63話 少女漫画

 ミソギに元の時代に戻りたいと思っているかと聞かれたが、その答えは当然……


「戻りたい! だって私まだ中2だし、高校にも行ってないし!」

「分かった。それだけ聞きたかった」

「どうして?」

「私がまだまだノナのことを分かっていなかったってものあるけど、どうしてもここ数年のノナを見ていると、今のノナが凄く楽しそうに感じられてね。もしかしてずっとこっちの時代にいたいとか、考えたりするようになったのかと思ってね」


 確かにミソギの言う通り、この時代での活動も楽しい。

 未知のダンジョンという存在そのものであったり、何より元の時代でも友達だったミソギと話せるのもそうだ。


 ダンジョンを通して、新しい友達と出会うこともできた。

 エムやフェンリルなど、人かそうでないか関わらず、新しい繋がりができた。


 元の時代に戻るのは正直悲しいという思いもある。

 だが、元の時代で過ごして楽しいと感じることも沢山あるだろう。


 それに、この時代の自分にも体を返したい。

 何より、自分が生きている時代は、ここではないのだから。


「お別れするのは正直寂しいけど、元の時代で時を重ねた後に、また会いたい!」

「なるほどね。ありがとう」



「全員、ダンジョン探索もインターネットもやっているみたいだから基本的にどっちをやっても構わないけど、どっちの方が多く活動できるか一応聞いておこうかな」

「どういうこと?」

「例えば私とノナはニートだけど、後藤さんは学業があるからね。私も就職活動があるとはいえ、後藤さんに比べると自由が効く」

「つまり?」

「私個人の意見としては、私とノナはダンジョン探索を優先して、後藤さんはネットでの情報収集を優先して欲しいかなってね。勿論、学業優先だから空いた時間でいいんだけどね」

「あ、そういうことね!」


 本人に聞くまでもなく、ミソギが答えを出した。

 それを聞いたエムは……


「私、ダンジョン配信もありますし、ダンジョン探索の時間は元々多いですよ!」

「そう、それもあるね。できれば後藤さんには学業もそうだけど、今まで通り趣味を楽しんで欲しくもあるよ。それに、ネットでの情報収集に関しては正直私とノナよりも後藤さんの方が得意だと思ってね」

「そうですか?」

「うん。私は昔ほどネットに触れてないし、ノナもそうだし。勿論、趣味の配信と並行して色んなダンジョンに行くのは有難いけどね。正直、学生時代の楽しい時間をあまり減らして欲しくないっていうのもあるね」

「そうですか……分かりました! なんか、ありがとうございます!」

「お礼を言いたいのはこっちの方だよ。協力してくれてありがとう。後、繰り返しになるけど、情報収集も空いた時間でいいからね」

「はい! 配信者という立場からも、何か探れたら探ってみます!」



 会議のような何かが終わると、各々がスマホを見たりして過ごしていた。

 ノナはエムの部屋にある漫画を借りて読んでいる。


「少女漫画もバトル展開があるのか!」


 漫画は好きなのだが、少女漫画はあまり読んだことがなく、少年漫画や男女向け漫画を読むことが多い。

 だが、ここで大きな発見だ。


 少女漫画も直接的な殴り合いやバトルはないものの、基本的には何者かと対立しているシーンが多い。

 結局は戦いの方法が変わっただけで、少女漫画も他の漫画と大きな違いはないのかもしれない。


 結局最後まで漫画を読み、その日は夕方になったので、解散となった。


「楽しかったね!」

「うん。でも、ダンジョン探索に慣れちゃうと、少し物足りないんじゃないの?」

「確かにダンジョン探索も楽しいけど、それと同じくらいにあんな風に訳もなく集まるのって、楽しいからさ! いや、今回は一応訳はあったけどね! それに私、話すの好きだからさ!」

「そう……変わったね」

「何が?」

「この時代のノナはあまり話すの好きじゃないからね」

「そうなの!?」

「うん。いや、今私の隣にいるノナが変わったんじゃなくて、この時代のノナが変わったのか。15年の歳月で人は変わるものだね」


 そんな話をしながら、途中ミソギと別れる。


「今日はダンジョン探索するつもりじゃなかったけど、ダンジョンの話をしてたら、したくなっちゃったなぁ……よし! 少し探索しよう!」


 丁度まだ行ったことのないダンジョンが近くにあった。

 場所は東京なのだが、あまり人が歩いていないマイナーなエリアである。


 ノナはダンジョンゲートをくぐり、ダンジョン内へと入る。


「やっぱり、こっちの方が動きやすいね!」


 ダンジョン内では元の時代と同じ姿になる。

 ダンジョン内の体はダンジョン外の体よりも身体能力が高くなるというのが探索者の常識だが、それを差し引いたとしてもやはり元の体の方が動きやすい。


 ちなみに、ダンジョン内のノナは髪を銀に染めてある。

 銀髪という奴だ。


「特に何の変哲へんてつもないダンジョンだ」


 ダンジョンはほとんどが、広い洞窟のようなダンジョンだが、それでもダンジョンによって雰囲気は違う。

 そんな中、このダンジョンはただ茶色い岩壁しかないダンジョンなので、シンプル中のシンプルダンジョンであった。


 モンスターもスライムやゴブリンなど、あまり強くないモンスターが出現し、他の探索者も見かけない。

 つまりは、特にめぼしいものがないダンジョンなのかもしれない。


 だが、だからこそ調べる価値があるのかもしれない。

 まだ知られていないだけで、何かがある可能性だってあるかもしれない。


 ノナはダンジョンを進んでいく。

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