスを重ねです完成だ」
「アイシャドウとリップの組み合わせが大事だよ。和純さんお疲れ様」
「わぁぁ……」
赤リップには肌馴染みの良いベージュのアイシャドウ、オレンジ系のリップにはベージュやブラウンといった控えめなアイメイクを、コーラルリップにはベージュがよく合うらしい。それにチークの色味とリップの色を合わせると統一感が出て、ちぐはぐな感じが無くなるのだとか。ようやく、私の顔が完成し、鏡を見ると、驚いてしまった。
「これが……私…?」
「すげぇだろ?お前が言ってたコンプレックスも全部消えてるだろ?」
「うんっ!ありがとうっ!」
「あぁ。ほら和純ちゃん、先輩起こしてあげて?」
「あはは………龍聖さん、龍聖さん」
化粧をした私を見て、龍聖さんがどんな反応をするのだろうか…。矢間さんに言われて私は隣で寝ていた龍聖さんを起こしてみた。すると彼はすぐに起き、私の方を見ると………
「わ、わわっ!誰この美人さんっ!」
「和純ちゃんですよ……こんなに化けちゃって…」
「まあいずみんは、このチビと似て素材も良いんで」
「にしても化け過ぎだろ……可愛いぞ、和純」
「こんな可愛い子に……和純さんが化けるなんて…」
顔を真っ赤にし、慌てていた。私から見ると、ただ化粧をしただけなのに、龍聖さんから見ると、美人に化けているらしい。年齢と身長に見合わず、顔を赤く染めている龍聖さん……。
「どうだ美容の力思い知ったか…」
「あ、あぁ……和純さん、綺麗だよ。化粧しなくても全然綺麗だけどね」
「……………はい。龍聖さんも素敵です」
「ありがとう。いやぁ、俺が寝ている間に和純さんがこんなに綺麗になるとは…」
「和純さん、ご飯作るよー。龍聖さんと玄牙さんはそのままごゆっくり。和純さん行くよ」
「はぁーい」
私は虎哲さんの後ろを歩き、わざと振り返り、龍聖さんに笑顔を見せた。すると龍聖さんは胸を抑え、悶えていた。私達はその様子を見て笑い、この後ご飯を皆で食べて、一日を終えたのであった………。
……To be continued
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