▼26・浮田瞬一の強行突破


▼26・浮田瞬一の強行突破


 某日、トラスティーズの歩兵たちを乗せた装甲車が道を走る。

 鶴巻たちはその一両の中にいた。

 もうすぐ戦闘である。

 忘れがちだったが、別府とも連絡を取り合い、うまく浮田眼龍を前線に引き出すことに成功した。少なくとも別府からそのような報告があった。

 別府にそこまでの権力があるのか?

 鶴巻としてはその辺りが謎だったが、まあ、なんとかして上層部を説得するなり懐柔するなりしたのだろう。なお、彼女自身は戦いには参加できなかったらしい。

 彼女が嘘をついているとは思えなかった。

 ともあれ、別府がきちんと働き、眼龍が前線に着任した以上、あとは現場の人間である鶴巻らの仕事である。

 現在において最も大事な任務は、あくまでエイドス術師の戦力を削る。しかし浮田瞬一の心情を鑑みるに、眼龍一派の追討も決して無視できないものだ。

 鶴巻は、そのために浮田瞬一にその先鋒を頼んだ。

 もちろん彼一人に全部任せるつもりもなく、鶴巻らも準備が整ったら瞬一に合流する、と話しはしたが、おそらくは瞬一が一人で眼龍との戦いの大部分を担うことになろう。

 しかし鶴巻は瞬一を信頼している。

 以前の戦いで瞬一が本家の人間を苦もなくなぎ倒した、そして眼龍をも圧倒した、という戦績に対する信用もある。

 しかしそれ以上に、個人として、鶴巻は浮田瞬一を信頼している。今回も眼龍を散々に打ち破ることができる、という予感がある。

 ふと、同じ車両の浮田を見やると、いつになくこわばった表情をしている。

「緊張するなよ」

 他の兵士の前であるので、鶴巻は軽く声をかけるにとどめた。

「ありがとう」

 浮田も短く、それだけ答えた。

 彼らの信頼関係の前には、それだけで充分だった。

 なお、この場には海野もいたが、状況が状況だけに、暑苦しい友情うんぬんとはさすがに言わなかった。

 と。

「敵の気配を感知!」

 装甲車のレーダーが相手を捉えたようだ。

 すぐに続く、車への轟音と振動。

 傭兵の数人が「うおっ」と短く反応する。

「敵が攻撃を開始!」

「この地点で……予定通りだな。歩兵たちは降車して戦闘を開始せよ!」

 真壁の合図で、鶴巻たちはアンチウィザード銃とシールドを手に取り、装甲車を後部から降りた。


 エイドス術とアンチウィザード銃。

 術と科学の戦い。

 それは普通の戦場とは異なる、お互いに特化した方法によって行われる。

「吹き飛ばす! 【力のエイドスよ!】」

 エイドス術師が、遮蔽物ごとトラスティーズを討つために、破壊力に長じた術を放つ。

 しかし。

「盾を構えろ! 防具を信じるんだ!」

 トラスティーズと鶴巻たちは、シールドを構えて耐える。

「お返しだ!」

 アンチウィザード銃が火を噴き、エイドス術師を打ち倒す。

 エイドス術は、少なくとも銃よりは広範囲に破壊力を発揮するものがある。そのため、銃兵同士の戦いのように遮蔽物に隠れても、その遮蔽物が特別に硬かったり大きかったりしない限り、意味がない。むしろ遮蔽物の破壊に巻き込まれて余計なダメージを負う。

 ではどうするか。

 これに対して、トラスティーズはシールドやボディアーマーを強化し、そもそも遮蔽物を使わなくても致命傷を負いにくいような装備を整えた。

 もちろん、それでもエイドス術を完全に無力化できるわけではないので、しっかりした遮蔽物があればそこに隠れつつ前進する。

 しかし、通常の銃撃戦よりは遮蔽物を軽視し、シールドなどで自ら防御しつつ敵に接近、またはアンチウィザード銃で敵をつぶしてゆく。

 そのため塹壕なども基本的には造らず、敵に姿をさらすことが若干多い。

 閑話休題。

「さて、ここからどうやって眼龍一味にたどり着くか」

 鶴巻が浮田に話す。

「まあ、感応力で探すしかないね」

「ああ、すまない、そういうことじゃない」

 鶴巻はエイドス術を警戒しながら返す。

「居場所はあらかた分かっている。あの偵察塔、あそこに眼龍は陣取っている。別府とか諜報班から聞いた限りでは、それはほぼ確実だ」

「なるほど」

「だけども、眼龍は相手方にとって一応要人だ。きっと守りは固いに違いない」

「何を言うかと思えば……」

 浮田の反応は、鶴巻にとっては意外だった。

 だが続く言葉に納得する。

「僕たち、本家の村に突撃して生き残っているだろう。ちょっと守りを固められたぐらいでは、僕たちはそう簡単には負けないよ」

「おお、それもそうだな」

 鶴巻は思わずうなずいた。

「よし、そろそろお前を眼龍のところまで行かせるか。俺と海野がバックアップするから、お前は偵察塔を目指せ。着いたら妖術を使ってもいい。俺がなんとかごまかす。……というより、眼龍にはさすがにアンチウィザード銃はそんなに効かないだろう。仮にも本家の当主、雑魚のようにはいかないと思う。俺が合図をする。んで俺たちも後で合流する」

「オーケー、こっちはいつでもいいよ」

「はいはい友情友情」

 海野はうんざりした顔ではあるが同意する。

「その友情の十分の一でも、私に向けてくれないかなあ」

「寝言は寝て言え。……あと十秒、……三、二、一、行け!」

 鶴巻と海野は弾幕を張りつつ、駆け抜ける浮田を見送った。

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