第86話 後輩君の言うことにゃ(前編)

 私の職場には、というか、このエッセーなどではたびたび登場する『後輩君』と呼んでいる人物がいる。


 神奈川出身、香川県でうどんに覚醒し魂を置て群馬の地にやってきた二十歳後半の後輩君。


 イラストを描くことが趣味でタブレットを職場に持ち込んで(自己責任においてOKな職場)時間さえあれば朝だろうと昼休みだろうと描きまくる。


 仕事において非常に優秀。


 私すら尊敬することが多い。


 

 対して、私は文章で生計を立てたいと思っている。



 なので、あえてジャンルは違うがこんな質問をしてみた。



 朝礼前に後輩君がタブレットで絵を描いていた。


「はよー」


「おはようございます」


 後輩君の前に座る。


「なあ、後輩君よ」


「何ですか?」


「君の絵が何らかの形で、そーだなぁ、例えばテレビの企画でアニメになったら嬉しい?」


 その時、一切私の顔を見なかった後輩君が少しタブレットから顔を上げた。

 

「そりゃ、嬉しいですよ……先輩だって雑文でも特集されれば嬉しいでしょう?」


「えー? そりゃあ、まぁ、嬉しいけどさぁ、上を見たら何処までも果てしなく上がいてさ、絵みたいに明確な共通な点がないから……現時点でもしも、そんな話が合ったら割腹だね」


「かっぷく?」


 私はお腹に拳を立てて割く真似をする。


「ああ、切腹ですね……まあ、自分も葛飾北斎先生とかミシャ……って分かります?」


「アルフォンス・ミシャだろ? 『美の巨人』で知っていた」


「意外ですねぇ……」


 そう意外な顔をして後輩君は続けた。

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