59話 第2章エピローグ
「そんな……」
「がっかりしちゃった!?」
向かい側に座っているエムは眉と顔を下げ、下を向いた。
もしかして、正体がノナで幻滅してしまったのだろうか?
「なんか、ごめんね。想像と違って、幻滅させちゃったかな?」
「ううん」
エムは顔を左右に軽く振った後、顔を少し上げる。
「それに関してはむしろ嬉しいよ。パインさんとは友達みたいな関係だったし、ノナとも話していて楽しいし……」
「なんか照れるね!」
「けど、私が悲しいのはどうしてこの前話してくれなかったのかなって……」
それは自分が如月パインだという自覚がなかったからである。
この時代のノナであれば、それは分かっていただろうが、2009年のノナは当然の
「それは……知らなかったと言うかなんと言うか……そもそも本当に私がパインさんだっていう確証もないんだよね」
「どういうこと? 私、ノナの言っていることがよく分からないよ」
エムの目から、雫が流れ落ちる。
それが見えた時、ノナは決断した。
「エム、よく聴いて!」
ノナが言うと、エムは顔を完全に上げた。
「実は私、パインさんであってパインさんじゃないんだ」
「え?」
エムは頭上に疑問符を浮かべるような表情をした。
ノナは続ける。
「実はミソギにしか言ってないんだけど、私実はこの時代の人間じゃないんだ! 体はこんなだけど、中身は中学2年生なんだ!」
「え……え……?」
信じられないといった表情のエム。
それもそうだろう。
もしも自分がエムの立場であれば、ふざけていると思うかもしれない。
「証拠はないんだけどね。うぅ……未来から来たんだったら、何かしら証拠が出せたのに」
例えば、少し近い未来を予言するなどをすれば、信じて貰えるだろう。
だが、過去から来たというのは、証明することはできない。
有名作品である、時をかける女の子みたいに、上手くはいかないものである。
「信じるよ!」
「え!? 信じるの!?」
予想外の返答であった。
エムの表情は先程とは変わって、眉に力がこもっている。
「うん。確かに最初は困惑したけど、よく考えてみたら結構納得するというかなんというか」
「納得?」
「だって、こう言っちゃ失礼だけど、あんまりノナって年上っぽくないし」
「中2だからね!」
「仕事してないみたいだし」
「中2だからね!」
「ダンジョン内の姿も、なぜか最初から中学生くらいの見た目だったし」
「中2だからね!」
「それに、たまに変なこと言うし」
「2009年から来たからね!」
「え? 2009年から!?」
そんな感じで、とりあえず腑に落ちたようで、エムはノナの言ったことを信じてくれたようだ。
「でも、良かった!」
「何が?」
「パインさん、モンスターの背中に乗りたいって言ってたから」
エムは優しく微笑む。
そうだったのか。
当然の如く、今のノナはそれを知らない。
「後、こうやって会えた! 嬉しいです、パインさん!」
「えっと、タメ口でいいよ?」
エムはクスリと笑うと、「ごめん」と笑う。
「ノナも自分で言ってたけど、今のノナはパインさんであってパインさんじゃないんだったね」
そう、今のノナはあくまでも15年前のノナだ。
如月パインの中の人などではない。
「もし私が元の時代に帰ることができたら、その時はそう呼んであげてよ」
「うん! じゃあ、ノナのことは今まで通りノナって呼ぶね!」
◇
「そういえば、これからどうするの?」
「何が?」
「エムのダンジョン探索者としての目標って、パインさんに見つけて貰うことでしょ? だから、探索者続けるのかなって」
エムは如月パインに見つけて貰う為に、ダンジョン探索者となったが、だとすれば目標は達成した。
正確には達成してはいないが、この時代にいないのであればどうしようもない。
「勿論続けるよ! 楽しいし、それにノナが元の時代に戻れる手掛かりが見つけられたらいいかなって! あっ! 勿論、今のノナに帰って欲しいとかじゃなくて、その……帰って欲しくはないけど、友達だからこそ自分の時代を生きて欲しいと言うか……」
大体言いたいことは分かった。
空白の15年間を作って欲しくない、そういうことだろう。
「大丈夫! 分かってるよ!」
寂しそうな表所をしているエムに対して、ノナは余裕そうに言い放った。
「むしろ、ありがとう!」
実際、元の時代に戻れるかは分からない。
だが、ダンジョンという不思議空間があるのであれば、元の時代に戻れる可能性は0ではないだろう。
どちらにせよ、空白の15年間は取り戻したい。
それに、この時代の自分に体を返したいという思いもある。
「とりあえず、この名前の長いパフェでも食べよう!」
「うん……そうだね!」
巨大という程でもないが、大盛な苺パフェ。
食べきることができれば良いのだが。
第2章 完
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