64話 不人気ダンジョン

 ノナはダンジョンを進んでいくのだが、結局目ぼしいアイテムもなく、強力なモンスターも出なかった。

 やがて到着したのは、岩壁に囲まれたドーム状の部屋である。


 この部屋で行き止まりらしい。

 ボス部屋すらないらしく、不人気ダンジョンというのも納得の場所だ。


「あれ?」


 行き止まりの部屋でノナの目の映ったのは、1人の女の子であった。

 ダンジョン内にいるということは、探索者だろう。


 紫色の髪をした、ポニーテールの女の子だ。

 ノナと同じくらいの年齢に見え、服は村人装備である。


 つまりは、初期装備だ。

 ダンジョン探索初心者なのかもしれない。


 もしそうだとしたら、いくら弱いモンスターしか出現しないダンジョンだとしても、ソロで最奥部まで到達したのは、かなりの才能の持ち主なのかもしれない。

 ノナはその子の元へ、小走りで駆け寄る。


「初心者なのに凄いね!」

「な、何がですか!?」


 ノナが近づくと、後ろへ一歩下がる彼女。


「あ、ごめん! 私、ノナって言うんだ! 君と同じく、探索者だよ! いやぁ、私も最近探索者になったばかりだからさ、仲間意識を感じてついつい話しかけちゃった!」

「探索者……?」


 まるで聞いたことのない言葉のように、彼女は首を軽く傾げた。


「なんかマズかった?」


 ノナは怖がらせてしまったのかと考え、少し気まずそうに眉を下げた。


「凄い服ですね……」

「服? ああ! これは特注の勇者装備でね! 凄いと言えば……凄いかな!」


 納得のいく出来となった装備だったので、少し自慢げに腰に両手を当てて、胸を張った。


「色とかも凄い派手で、なんか凄いです……」


 オレンジが基調となっているので、派手さもある。

 そういう所もオーダー通りであり、気に入っている点だ。


「ありがとう!」



 近くの椅子代わりになりそうな岩場に2人して腰を掛ける。


「初心者なのに本当に凄いよね!」

「えっと、ですから初心者というのは?」

「ダンジョン探索者初心者ってことだよ! もしかして、縛りプレイをしている上級者だったりする!?」

「で、ですから、ダンジョン探索者ってなんですか?」


 まさか。


「もしかして、ダンジョン探索者を知らなかったりする?」

「ダンジョン……?」


 この様子、もしかするとダンジョンという言葉すら聞いたことがないのかもしれない。

 ここまでダンジョンの存在が広まっている世の中で、知らないというのはかなり珍しいことだ。


 もしかすると……


「君、記憶喪失だったりする!?」

「記憶はありますよ。名前だって言えます」

「良かったら教えてよ! ダンジョンネームでもいいよ!」

「ダンジョンネームというのが何かは分かりませんが、名前はアリアです」

「アリアちゃんか! 今風のかわいい名前だね!」

「今風とは言われたことはないですけど、変わっているとは言われたことはあります。それを言ったら、ノナさんだって珍しいかと」

「そうかな!?」


 そうかもしれない。


「アリアちゃんって呼んでもいいかな?」

「どうぞ」


 先程からそう呼んでしまっているのだが、改めて許可を取った。


「アリアちゃんって、記憶喪失じゃないならどうやってダンジョンに入ってモンスターを退治したの?」

「どうやってと言われましても、お出掛けをしていたら迷い込んでしまいまして、気が付いたらここの部屋にこの格好でいたんです」

「え!? ってことは、ダンジョンの入り口からじゃなくて、いきなりここにいたってこと!?」

「そうなりますね。ですので、全く状況が分かりません」


 つまり、完全な一般人がダンジョン内に飛ばされたということだろうか。

 ちなみにここで言う一般人とは、ダンジョン探索者でない人のことを指す。


「そうだったんだ……。よし! じゃあ一緒にダンジョンの出口まで歩こう! 後ろについて来てくれれば、命の保証はするよ!」

「そこまで危険な場所なんですか……?」

「怖がらせちゃって、なんかごめん」


 怯えたような表情をした彼女に対し、ノナは両手を合わせて頭を軽く下げた。

 もしかすると、彼女はまだモンスターを見たことがないのかもしれない。


「なんですかこれ!?」

「オークだね! てりゃあっ!」


 ノナは腰のカオスソードを抜くと、それを両手に握りしめ、オークを斬り付ける。

 オークは一撃で倒れ、粒子となって消滅していった。


「こんなのがいる場所なんですか!?」

「怖いし、信じられないよね。こんなゲームにいるみたいなモンスターが、現実にもいるだなんて」


 ノナがこの時代に来た時も、分からないことだらけだった。

 アリアからしたらそれと同じか、それ以上に怖い光景かもしれない。


「ゲーム……?」

「ゲームやったことない?」

「はい。よく分かりません」


 一体どのような家庭環境なのかは分からないが、外見年齢通りであれば、今風の暮らしをしていない現代の女の子ということになる。

 勿論好みは人それぞれではあるが、もしかすると厳しい家庭なのかもしれない。


 どちらにしろ、中2のノナにどうこうできる問題ではなさそうだ。


「お父さんとお母さんが厳しいの?」


 余計な心配かもしれないが、気にはなってしまう。

 ノナは後ろにいるアリアをチラッと見て、聞いた。


「厳しくはないですよ。と言いますか、お父さんとお母さんの顔を知らないと言いますか」

「ごめん……変なこと聞いちゃったね……」

「全然気にしてないので大丈夫ですよ!」


 元気に言うアリアであったが、実際はどう思っているかは分からない。

 あまり家庭の件については、深く聞かないようにしよう。

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