◆5日目 朝 ~We walk the walk.~
ー28ー
「おはよう、木蓮」
昨晩言われた通り、一足先に毒島の治療を受けに行った木蓮が処置室を出ると、廊下でミズキが待っていた。
「おはよう、ミズキ。待っててくれたんだ」
「うん。怪我は大丈夫? あと、叱られたりしなかった?」
心配そうに顔を覗き込んでくるミズキに、木蓮は思わずクスリと笑いながら大丈夫、と応える。
「ミズキってさ、もしかして毒島先生苦手?」
「そんなことは無いよ。いつもよくしてもらってるし。ただ……」
ミズキは少し申し訳なさそうな苦笑を浮かべる。
「戦いの後は叱られることが多いかな。……あんまり叱られ慣れてないから」
「そうなの? 毒島先生って怒ると怖い?」
「そっか、木蓮は見たことないんだ。……本気で怒らせちゃダメだよ?」
ぽんぽんと頭を撫でられる感覚に、木蓮は足を止める。
「木蓮?」
急に立ち止まった木蓮をミズキは振り返った。
自分を見上げる白銀の泉が、僅かに揺らめいている。
さざめきが、ミズキの中にある暗い波を荒立たせる。
ぐっと、無理矢理それらを抑え込むように一瞬握りこぶしを作ると、その手を広げ木蓮へと差し出した。
「行こう、木蓮。ヒバナが、待ってるよ」
「……うん」
握り返す指は、いつもより冷たかった。
* * *
僅かな緊張をはらみながら、トントンと務めていつも通りに扉をノックする。
「おはよう、ヒバナ」
「おはよう、ミズキ、木蓮。……っ覚えてる! やった、私覚えてるよ!!」
そっと扉の隙間から顔を覗かせる2人の顔を見て、ヒバナの顔がぱあっと輝いた。
握りしめられた手が、ほっとしたように緩む。
「おはよ、ヒバナ」
トトトッと自分に駆け寄ってきた木蓮を、ヒバナはぎゅっと抱きしめた。
「ほら言ったじゃん、私「また明日」って言ったんだから。忘れるわけないじゃん、もう……っ!」
涙を浮かべながらもにっこりと笑みを浮かべるヒバナに、ミズキも微笑みを返す。
「うん。そうだね。そうだ」
――でも、だとしたら。
今日、彼女の記憶から零れ落ちてしまったものは、なんなのだろう。
緩く首を振るい、再び湧き上がる不安を振り払う。
「あー、なんかほっとしたらお腹空いて来ちゃったな。ふたりは朝ご飯食べたの?」
「あ……うん、軽くね」
「もう、そんなこと言って! 飲み物だけで済ませたってダメなんだよ? 朝はちゃんと食べなきゃ。それにさ」
抱きしめていた木蓮の顔とミズキの顔を交互に見上げながら、ヒバナは心配そうに眉をひそめる。
「ずっと気になってたんだけど、ふたりともちゃんと大学行ってる? 単位取れてるの?」
「え?」
唐突な質問に、2人ともやや呆気にとられて顔を見合わせた。
「私はもちろん、この一週間は病気とかで大変だと思うし、あと大学の方にはお医者さんの方から連絡してくれてるとは思うんだけどさ。でも駄目だよ? ふたりはあくまでも友人なんだから。最近見てる限りだとずっと私に付き添ってるじゃん」
「あー単位、単位ね。……まあ、ぼちぼち、かな」
「……俺は別に勉強しに行ってるわけじゃねえし……」
「はあ!? 駄目でしょ、そんなんじゃ。もー、そんなんじゃ大人になったとき困るって」
言葉にできない違和感に、ミズキは知らず眉根を寄せる。
「いやでも、ボクらには仕事があるだろう?」
「お仕事? それは大学生として学問に従事るって事? それとも、アルバイターとしてバイトをしてお金を稼ぐってやつ?」
「そうじゃなくて、ボクらにはUGNとしての仕事があるだろう」
ミズキの言葉に、ヒバナはきょとんとした表情を浮かべた。
「U……G……えぬ……って、なに?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます