第7話 泣いている人は幸いです

私は、A県Y市に出発する前に、Y市の情報とキリスト教について調べてみることに決めた。図書館に行こうかとも思ったけど、簡単な情報ならインターネットで調べられるから、自分の部屋で横になりながらスマホをいじった。

Y市はA県南部にあり、人口は約4万5千人。お酒とうどんが有名で、水が綺麗で自然豊か、農作物も豊富らしい。私は、ネットに上がっている写真を見ながら、こんな田舎なのにどうしてキリスト教の教会があるのか不思議に思った。こんな田舎こそ仏教なり神道が盛んなものじゃないだろうか?そう言えば、お父さんがY市に行った時、牧師先生は信徒の過疎化で閑散地に教会を移して自給自足の生活をしてるってお母さん言ってたっけ。やはり、最初に思った通り仏教や神道の信仰が根強い地域なのかもしれない。そんな、異端子的な環境にも関わらず、地元民から慕われているとは牧師先生の人柄は相当なものだろう。お父さんではないけど、牧師先生に対して調べれば調べるほど興味が増していった。まだ見ぬ牧師先生をイメージしながら、次はキリスト教について調べてみる事にした。

キリスト教は、イエス・キリストを主として信じる宗教で聖書の教えを教理として、キリストの行いと教えに従って生きているらしい…てっきりイエス・キリストと言う名前かと思っていたけどキリストと言うのは救世主と言う意味で、救世主のイエスという事でキリストは名前ではないらしい、生まれて初めて知った。聖書は旧約聖書と新約聖書があって旧約聖書は、ユダヤ教やイスラム教の聖典でもあるけど、新約聖書は、キリスト教のみの聖典らしい。ユダヤ教は、イエスを殺した張本人の宗教なので仲が悪い。また、イスラム教は、イエス・キリストはあくまで預言者の一人で根本的に教理が対立してしまっている。私は、ここ現代の宗教戦争の根本的な問題はここにあるのかと思って、なんだかやるせなくなった。各々、自分の信じる宗教を純粋に信じれば信じるほど排他的になる矛盾に私は恐ろしいとさえ思った。さらに、調べてみるとキリスト教、ユダヤ教、イスラム教は一神教で仏教や神道の様な多神教でなく、仏像や御神体に手を合わせて祈るのを毛嫌いする傾向があるらしい。実際、旧約聖書では、ユダヤ人が御神体を作ったら神様から天罰を喰らって何千人とも死んだと書かれているらしい。私個人には、自分を祈らないかと言って容赦なく信徒の命をあっさり奪うと言うのは、いかがなものかと思わざるを得なかった。

一通り調べ終わるとスマホを放り投げて目を閉じた。


ー お父さん、一体、何がそこまでお父さんを変えてしまったの?ー


私は、しばらくの間、私なりに考えてみたけど結局いくら思いあぐねてもどこへも行きつがず、わからないままだった。そして、結果として私の出した答えは、行かなくてはわからないだった。


ーそして、モヤモヤして気持ちを持ちながら出発の日を迎えたー


私はとりあえず3日分の着替えと化粧品一式などをキャリーバッグに詰め込むと


「お母さん、おばあちゃん行ってくるね、」


「ことは、行ってらっしゃい。」


「ことはちゃん、気をつけるのよ。」

 

私は、2人に手を振りながらタクシーに乗り込むと東京駅へと向かった。


「お客さん、1人旅ですか?」


初老の穏やかな顔をした運転手さんが気さくに声を掛けてきた。


「ええ…ちょっとA県まで…」


運転手さんは、ニコニコ頷きながら


「そうですからA県ですか、いやね、僕A県Y市の出身なんですよ。あそこは、緑が豊で水が綺麗で…」


私は意外な所から、Y市の情報が出てきた事に、一瞬面を食らった。私は何かの導きに違いないと、興奮しながら


「運転手さん、Y市出身ならキリスト教会の松田牧師先生をご存知ですか?」


後部座席から身を乗り出す様に運転席に詰め寄ると


「知ってるも何も、松田先生は僕の育ての親ですよ。お客さん、もしかして松田先生に会いに行くつもりなんですか?」


「そうなんです。どうしても松田先生に会って聞かなくてはならない事があるんです。」


運転手さん、さっきまでニコニコした笑顔が打って変わって消えて沈んだ表情で


「松田先生は、五年前に亡くなられました…今は、宣教師だった息子さんが代わりに教会を運営していると言う話です…」


私は、一縷の希望が途絶え目の前が真っ暗になった。


ーもう、全ては闇の中なんだろうかー


そんな絶望に浸っている私を励ます様に運転手さんは


「お客さんが何のために松田先生に会いに行くつもりかわかりませんが、息子の清先生も立派だと言う話ですよ。」


そして運転手さんは、バックミラーでチラチラ私の様子を見ながら


「松田先生の教えは、間違いなく清先生に受け継いでいますよ。よく同じ松田先生に拾ってもらった仲間達から、清先生は親の松田先生と何から何までそっくりだと言う話です。何より、松田先生はよく希望を失っている人に言う言葉あるんですよ


ー 泣いている人は幸いですー


その人は後に必ず笑うから


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