62話 ○○なう
「ノナの表現はともかくとして、実際に昔から荒れてた所は荒れてたし、あんまり変わってないっていうのは事実かもね」
ミソギはそう言うと、オレンジジュースの入ったコップを口に付け、一口それを飲む。
「ただ……ネットも人は増えたからね。その分荒れてない場所も荒れるようになったといえば、その点は変わっているとも言えるかな」
この時代の女子高生であるエム、そして2009年からやって来たノナ。
その2人に対して、ミソギはネットの歴史と共に長い人生を歩んできた人だ。
その表情はどこか、寂しそうだった。
と、思っていたのだが……
「〇〇なうとか、言ってた時代のツイックスはどこに消えたの!? なんか世界観変わったよね!? 一見同じように見えるけど、別ゲーだよね!? 例えるなら、もうユーギオー決闘モンスターズとユーギオーセブンッスくらい似てるけど別ゲーだよね!? セブンッスは違う面白さがあるけど! ツイックスもそうかもしれないけど! ツイックスは明らかに前よりも荒れてるよね!?」
突如早口になり、ギャグマンガのようなツッコミを叫ぶミソギ。
どれくらい早口なのかと言うと、上のセリフを10秒で読み上げたくらいである。
昔のミソギも、たまにこうやってギャグマンガの真似をしていたので、それもまた懐かしい。
「ごめん、少し興奮し過ぎたね」
「色々あったんだねぇ」
この時代のノナも、ツイックスにハマっていたのだろうか?
「ミソギはツイックス好きみたいだけど、私もハマってたの?」
「最近はどうか分からないけど、高校時代と大学時代はよくやってたね」
「へぇ!」
ということは、最近はやっていなかったのだろう。
「折原さんもツイックスやってたんですね! フォローしてもいいですか?」
折原さんとは、ここにいる折原ミソギのことだ。
ミソギはエムに画面を見せる。
「えっ!? 折原さん2011年からやってるんですか!? 大先輩ですね!」
「確かに年数だけ見れば凄いかもね。でも、最近はあんまり呟いてもないし、ネット友達もいないけどね。フォロワーも3桁だし、あんまり凄くないと思うよ」
「そんなことないですよ!」
フォロワーとは、おそらくチャンネル登録者的なあれだろう。
この時代のノナはどのくらいのフォロワーがいたのだろうか。
(如月パイン ツイックス)
2人が話している間にこのワードで検索をしてみると、アカウントが出て来た。
フォロワー数は3だ。
(3って低いのかな?)
とは言っても、おそらくこれはVTuber活動用のものなので、本来のアカウントはもっとフォロワーがいるのかもしれない。
どちらにしろ、今のノナが気にするべきことではないだろう。
◇
あれから時間が経って、ダンジョンについての会議が始まった。
会議と言っても、ごっこ遊びのような感覚で会議と言っているだけで、そこまで堅苦しいものではない。
机の周りに集まり、それが始まった。
「何話すの?」
「これからの活動だね。楽しむってことも勿論だけど、ノナを元の時代に戻す方法も探さなくちゃならないからね」
そういえば、そうだった。
「って言っても、手掛かりは何もないんだけどね!」
ノナは他人事のように軽く笑った。
「いや、君のことなんだけどね」
「分かってるって! でも、手掛かりがないのは本当だし」
自称神と戦った際は元の時代に戻れたかのように思えたが、実際にはそういった幻空間に飛ばされていただけの可能性もある。
それを考えると、本当の意味で元の時代に戻るというのはかなり難しいことなのかもしれない。
「一応私としては、多くのダンジョンに行くことと、ネットでの情報収集が鍵だと思っているよ」
ミソギが何やら考えて来てくれたようで、それを口にした。
「多くのダンジョンかぁ」
「うん。まだまだダンジョンって謎が多いからね。この前の自称神だって、ネットのどこを探しても載ってなかったし」
確かにそうだ。
それに自称神は異世界の術師の化身だと言っていた。
勿論それは嘘で単なる自称かもしれないが、もしも異世界があるのだとしたらそれこそ可能性は無限大に広がる。
異世界がないにしても、ダンジョンはまだまだ謎が多いので、数多く探索活動を重ねることは大切かもしれない。
そういえば、前のノナもそう考えていたような気もする。
結局は、未知の可能性を秘めたダンジョンに掛かっているということなのだろう。
「ネットに関しても、確かにガセネタは沢山あるけど、それと同時に有益なネタもある。実際にダンジョン探索者wiki、通称探索者wikiにも結構お世話になっているしね。こっちはこっちで大切だと思う」
「なるほど! 確かに昔よりもネットを使う人が増えた分、些細な書き込みが重要な手掛かりになったりもしそうだしね!」
「それもあるね」
結局は今までと、やることは変わらなそうだ。
「大体、今まで通りの活動ってことでいいのかな?」
「うん。でも、一応確認しておきたいことがある。前にも聞いたことがあるかもしれないけど、それについての最終確認だよ」
なんのことだろうか?
「ノナは正直、元の時代に戻りたいと思っている?」
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