第6話 1人でも立っていけるよ

私は、お母さんの語る言葉一つ、一つを噛み締める様に聞いた。そして、お母さんの私の記憶にないお父さんの話を聞き終えると、心の中に何か、得体の知れない感情が湧いてきた。悲しみ。憎しみ。失望。何より、私が本当にお父さんとお母さんの子供でなく、拾われてきたという事。その拾ってきた、お父さんは、キリスト教と言う宗教に忠実になるあまり死んでしまったと言うこと。私たち残った家族も顧みずに。私は、自分の本当の親が誰で、お父さんをそこまで変えたキリスト教が一体何なのか知りたいと思った。

いや、知りたいじゃない…知らなくてはならないと言う脅迫観念に似た感情を覚えた。

私は、自分から心に問いかけて、確信を、得て決意する様に真剣な眼差しでお母さんを見つめると


「私、お父さんが変わってしまった原因の、A県Y市に行こうと思う。」


と私が言うと、お母さんは今までに見たことない様な悲しげな顔で


「ことは、あなたまでお父さんと同じ道を行くの?お父さんみたいに私たちを置いて行くの?もう、私は嫌よ。この世に大切な人がいなくなる気持ちをまた再び味わうなんて…それとも、ことはの実の両親を探しに行くの?例え、私やお父さんと血が繋がっていなくても私たちは、本当にあなたを実の子供と思っているわよ。それに何か不満とかあるの?私たち、本当にあなたを愛しているのに…」


と、お母さんは、ひとみからポロポロと涙が溢れて溢れていた。


私は、お母さんを優しく抱きしめると


優しい口調で


「違うの…私は、お父さんやお母さんに不満があるんじゃないの。それに、お父さんみたいにキリスト教を信じたいから、行くわけじゃないの。」


お母さんは、泣いて真っ赤になった目を私に向けて


「なら、行かなくてもいいでしょ。ここで、私たちといっしに仲良くお店をやっていた方が…」


と、お母さんが言い終える前、私は遮る様に


「私は、知りたいの。私に流れる血はどこから来てどういう風にこの世に出たのか…そして、捨てられた何の縁もない私を拾う決意をさせたお父さんの決意の原因を…」


お母さんは、黙って私を見つめて私の決意を問うかの様に


「ことは…いい?恐らくあそこにはあなたが知りたくない、きっと絶望する様な出来事が待っていると思うの…それで、あなたの心が残酷な現実によって張り裂けて黒く沈んでしまうのよ…私には、わかるの…それが、わかっていて自分の大事な娘を行かせるなんて私はさせたくないのよ…」


わたしの胸の中で嗚咽を漏らしながら語る、お母さんの頭を撫でながら


「お母さん、大丈夫よ。私は、私で変わらないし、どこかへ消えたりしないわ。ただ、私の本当の真実と、お父さんが私たちを残して旅立った原因を知りたいだけなのよ。」


お母さんは、小さな声で


「ことは…決意は変わらないのね…」


お母さんは、涙を拭うと、打って変わって明るい口調で


「なら、旅程を決めて、準備しなくちゃね。」


と言って、お母さんは、スマホを取り出すと


「最近は、本当に、便利なったわねぇ。これ一台で全て予約できるんだから。」


とお母さんは、にっこり微笑んだけど、それが不安を押し殺した形だけの笑顔なのは私にはわかった。


お母さんは、スマホを弄りながら


「ふんふん…A県には新幹線が東京駅から出てるんだ。お父さんの頃にはなかったのに…昔隣のY県から新幹線で行ってその後鈍行に乗り換えるから、めんどくさいってお父さん、出発する前によく言ってたわねぇ…ことは、ゴールデンウィーク以外なら予約は取れるけどいつにする?」


私はカレンダーを睨みながら、しばらく考えて


「なら、5月の末にしようかしら…それまでにそのY市について調べておきたいから…」


お母さん、さっきまで泣いていたとは思えないくらいのハイテンションで


「なら、5月21日にしましょう。大安だから縁起がいいからね。」


と、お母さんはカレンダーを指した後、ポチポチ再びスマホ弄りを再開した。


そして、しばらくした後スマホから顔を上げて、私に向かってやり切った様な満足気な笑みで


「ことは、予約したわ。5月21日の午前9時の新幹線。お昼に着いて終点駅から鈍行に乗り換えるけど、路線は一本しかないから初めて行っても迷わないと思うわよ。後はホテルだけど… 」


私は、お母さんを強く抱きしめると


「お母さん、大丈夫。後は私がやるから…ムリしなくていいのよ。強がらなくてもいいの。不安で泣きたい時は、泣いていいのよ…」


お母さんは、私の中でうずくまりながら


「別に強がってないわよ。本当…本当に。」


私は、お母さんの背中を優しくさすって


「私がお母さんの子供何年やっていると思うの?お母さんがムリする時は精一杯大丈夫な振りするの、私は、知っているのよ。」


お母さんは私の胸の中から、か細い声で


「ことは、もう私…頑張らなくても無理しなくてもいいのいいの?」


私はお母さんの前に立つと


お母さん、あなたの娘は


ー1人でも立っていけるよー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る