▼12・ステルス妖術師


▼12・ステルス妖術師


 やがて、開けたところに出ると、村々の姿が見える。

「おっ到着かな」

「待て、警戒の気配がある」

 鶴巻は二人を制した。

「……なるほど。いまの村は外部者を全部敵とみなす感じだね」

「私の超感覚も、敵意を感じる」

「まあ、外にあれだけ罠があったんだ、切り抜けるのは敵しかいないんだろう」

「……どうする? いや最終的には眼龍を倒すべきだけど、このままじゃ先に進めない」

 浮田の言葉に、しかし鶴巻は首を振る。

「いや、このまま村人ヅラしてさりげなく入ろう」

「えっ」

「この村、思ったより人が多いみたいだ。これだけあれば、余所者が少し入ってもすぐには見抜かれないだろう。……浮田の血族を判別する妖術とか、ないよな」

「ない。確かにそうだとすれば、紛れ込んでも大丈夫そうだね。まさか浮田家の郎党の雑多ぶりに助けられるなんて」

「まあまあ。とにかく観察と、疑われない程度に聞き込みをして、眼龍のところに向かおう」

 鶴巻はそう言うと、さりげなく、あくまでもさりげなく敷地内に入った。


 当主眼龍の屋敷がどこかは、見ればすぐに分かった。

 奥にひときわ豪華な館が建っているのが見える。

 だが。

「警備が多いな」

「僕たちみたいに、潜入して暗殺じみた戦いをしてくる部隊を警戒しているんだろう」

「なるほど。いくら村が思ったより大きいとはいえ、これでは無策で入ろうとしても、調べられてバレるな」

「そうだね。浮田家の血筋でごまかせるのは僕だけど、それでも僕が妖術師側にいるのはきっと知っているだろうね」

 そもそも血筋を判定する手段はここにはないのだが、ならばなおさら、村では見ない顔としてバッチリ調べられるだろう。

「難儀だな。一度村の外に出て、目立たない場所で夜を待つか」

「賛成。夜に紛れて眼龍を倒す」

「まさか野宿するの?」

「ああ、嫌だろうけど仕方が――」

「野宿なら任せてよ。あっちの世界で散々やってきたから、役に立てるよ。さっき村の入口から少し外れたところに、野営に適した場所があった。たぶん昔はキャンプ場だったんじゃないかな。こうなることを見越して野営用具も持ってきたから、準備は」

「ちょっと待て。どこにそんなもんを持っているんだ?」

「ほへへ。これ。サイキック七つ道具『虚数空間の道具袋』」

 開けてみせると、なんだか変な空間につながっていた。

「……これも所長が言っていた『渾沌』の力か?」

「まあなんでもいいじゃん。野営はバッチリだね! ね!」

 海野は気持ち悪いぐらいにニヤニヤしていた。きっと褒めてほしいに違いないが、鶴巻は「ちょうどいいや、野営の準備をするぞ」と無視した。


 極秘の野営。灯りは最小限。

 たまにやってくる見回りの浮田本家をうまくやり過ごし、夜は八時を回った。

「皆、まだ寝静まるような時間帯じゃないな。どうする?」

 鶴巻が問う。

「正直に言おう。僕はこそこそ眼龍の寝首をかくんじゃなくて、彼が起きているうちに堂々と戦って倒したい」

「おいおい」

 鶴巻はあきれ顔。

「だったら夜まで待つこと自体無駄だったんじゃないか。正面から戦うなら、昼に行っても良かったはず」

「そうじゃないんだ、鶴巻」

 浮田は首を振る。

「最終的に眼龍と派手に戦うにしても、その居場所までたどり着けなければ意味がない。途中で眼龍側に捕まれば、拷問やむごい罰を受けて、僕たちの試みは終わってしまう」

「それは眼龍のところまで進んでも同じでは?」

 鶴巻は首をかしげる。

 だが。

「眼龍の目の前まで進めれば、そう簡単に捕まることはないだろう。眼龍の守りにも人員を割かざるを得ないし、主導権を得て攻撃を仕掛けるのが、眼龍側ではなくて僕たちになる。そうじゃないかい?」

「なるほど、主導権か。それにいざとなれば眼龍を人質に脱出できるな。無力化できればの話だけれど」

「そうだね。でも人質を取って逃げるなんて終わり方をする気はないよ。眼龍は僕の手で必ず引導を渡す」

「おう。そうだな」

 三人は星空を仰ぎ見る。

「寝ている時間ではないにしろ、これなら闇に紛れて潜入できるな。行くか」

「行こう。本家がどれほど腐っているか、見るのが楽しみだ」

「私も行くよ。よく分からないけど、鶴巻くんとその友達が困っているなら助ける。それにここまで来たんだから、もう引き返しはしないよ」

 三人は野営の撤収を素早く行い、村へ向けて歩き出した。


 屋敷の警護は数名。

「ふあぁ……うわっ何を」

【電流よ意識を刈り取れ】

 鶴巻が油断していた警護の一人に組み付き、電気ショックの妖術を行使すると、警護はあっけなく気絶した。

「鶴巻くん、こっちも高密度ヒュプノで昏睡させたよ」

「よくやった」

「ナデナデして」

 鶴巻が海野の頭をなでると、海野は「ホヘヘヘヘ」と気持ち悪い笑い方をした。

「鶴巻、裏口はこっちだ」

 先を行って偵察していた浮田が、方角付き無線機で先導する。

 無線機は海野の「サイキック七つ道具」である。術に引っ掛からずに通信できるという、意外と頼れる道具だ。

「おお」

「僕が幼い頃によく使っていた裏口だけど、まだ使えるみたいだ」

 しばらくして鶴巻たちが浮田と合流すると、彼は満足顔。

「いまのところ順調だ。ここからなら最低限の距離で、おそらく眼龍のもとに行ける」

「それはいい。……扉の向こうに人は……」

「いないよ」

 海野が答える。

「パッシブのテレパシーを試みたけど、人間の反応はないよ。しばらくは無人のルートでいける」

「おお、そうか。行こう浮田」

 浮田は「ちょっと順調すぎるのが気になるけど……」とつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る