58話 レース部門(後編)

 そう、ルールには沿っている。

 ならば、こちらもルールに沿って勝つまでだ。


 レース部門に関しては、テイマー自身が攻撃することも許されている。

 皆モンスターに掴まるのに夢中で、あまりテイマー自身による妨害は行われないが、このスキルであれば見るだけで発動ができる。


「スキル発動! 【逆再生】!」


 見た対象を動画の逆再生のように逆再生させるスキル、【逆再生】をエムとケリュネイアに向かって発動させた。

 その結果、物凄い速度で向きはそのまま、はるか後ろの方へと走っていった。


『その手があったか!』

「すっかり忘れてた!」


 ケリュネイアが他の走者を失格にさせてくれたおかげで、もう前方には誰もいない。

 そのままゴールに向かってフェンリルは突っ走ると、見事1着でゴールを果たした。


「やった!」


 ノナは両手を上に挙げ、叫んだ。


『我の力にかかれば、こんなものだな』


 と、フェンリルも「フッ」と軽く笑いながら、嬉しそうにしていた。

 しばらく経つと、他の選手達もゴール。


 エム&ケリュネイアは、おしくも3着となってしまったようだ。


「まさか、まさか! ノナ選手がバトル部門とレース部門で優勝を果たす形となりました! 皆さん、頑張った選手達に拍手をお願いします!」


 審判がマイクを使い、会場に響き渡るように叫ぶと、レース部門に参加をした選手達に拍手が送られた。



 ビッグサイト内部のようなエリアへと戻ると、そこで表彰式が行われた。

 ノナが表彰台に立つと、会場にいる皆から拍手が送られる。


「では、ノナ選手! 一言お願いします!」


 何を話そうか。

 少し迷った後、ノナは口を開く。


「初めて出場しましたが、楽しかったです! 2部門共に優勝できて嬉しいです! それもこれも、このフェンリルのおかげです!」


 正直、この大会でノナがやったことといえば、スキルを発動したくらいだ。

 フェンリルのおかげと言っても、過言ではないだろう。


「なるほど! ありがとうございました! では、最後に優勝賞品を受け取ってください!」


 と、ここで2冊のノートを渡された。

 確かスキルを覚えることのできる、スキルの書という奴だろうか。


「こちら優勝賞品のランダムスキルの書です!」

「ランダム?」

「何が取得できるかは完全にランダムですが、その分可能性がありますよ!」


 ということなので、ありがたくそれを受け取る。

 ちなみに、2つの部門で優勝したので、2冊貰った。



 会場となっていたダンジョンを出ると、ノナはエムと歩きながら話す。


「ノナ、強いね!」

「今回はフェンリルが強かっただけだよ! それに、そっちこそ強かったよ!」

「ありがとう!」


 打ち上げと言っていいのかは分からないが、帰りに喫茶店に寄ることになった。

 2人は席に座ると飲み物やパフェを注文する。


 飲み物はノナはココア、エムはコーヒーで、パフェよりも先に来た。


「エムは結構な頻度でスマホ触ってるよね!」

「そうかな?」


 エムが首を傾げたので周囲を見渡してみると、エムだけでなく、ほとんどの人がスマホを触っている。

 この時代の人達は、皆スマホを触るのが好きなのかもしれない。


 そういえば、この時代に来たばかりの時もそんなことを考えていたような気もする。


「皆何やってるの?」

「SNSとかゲームとか、後は読書をしたり動画を見たり……人によって色々だと思う」

「便利な世の中になったもんだね」

「なんかノナって時々、変わった物の見方をするよね」

「色々あってね。ちなみにエムは何やってるの?」

「ツイックス!」

「それ人気みたいだよね!」

「ノナはやってないの?」

「うん!」


 確かやっていなかった。

 やっていたとしても、登録をしたくらいだろう。


 少なくとも、ノナの記憶からはすっかりと抜け落ちていた。


「お待たせしました。こちら超混沌銀河神超越創造封印神究極体苺パフェファーストエディションでございます」


 店員さんがそれを、ノナとエムの前にそれぞれ置くと、去っていった。

 大盛ではあるが、それぞれ1人で食べきれなくはないサイズだ。


 多分。


「美味しそう!」


 綺麗だったので、写真を撮ろうと思う。

 元の時代で使っていた携帯……ガラケーと呼ばれているらしいが、それよりもかなり高画質で撮ることができる。


「私も撮ろうっと!」


 ここでエムも写真を撮る。


「そういえば、今の人って結構写真撮るよね!」

「ノナも撮ってるよね?」

「高画質だからね! 最近色々撮ってるんだよ!」


 と、ノナは最近撮った写真を色々と見せた。


「え!? この画像をどこで!?」

「あーこれね! 入ってたんだ! かわいいでしょ?」


 この時代に来たばかりの時、確か重かったなどの理由でパソコンを初期化したのだが、その時に入っていたアニメキャラか何かの画像を数枚だけUSBメモリに保管しておいたのだ。

 今思えば、VTuberのような気もしなくもない。


 となれば、モデルがパソコンのどこかに入っていたのかもしれない。

 ノナは心の中で元の時代の自分に謝罪をした。


 と、ここでエムが。


「入ってたって、もしかしてノナって如月パインさんのファンだったの!?」

「声大きいって!」


 いつものエムに似合わず、困惑した表情で叫んだ。


「ご、ごめん!」

「いや、私はいいけどね? というか、この人が如月パインさんなの?」


 エムは頷いた。

 パイン色、つまりは黄色い髪の魔法使いの女の子。


 それがノナのスマホ画面にある訳だが、どうやらこの人が如月パインらしい。


 もしかしたら、パソコン内を探せば名前が載っていたかもしれないが、それも消してしまったので気が付かなかったようだ。


「他の画像もある!? 私も大ファンなんだよ!!」

「あるよ!」


 と、エムにスマホを渡すと、再びエムは叫んだ。


「これって配信画面のスクショじゃないの!?」

「そうなの?」


 VTuberとして配信をしたことがないので分からないが、どうやら配信している本人しか撮影できないものが入っていたらしい。


「バレちゃ仕方がない! 私が如月パインだったのだよ! ……多分ね」


 ノナは「多分ね」以外の部分を、自信満々の表情で叫んだ。

 周囲の客がこちらを見て来たのと、ノナ的にはまだ確証がなかったので、声のボリュームを落とした。

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