▼24・四ツ谷動き出す


▼24・四ツ谷動き出す


 それから数日後。

 四ツ谷は余計なことしかしない。

 まず、所長と何度目か会ったときに、発信器をつけた。これで研究所なるものの所在が明らかになった。

 さらにその中で、研究所はどうも、扉をくぐる際に、身に帯びているセキュリティカードをセンサーで走査して防犯等の管理をしているらしいことが分かった。

 もちろん四ツ谷は偽造した。

 ……この言い方は正しくない。四ツ谷にも科学者仲間はおり、その中でそういう道の専門家に頼み込んで偽造してもらったのだった。

 もちろん仔細は伏せた。伏せているのに何も異議を言わず作ってくれる専門家の仲間はよき友人である。

 ……もっともその仲間も、解析の途中でそれが何であるかは分かっていただろう。要するに同罪である。

 ともかく、防犯をすり抜けるカードは完成した。

 四ツ谷はそのカードと、顔をすっかり変えるメイク術、そして科学への忠誠心をもって、研究所に向かった。


 大窓を用いた開放的な空間。近代的な流線のフォルム。そして何より広さ。郊外に位置してはいるものの、巨大な建築物である。

 これは絶対に妖術師たちの「寄り合い所」などではない。名前の通り「研究所」であり、なんらかの、そしておそらく複数の研究が行われている。

 なんの?

 妖術のであろう。あるいは妖術と称する、なんらかの非科学的な営みの。

 彼女は胸いっぱいの不信感を抱きながら潜入した。


 いくつもの廊下と扉を通り、巨大な倉庫のような場所で、彼女は見た。

 スチールフォースを。

 彼女はそれが、妖術師たちが造ったものではないことを直感した。

 ここは研究所である。何を研究しているのかまでは知れないが、妖術師の施設である以上、きっと妖術関連の研究をしているのだろう。

 しかしこのロボットは、そういったものではない。

 四ツ谷の科学者としての目はなんらかの、不可思議な力に対する防御性能を見て取った。妖術とやらには全く関係のない代物、とはいえないだろう。

 しかしこれは、基本的には科学の力でできている。この研究所が造ったとは思えない。

 科学側が使い、または所有していたものを、戦って手に入れるか盗むかして、この場に収めているのだろう。

 とすれば、妖術師は科学と対立する存在なのか?

 四ツ谷たちの利益を脅かす、邪悪な存在なのか?

 その集団に属し、怪力乱神を用いているかもしれない鶴巻は、一刻も早くこの疑念まみれの世界から救うべき存在ではないか?

 彼女は考える。

 しかしここで考え込んでいても答えは出ない。

 彼女はその、見方によっては科学的ではなく、しかし別の見方をすれば科学の根幹にかかわる課題を持ち帰り、自分の研究室で考えることにした。


 少しして、三人組はまた客のいない食堂で話す。

「ついにトラスティーズが鉱山を押さえる目的が分かったよ。やっぱり鉱石と浮田眼龍なんだってさ。ふぁあ……」

 海野が多少眠気をにじませながら話す。

「本当か」

「本当だよ。さっき貴重な女子隊員から話を聞いた」

「それは貴重だな」

「もう! 鶴巻くん、貴重な女子隊員はここにいるでしょ!」

「何言ってんだ?」

 鶴巻は首をかしげる。

「ホントもう!」

「あの、話を続けてほしいな。ラブコメ空気はいいから」

「ラブコメじゃねえだろ」

「いいから」

 浮田は続きを促した。

「じゃあ続けるよ。……といっても、私も科学には、というかエイドス術にもそんなに詳しくないけど、なんでも――」

 言いかけたところで、鶴巻と浮田のスマホにメールの着信が来た。

「ちょっとすまない」

 読むと、ちょうど鉱石の特性について書かれていた。

 要するに、エイドス術師が加工すれば術の触媒になるが、トラスティーズの技術でなら逆に術を阻害――エイドス術だけでなく妖術も邪魔する物質も作れるという。

 その阻害の仕組みが以前のものとは違い、応用性に富むため、トラスティーズとしては可能性に着目しているらしい。

「なるほど」

 鶴巻は海野に解説した。

「もう! 私が説明したかったのに!」

「すまない。だけど海野じゃここまで詳細には把握していなかっただろう?」

「鶴巻くんのバーカバーカ!」

 いわれなき罵倒である。

「ちなみに、これも海野の言うとおり、浮田眼龍の一味も拠点防衛に配備されるみたいだ」

「そう書かれているね」

 浮田瞬一はうなずいた。

「浮田……あまり憎しみにとらわれるなよ」

「心配はいらないよ。眼龍には大いに思うところがあるけど、自分の領分は忘れないつもりだよ。それに眼龍討伐は今回の目玉の一つだよ、むしろ戦いを避けてはいけないんじゃないかな」

「まあ、それもそうだけども……」

 鶴巻は腕を組む。

「とりあえず憎しみで暴走したり無茶したりはするなよ。それだけは言っておかなければならない」

「オーケー、分かった」

 浮田はうなずき、約束をした。

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