第87話 後輩君の言うことにゃ(中編)

「……先輩、俺は先輩の小説を読んだこともないし、基本小説を読まない人間です」


「知っている」


「……でもね、自分の作品を言うときに謙遜しているつもりでしょうけど、正直、俺が先輩と同じ立場で同じことを言われたら即腹パンです」


 普段、温厚な後輩の言葉に私は言葉を失った。


うちイラストの界隈では自作のキャラクターを『うちの子』と言います。それだけ愛情を注いでいるんです……正直、言えば俺はそこいらの人のイラストより上手にイラストが描ける自負とプライドがあります」


「……」


「先輩だって、たくさん本を読んで沢山お話を作って、たくさんの人に読ませているんでしょ?」


「……まぁ、ね」


「先輩の心のどこかに以前話していた心理的外傷トラウマが影響しているんでしょうね」


「そうなの?」


 後輩君は描き続ける。


「俺は転勤族の子供でしたし、一通りの洗礼いじめを受けています。先輩が俺のことをどう思っているかも知りません。でも、職場に関しては先輩は完璧です」


「そんな……」


 後輩君が私を見た。


『言うな』と目で命令する。


 後輩なのに。


「先輩の凄いところは、その場その場しのぎじゃない。相手の現場や思考を細やかに正確に読み、それに合わせて量などを調節するし、助言もする。言い方がちょっと怖いですが、一般企業でも重宝される人材です……ところが、自分のことになると、いきなりパニックになるしポンコツになる。褒め慣れていないんでしょう」


 ここまで言われたらどうしていいか分からないし、お手上げである。


「……じゃあ、どうすりゃあ、いいのさ?」


 我ながら何とも間抜けな質問をした。

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