第5話 人を愛して欲しい
お母さんは、目を細めて当時を懐かしむ様に
「お父さんは、その時から人が変わったわ。もちろん悪い意味ではないけど…いや、ある意味では悪くなったといいのかもしれない…まず、1番に私たちが驚いたのがご飯を食べる前によく訳の分からないお祈りを捧げていたわ。それが、例え自分の家だろうと、外食だろうと必ずやっていたわ。その後、必ず最後にアーメンと大きな声で言ったお父さんを周りの人まるで頭のおかしい人を見る様にしてたわ。その時の、おじいちゃんやおばあちゃん、私も顔を赤くして俯いて本当に恥ずかしかったわ。でも、お祈りを捧げた後のお父さんは、本当に晴れ晴れとした顔で私たちの恥ずかしい気持ちなんて二の次三の次で私は内心憎らしくすら思ったわ。その次に変わった事が、お父さん仏壇や神棚に手を合わせなくなったの…その事でかなり、おじいちゃんと言い争ったけど、お父さんは一歩も引かなかったわ。その時の話の内容は、今ではよく覚えてないけど…確かお父さんが
偶像の悪魔に祈るなんて僕にはできない
ご先祖様を悪魔呼ばわりとは何事だ
とおじいちゃんと言い争うなんて日常茶飯だったわ。
でもね、ことは、お父さんが変わって良いことも、もちろんたくさんあったわ。
まず、はじめにね。人の悪口、陰口を全く言わなくなったわ。そういつもニコニコしていて、まるで宮沢賢治の雨にも負けずを具現化した様な人になったわ。今のことはには、記憶にないかもしれないけど、昔はよくことはを連れて近所の乳児院に行って遊ばせていたわ。大量のお菓子も持ってね。家に帰って来る時はいつもことは、眠っていてお父さんにおぶられていたわね。その時のお父さんの顔は、嬉しい様な悲しいようなとても不思議に顔しているのを今でもはっきりと覚えているわ。それと、うちの店今は日曜日定休日だけど、それもお父さんが始めたの。お父さんが、日曜日だけは働いていてはダメだって言ってね。小学校の側にある教会へ毎週日曜日の午前10時には、家を出て通っていたわ。そこで何が行われているかわからないけど、お父さんの家に帰って来た顔は満面の笑顔で本当に楽しそうだったわ。私やおじいちゃんやおばあちゃんは、お父さんが宗教にのめり込んで大量の寄付金やしつこい勧誘するんじゃないかと思ったけど、お父さんはマインドコントロールされているわけじゃないみたい。そんな話は、お父さんが生きていた頃には、一切出てこなかったわ。お父さんも、宗教の自由は大事にしていたみたい。でも、最後にお父さんのキリスト教は、お父さんを殺してしまったわ。ことはが、幼稚園の年長組の時の春。お父さんとことはと私が近所の公園で桜を観ようと歩いていた時、公園からサッカーボールがコロコロと転がってきたの。そして、それを追う様に男の子が飛び出してきたわ。まるで仕組まれていたかの様に、トラックが男の子に向けて走って来たの。私は固まってただ見ることしかできなかったわ。そんな、自分の命を捨てるかの様にお父さんは、走って男の子を突き飛ばしたわ。男の子は、間一髪救われだけど、お父さんは私たちの目の前で激しくトラックにぶつかって電柱に叩きつけられたわ。お父さんの頭から大量の血が流れる光景を見て私は信じたくない、認めたくないと思っても受けいるしかなかったわ。この時点で、お父さんは死んだんだって。その後、救急車が呼ばれて病院へ運ばれて行ったわ。その間、ことははずっと泣きじゃくるばかりで、本当は私も泣きたかったわ。でも、ことはがいるからしっかりしなくちゃと思っておじいちゃんとおばあちゃんに連絡してかえって異常に冷静になって対応したわ。手術室前でひたすら待っていると、おじいちゃんとおばあちゃんがタクシーで病院ヘ着いて、みんなで奇跡を願ったわ。私は、心の底からお父さんが信じる神様へ初めて祈ったわ。
どうかお父さんを死なせないでください。お父さんは、本当にあなたを信じているのだから、どうか奇跡をくださいって。
私は手を組んで祈りを捧げていると手術室が開いてお医者さんが手術着とマスク姿で現れた。
そのせいで顔の表情は読めなかったので縋るようにお医者さんに取り付くと
「先生!主人は…大丈夫でしたでしょうか?」
お医者さんは、私たちの視線を合わす事なく
「大変申し訳ありません…私たちも手を尽くしましたが、既に手遅れでして…」
私は、お医者さんの言葉を最後まで聞く前に、あまりのショックで気を失ったわ。
そして、私は夢で亡くなったはずのお父さんに会ったわ。
「愛さん、今まで色々迷惑かけてごめんね。」
私は、お父さんの名を叫びながら手を伸ばすけど、届かず空にお父さんの体が上がって行きながら
「僕の肉体は、滅んでも魂は決してなくならないよ。僕は、どんな時でも必ず天の国でみんなを見守っているから…だから、決して誰かを恨んだり憎んだりしないで欲しい。そして、これだけが僕の遺言だけど
例え、どんな時も
ー人を愛して欲しいー
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