―22―
仄の敵意に、ミズキの中でレネゲイドがざわつく。
――目ノ前ノ “敵” ヲ 排除 セヨ――
自らの衝動か。
あるいは、 “対抗種” たる所以か。
立ちはだかる
歪な嫌悪感がジワリと全身を蝕もうとするのを、ミズキは深く息を吸い抑え込んだ。
「これはボクのエゴかもしれない。けれど、ボクはキミ達も守りたいんだ。仄ちゃん、閃君」
ぐにゃりと歪む2人の姿を、真っ直ぐに見据える。
「……だから、今はキミ達を止めるよ」
言葉と共に、かざした手を2人へと伸ばした。
不可視の巨大な腕が、陽光を反射して一瞬ギラリと煌めく。
自分達に掴みかかろうとする “それ” を閃はいち早く知覚し、仄の前へ飛び出した。
突風が巻き上がり、迫り来る腕を弾く。
獲物を掴みかからんと襲いかかる腕の軌道が僅かに逸れる。
だが勢いを殺し切ることは敵わず、巨大な腕は閃を弾き飛ばし、仄を地面へと叩きつけた。
「ぐ……うっ……」
コンクリートに押さえつけられた仄が苦痛の吐息を漏らす。
剥き出しの皮膚が、酸を浴びせられたかのように赤く爛れていく。
「ごめんね、その手は全てを蝕むから」
――だから、これ以上動かないで。
そう願いながら、ミズキは更に仄を押さえ込む。
べキリ、と仄の周囲のコンクリートが悲鳴を上げてひび割れた。
彼女のかけていた眼鏡にもヒビが走り、グシャリと歪む。
ガハッ……と仄の肺から血混じりの空気が押し出された。
「……で……」
ぴくり、と仄の指が微かに動く。
「そ……も」
ゆっくりと、その手が拳を握る。
「……んせ……は……っ」
自らの身体にのしかかるモノを全身で押し返そうと、震える両腕を地面に押し付ける。
「それ、でも、せんせぇ、は……! 守りたいんだ、せんせぇを…………っ!!」
叫びと共に、不可視の腕が弾かれた。
ゆらり、と仄は立ち上がる。
カシャン……。
歪んだ眼鏡が、乾いた音を立てて足元に落ちた。
まるで時が巻き戻るかのように、仄の全身の傷が急激に治癒していく。
ふらつきつつも真っ直ぐに自分を射る紅玉の光に、ミズキの唇が震える。
「仄ちゃん、キミは……。もうやめてくれ。これ以上キミを傷つけたくない」
「それでも、私は、私は……っ」
仄は唇を伝う血をぐいっと拭うと、キッとミズキを睨みつけた。
『……ほのか』
膝をついたまま微動だにしていなかった灯が、ぽつりと声をかけた。
「……なに、灯」
ゆっくりと、灯は顔を上げる。
『どうしても、いまじゃなきゃ、だめ?』
真っ直ぐに掛けられた問いに、仄は激しく首を横に振った。
「ダメ。ダメ、ダメ……!」
じっとそれを見つめていた灯は、閃へと視線を移す。
『せんも、それでいいの?』
「俺は」
その問いに閃は、グッと拳を握り締める。
「……俺は、決められないから。だから、仄がやりたいって願うことを手伝いたい」
『……わかった』
言い様に、灯の全身から真紅の炎が噴き出す。
ゆっくりと立ち上がり、背負っていた
腕から伝う炎が刀身まで纏わりつくと、それはさながら炎で形どられた一匹の蛇と変じる。
炎の蛇は1度大きく身をくねらせると鎌首をもたげる。
大きく口を開けた牙から滴る雫がコンクリートに滴り落ち、嫌な音と臭いが立ち上った。
灯は大きく腕を振りかぶると、その勢いのまま身体をぐるりと反転させ。
――ミズキへ、轟々と燃え盛る斬撃を叩き付けた。
「灯……っ」
慌てたように閃が声を上げる。
瞬間、眩い光が灯の前で弾けた。
眩しさに目を細めつつも、灯は目の前の
予想外の方向から迫り来る攻撃に、一瞬木蓮の反応が遅れる。
紅蓮の炎が視界を掠めた瞬間、身体が無意識に強張った。
その腕をミズキが強く引き寄せ、自らの背後へと木蓮を庇う。
直後、業火の柱がミズキを吞み込んだ。
「灯……! 俺、言ったよな? 俺らのこと『頼んだ』って! ……お前は、それでいいんだな?」
さらに攻撃を繰り出そうと武器を構えなおす灯の背中に、どこか縋るような声音で閃は詰問する。
『せん』
ミズキを真っ直ぐ視界に捉えたまま灯は返す。
『おれは、じぶんでかんがえて、えらんだ』
「……っ」
『だからおまえも、じぶんでえらべ』
放たれた言葉に、閃は大きく目を見開く。
「……分かった。わかった、ごめん」
俯いたまま、両手をきつく握りしめた。
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