61話 アンチ

 ノナはエムの元へと駆け寄ると、彼女は立ち上がる。

 闘技場では、痛覚も無効化されるので、一見痛そうな攻撃を食らったエムも特に苦しそうな表情はしていない。


「まさか、リサイクルをあそこまで使いこなすなんて、思わなかったよ!」

「使いこなすって言っても、ゴリ押しだけどね!」


 改めてあの剣の力を思い知ることになった。

 1日1回、10秒の時間制限があったとしても、かなり強力な力だ。


 アニメや漫画……どちからというと特撮だろうか?

 制限が掛かった滅茶苦茶強い強化フォームだと考えれば、その制限さえも逆に燃えるかもしれない。


 もう1つのスキルは使用しなかったが、どちらにしても今は使用することができなかったので仕方がない。


「それにしても、ノナどんどん強くなっていっちゃって、少し寂しいなぁ……私の方が先輩だったのに……」

「いやいや! 私まだダンジョンについて分からないこと沢山あるし、エムの方が先輩なのは変わりないって!」


 実際にそうだ。

 ノナがダンジョン探索者になったのも、ついこの前と言っても過言ではないからである。


 まだ、1か月と少ししか経過していない。


「そうかな?」


 先程まで、ションボリと顔を下に向けていたエムであったが、ノナが励ますと彼女は顔を上げて、少し照れながらパアッっと表情を明るくした。


「うん! クランのこととか、私全然分からないし!」


 クラン。

 それは、ダンジョン内で結成するグループのようなものである。


 クランを結成すると、色々と特典があるらしい。

 特にデメリットもないので、3人で結成しようと決めたのだ。



 そして次の日。

 休日ということもあり、3人で集まることになった。


「ここがエムの部屋かぁ!」

「お邪魔します」


 目的は遊ぶことが主で、おまけにダンジョンについての会議といった予定だ。

 エムが「私の家に来ない?」と言ったことがきっかけで、今日はエムの部屋に集まることになった。


 初めてエムこと後藤ごとう絵夢えむの部屋に来たが、ピンク色の小物が多く、アニメに出てくるゆるふわ系の女の子の部屋のような雰囲気を放っている。


「私達が来ても良かったのかな?」


 ミソギは、ピンク色のカーペットが敷かれている床に座った後、首を傾げた。


「どうして?」

「いやだって、私達は後藤さんの同級生でもなければ、そもそも学生ですらないからね。親御さんからしたら、なんか変なことに巻き込まれていないか、心配になるんじゃないのかなって」

「え!? だって私中2だよ!?」


 むしろエムよりも年下である。


「でもそれ、私と……後はこの前、後藤さんにも教えたんだっけ? そうだとしても、私達意外知らないよね」

「うん! でも実際中2なんだから、大丈夫っしょ!」

「何その理論」


 実際に中2なんだから仕方がない。

 そもそも、何も怪しいことなどしようとしていないので、エムの親には安心して欲しい所だ。


「仕方がないか、私は席を外すから待ってて」


 ミソギはそう言うと、エムの部屋のドアに手をかけ、そのまま部屋から出て行ってしまう。

 10分くらい経つと、お盆にお菓子とジュースを人数分乗せたミソギが戻って来た。


「何して来たの?」

「親御さん達への挨拶だよ」

「ここ来た時もしてたじゃん」

「うん。だけど、私達の関係を詳しくは話してないからね。ダンジョンで一緒に活動する友達ってことを話して来たよ。心配かけさせちゃうと悪いからさ」

「おお! 大人だ!」

「大人だからね」


 ミソギは机の上にお盆を乗せる。


「これ、後藤さんのお母さんにいただいたから」


 3人はいただきますをした後、お菓子やジュースに手を付け始めた。



「アンチからのコメントって傷つくよね」


 エムがポツリと呟いた。

 アンチとは、なんだろうか?


「アンチって何?」

「アンチって言うのは、私のことを嫌っていて、それを表に出す人のことかな」

「大変だね。あっ! でも、私の配信にも結構そういうコメント来てたかも!」


 この前、暇だったので配信していたのだが、暴言などのコメントが飛び交っていた。

 リスナーはなぜか、そのコメントを受けたノナのことを心配していた。


 おそらくそのアンチも本気で言っている訳ではないのだから、安心して欲しいのだが。


「やっぱりインターネットで活動していると、そういうことあるよね……」

「そうだね! でも、なんだろう、元の時代のネットを思い出して少し懐かしかったな!」

「え?」

「あー、私元の時代では掲示板によく書き込んでいたんだけど、暴言が飛び交うのって日常茶飯事だったからさ! 私は普通の書き込みをしただけだったのに、よくそういうコメントが来てた! 昔からネットの皆は元気いっぱいだったよ!」

「元気いっぱい……?」


 エムは先程まで悲しそうな表情だったのだが、真顔になるとつぶやいた。

 その後、彼女はクスリと笑うのだが、それがトリガーとなったのか今度は声を出して笑い始める。


「あははは!」

「どうしたの?」


 なぜか笑い続けるエム。

 どうしてしまったのだろうか?


「いや、アンチのことを元気いっぱいって表現するの、初めて聞いたからさ!」


 エムは笑い過ぎて出た涙を右手の甲でぬぐう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る