▼14・親バレ!


▼14・親バレ!


 その後、当主と主だった有力者たちを根こそぎ戦闘不能にされた浮田本家、およびそれに同調する分家の一団は、妖術師連盟に、というか三人に降伏した。

 仮に郎党が戦闘を続けていても、結局は三人が勝っただろう。

 浮田瞬一が一族最高の地位にいた眼龍を倒したのも、充分な驚きであるが、それと同等に鶴巻と海野も、彼らは恐れていた。

 浮田の後詰として彼の邪魔を一切許さず、どころか応援の部隊を最終的に全滅させた二人である。残った郎党が刃向かったところで、一蹴されるのがオチだろう。もっとも、一部は戦うでもなく、捕まるでもなく、どこかへ逃げたようだが。

 結局、鶴巻が研究所所長を通じて、連盟の上層部に連絡を取り、変事は収まった。

 捕まった本家郎党については、ケガ人は医師の治療付きではあるが、連盟本部でまとめて懲罰房に入れられ、事情と浮田本家の動きについてたっぷり尋問されるらしい。鶴巻はそう聞いた。

 当然の報いだ。

 ただ、浮田の「分家末席殿」の眼龍との一騎討ちは少しやりすぎだったかもしれない。実際、鶴巻は見ていて少し血の気が失せた。眼龍も重傷だという。

 しかし、普段温厚な浮田があれほど怒りをあらわにして、眼龍を痛めつけていたのは、きっとそうしなければならないだけの理由があったと思われる。

 浮田本人も、本家による分家差別がひどいという話をしていた。あの仕打ちをすべきである、と浮田が考えるほどには、ゆえなき深刻な差別がされていたのだろう。

 この事件の直接の契機は、ほかならぬ浮田上層部とエイドス術師連合会との密通であるが、浮田瞬一にとっては差別解消の機会だったに違いない。

 まあ、浮田や鶴巻は連盟としては下っ端である――差別を受けているという意味ではない――から、全ては上層部にゆだねるしかない。

 もっとも、鶴巻らは所長を通じて、造反者たちを厳罰に処してほしいという希望を上層部に伝えたのだが。

 しかし、この件で鶴巻と浮田、ついでに海野ができるのはここまでである。

 こうして三人にとって、事件は終息した。


 人があらかた懲罰房に入れられ、すっかり廃村に近くなった浮田の村に、元の住人とは明らかに異なる人影がまばらに。

 別府とその部下である。

 村で激しい戦いが行われたというので、エイドス術師連合会が調査を試みた。その仕事に真っ先に立候補したのが別府である。

 連合会としては、ここに未知の術師サイキックの海野、電光の術を使う異端の妖術師たる鶴巻、そして眼龍相手に一騎討ちで勝った浮田瞬一という、イレギュラーな戦力がまとまって戦っていたからというのが調査の理由である。

 別府の立候補した理由?

 鶴巻の痕跡を愛でるためである。

 全くもって不審者の気質を感じるが、あながちそれだけでは片付けられない。

 なぜなら、優れた術師の術の跡を体感し、その質を見極めるのは、エイドス術であろうと妖術であろうと、術師にとって成長の機会であるからだ。

 それを建前に、彼女はここへ来た。

 しかし。

「術の痕跡が多すぎて、よく分からないな……」

 別府はぽつりと漏らした。

 鶴巻の痕跡を愛でるどころか、おびただしい数の術が放たれたようで、他人の術の気配に埋もれてしまっている。

 この点、少なくとも妖術の達人の使う術は、極めるほど、他者の術の痕跡に埋もれやすくなるという。

 通常考える現象とは正反対だが、これについて別府は、術を極めるほど一種の「不自然さ」が消え、力の普遍性を獲得するから、などと聞いたことがある。

 もっとも、彼女には意味が分からなかったので、適当にそういうものだと聞き流していた。不真面目な術師である。

 この一帯を大量の術が駆け巡り、嵐となって戦いを彩った、という当たり前のことを確認した別府は、夕食をどうするか考えながら、そこそこの馬力で調査の仕事をした。


 浮田本家の動乱から数日後。

「ねえ鶴巻くん、レイン交換しない?」

 レインとは、メッセージアプリの一つである。世界で高いシェアを誇っている。

「そういや海野とはまだ交換していなかったな」

 鶴巻はスマホを取り出す。

「日々の暮らしとか、戦いとか、色々通信するだろうからな。サイキック七つ道具の無線機だって、いつでも使えるとは限らないしな」

「ふおぉ……男の子の連絡先が私の電話に……!」

「まあそう気負うな。あとスマホを電話て、間違ってはいないけども」

「ほへぇー、ウフフ、何送ろっかな!」

「変なものを送ってくるなよ」

 しかしそこへすぐさま着信が一件。

「もう変なの送ってきたのかよ!」

「えっ違うよ。まだ迷ってる」

「えっ、じゃあこれは」

 鶴巻がスマホをよく見ると、母からのレイン着信だった。

「おいおい、驚かせるなよ」

「私何もしてないのに!」

「何もしていないのに疑われるのは、普段からそういうことをしているからだぞ。少しはしゃんとしろ」

「冤罪からの説教とかひどいなあ」

 落ち着いてメッセを見る。

[こんにちは。最近、女の子と同棲しているみたいですね]

 ひう、と変な声が出た。

[どんな子なのか、母さん気になるなあ]

 これはまずい。とてもまずい。

 だが同時に、こういう時期は遅かれ早かれ来るものだったのだろうとも思う。

 なぜなら鶴巻の両親も、連盟のそこそこの要職に就いている妖術師であり、海野関連の話は嫌でも入ってくるだろうからだ。

 とはいえ。

[そういう苦情は、俺にじゃなくて上層部に言ってくれ。上の決定には逆らえない]

 と返すと。

[でもヨシがたぶらかしたんでしょ。同棲を選ばせるように。母さん知ってるよ]

 頭を抱える「ヨシ」。

 なぜこういうことになるのか。

[とにかく苦情は上層部に言ってくれ。母さんと父さんの地位なら、お偉いさんにも対抗できるだろう]

[で、海野さんはどんな人なの?]

 全く話を聞いていない。

「だめだこりゃ。直接会って話をするしかない」

「え、私、鶴巻くんのお母様に気に入られているの?」

「……いや、このレインからじゃどうにも判断できない。とにかく直接会って」

[今週日曜、十時ころに様子を見に行くから、ちゃんと覚悟をしていてね]

「あぁーもう……あ、そうだ、浮田、浮田を呼ぼう」

 突然の判断。

「なんで浮田さん?」

「あいつならなんだかんだ言って俺の味方だし、事情もある程度知っていて冷静な第三者ときている。本人は嫌に思っているだろうが、なんだかんだ名門浮田家の人間だしな。母さんも浮田の前では変なことはできないだろう」

「なるほど」

 海野は大きくうなずく。

「じゃあお母様に、私たちがいかに比翼連理のお似合いカップルか、見せつけてやらなきゃね。ほへへへ」

「ああもう……胃に穴が開くぞ」

 鶴巻は毎度のごとく眉間を押さえた。

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