65話 違う景色
ノナとしては珍しく、気まずさを感じていた。
中学生生活を送る上で、このような境遇の人間と出会ったことがなかったからだ。
「本当に気にしなくて大丈夫ですからね。それに私は、学業や仕事が充実しているので、大丈夫ですよ」
「仕事!? アリアちゃんはもしかして、私が考えていたよりも大人だったりするの!?」
と、ここでアリアが自分の年齢を言いそうな雰囲気だったので、先に言っておくことにした。
「先に言っておくと、私は中学2年生の13歳! もう少しで14歳になるんだ! あ、でも正確には少し違うんだけど!」
よく考えたら、ダンジョンを出たらバレてしまうではないか。
エムの時は幸いにも、何か勘違いをしていたようで、あまり警戒はされなかったが今回もそう上手く勘違いして貰えるとも限らない。
訂正しようと思ったが、その前にアリアが口を開く。
「私はこの前お誕生日が来まして、現在13歳です」
「13歳!?」
実は高校生くらいだとか、そんなことかと思っていたが、まさかの13歳であった。
同い年である。
「13歳で働いてるって、凄いね!」
「住み込みで働いているといった感じです」
「なるほど」
またしても、深い事情がありそうだ。
「私まだ働いたことがないからさ、アリアちゃんが凄い大人に見えるよ」
「そうですか?」
少し照れたような表情をすると、アリアは少しの間顔を下に向ける。
「ちなみになんのお仕事してるの?」
「豆腐屋です」
「豆腐!? え、職人さんなの!? 難しそう!」
「そこまで難しくはありませんよ。私がやるのはお手伝いとか、後は雑用とかが主ですので」
「へぇ!」
「なので、豆腐は作れないのです。ただ、お料理はできます」
「おお! 実は私も結構料理するんだよね!」
「楽しいですよね」
おそらく自分の作る料理よりもクオリティが高いのだろうなと、ノナは感じていた。
◇
しばらく歩くと、出口のゲートが見えて来た。
「もうすぐ出口だよ!」
「本当ですか!? 出られるみたいで、良かったです!」
2人はゲートを潜り、ダンジョンを出る。
「なんか、見た目変わってませんか!?」
アリアはノナを見ると、目を丸くした。
「ごめん。実は28歳なんだ」
「一体どういったカラクリですか!? ノナさんの場合は、あの洞窟に入ると若返るってことですか!?」
アリアの外見は、ダンジョン内と比べると、髪の色が黒になっているのと服装が和服になっているくらいしか違いがない。
ダンジョン外で和服ということは、コスプレイヤーか何かなのだろうか?
ゲームの存在を知らないのに、コスプレをするのだとしたら、かなり珍しいタイプかもしれない。
「な、なんですかここは!?」
ノナに対して驚いていたアリアであったが、既に彼女の目線はノナの方を向いてはいなかった。
都心のビルを見て、信じられない光景を見ているように目を見開いている。
「どうしたの?」
「まだダンジョンとやらを抜けていないのでは!?」
「え? ここはダンジョンの外だよ? というか、なんか凄いおしゃれな格好だね! 大正ロマンって奴かな?」
大正時代の人の服装がこんな感じだったと、教科書で見た写真がなんとなく脳裏に映し出された。
「大正ロマン……?」
「この時代じゃ死語だったりする……?」
15年前は使っていた人もいた気がするが、この時代ではどうなのだろうか?
もしも誰も使っていないのだとしたら、またしてもおかしな人だと思われてしまう。
「私は聞いたことがありません!」
死語だったか。
「変なこと言ってごめんね?」
「そんなことより、ここどこですか!?」
「どこって、東京だよ。あんまり人が通らない所だけど」
「東京!?」
ダンジョン内では大人しかったアリアなのだが、ダンジョンから出てからは結構な頻度で叫んでいる。
「嘘ですよ、絶対!」
「いや、本当だって! アリアちゃんどうしちゃったの……?」
もしかして、ダンジョン内のモンスターを見て、ショックを起こしたのだろうか?
先程までは大丈夫だったので、もしかして時差があるのかもしれない。
「ここは夢の中なんですかね!?」
「違うと思うよ! とにかく、家に帰る? 送って行くよ!」
「お願いします!」
◇
「ここが私の職場……」
アリアはコンビニの前でそう呟いた。
豆腐屋ではなく、コンビニ店員だったということだろうか?
「東京なのに、色々と違います……」
「だ、大丈夫?」
「しかも、皆さん見たことのない格好をしています……」
待てよ?
(こういうのって、なんかのアニメで見たことある!)
アニメや漫画ではありがちだが、この反応は、もしかするかもしれない。
だとすれば、非科学的過ぎるが、この時代にはダンジョンという科学では解明できていないであろう不思議な空間が存在する。
であれば、本来はアニメや漫画などでしかあり得ないそれも、あり得るかもしれない。
「アリアちゃんって、明治時代に住んでたのかな?」
「住んでいたってどういうことですか? 明治は終わりましたよ。今は大正です」
『今は大正です』
冗談のような口ぶりでもなく、大真面目にそう言った彼女。
いくらあり得るかもしれないと思っていたことでも、驚きである。
実際にそれを聞いたノナは一歩下がって軽く叫ぶように口を開く。
「アリアちゃんって、もしかしてこの時代の人じゃないの!? 嘘でしょ!?」
「ど、どういうことでしょうか?」
アリアは、疑問符を頭上に浮かべるような表情をする。
この叫び以外はノナが原因ではないのだが、それでも先程から驚かせてばかりで申し訳なく感じる。
「アリアちゃん、落ち着いて聞いて」
アリアはノナよりも、少し身長が低めだ。
ノナは彼女と同じ目線になると、「ゴクリ」と自らの唾液を飲み込む。
「今は令和なんだ」
「れ、れいわ……?」
ノナはシリアスに、真顔ではないが眉に力を込めて頷く。
「今何年だと思う?」
「今ですか? 1924年ですか?」
「違うんだ。今は2024年なんだ。信じられないだろうけどね」
「そ、そんな……!」
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