第48話 力(りき)む時と脱力するとき

 空手をやっていてか、それとも、見た目からか、私は「精神面メンタルはともかく、身体面フィジカルにおいては強いです」と後輩たちから変なおだてられ方をする。



 実際、ジムで私の担当コーチが私が汗水たらして運動していると、別の会員が「わー、私もやってみていいですか?」と聞いてきた。


 それを聞いたコーチは小さい声で、でも、はっきり「ダメです!」と言った。


「あのメニューは隅田さんの無尽蔵のスタミナあってのもので、某有名大学ラグビー部レベルのものなんです」


--はぁ!!!???????(ギャグシーン的に)


--某有名ラグビー部って何!!?



 またある時は、こういう人もいた。


「隅田さんは肥満体だから分かりずらいですけど、瘦せるとバキバキの筋肉質になりますよ。パスタのアルデンテみたいなものです」



 でも、当事者の私からすると、実は抜け道がいくつかあるし、たぶん、コーチたちもそれをわざと作っている。


 常に力ませるわけでもなく、緩ませるのでもなく、ギターの弦を調節するように一定のストレスを与えるが、緩ませもする。



 プロの作家のエッセーなどを見ると、その加減が実に上手い。


 休む時はちゃんと好きなことに没頭するし、仕事をするときはしっかり仕事と向き合う。


 

 現代人、特に精神障害や鬱、引きこもりは、この弦が極端に緩んでいるか、下手にすれば切れている。


 最初は人の手がいる。


 誰しも最初から正確な音階が出せるわけではない。


 昭和中期ぐらいまでは、どうにかこうにか日本という国自体のコードも『正しい』とされていた。


 それが今は無い。


 

 だからこそ、今。


 我々は「作品」という形を通して、自分という音色を出すべきだと思う。

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