57話 レース部門(前編)

 バトル部門終了後、ノナとエムは元のビッグサイト内部のようなエリアへと戻る。

 表彰式は、レース部門が終わってから行われるようだ。


 ノナとエムだが、勿論レース部門にも参加をする予定だ。

 出場モンスターはバトル部門のモンスターと変わらず、フェンリルで挑む。


 エムもケリュネイアで出場するらしい。


 レース場は闘技場エリアと同じような仕様となっており、死亡などは起こらないようになっているようだ。

 ノナとエムはレース場へと向かうと、自分達の位置に付く。


「それでは、改めてルールを説明します! 先にレース場を1周した人の勝ちです!」


 陸上……というよりも、競馬場のようなコースとなっている、レース場である。

 とは言っても、競馬場のコースとは比べ物にならないくらい、長くて広い。


 モンスターの速さと力を考えたら、当然ではあるのだが。


「テイムモンスターの背中から離れたら、その時点で失格となります!」


 単純な強さや速さだけでなく、それ以外にも優勝するチャンスがあるということだ。

 逆に速くて強いモンスターだとしても、油断はしてはいけない。


「フェンリル、皆何してくるか分からないから油断しちゃダメだよ!」

『分かっとるわ』


 皆指定の位置についたようで、レース場が静まり返る。


「位置に付いて……よーいスタート!」


 審判の合図で、レースがスタートされた。

 フェンリルもスタート地点の地面を蹴り、走り出す。


「結構皆速いね」


 フェンリルは強いモンスターではあるが、彼女よりも速いモンスターもそこそこいるようだ。

 前の方に、10匹のモンスターが走っている。


 ちなみにバトル部門と同じく、参加者は100名近くだ。

 飛行は禁止ということもあり、皆地面を蹴って進んでいる。


「ぐあああああああ!! 目があああああああああっ!!」


 いきなりのことだ。

 前方のテイマーが地面を転がっている。


 モンスターから落下したようだ。


「暴れるな!! くそっ! 目をやられたのか……ぐあっ! 俺の目もっ!」


 前方を走っているもう1人の別なテイマーが叫ぶと、暴れたモンスターから振り落とされ、地面を転がっていった。


「一体どういうこと!?」


 何が起こっているのだろうか?


『あいつの後ろには行かない方がいいみたいだな』

「え?」


 よく見ると、失格になったテイマーはエム&ケリュネイアの後ろを走っていた。


「攻撃してるってこと?」


 確かに、このレースは攻撃はありなのだが、攻撃したようには感じなかった。


『違う。いや、攻撃ではあるが地味な攻撃だ』

「どういうこと?」

『土だ』

「土?」

『ああ、地面を蹴り上げた勢いで、モンスターや人間の目に向かって土を飛ばしているようだな。全く、とんでもない奴だ』


 しかし、他の選手にもタネが割れたのか、他に土攻撃で失格となる者は今の所いない。



「フェンリル! そろそろ中間地点を抜けたし、全力を出した方がいいんじゃない?」

『そうだな』


 前方にいるのは、ケリュネイアだ。

 他にもいたのだが、ケリュネイアの蹴りをテイマーが顔面に受け、次々と地面を転がり失格となってしまった。



 レースも終盤に差し掛かって来た。

 ルール上は攻撃をしても良いのだが、ノナはフェンリルの全力に振り落とされないように、とにかくフェンリルにがっしりと掴まっている。


 おそらく、エムもそうだろう。


「キュイイイイイン!!」

『我が負ける訳がない!!』


 全力のフェンリルだが、ケリュネイアには届かない。


「よし! 今の内に!」


 フェンリルとケリュネイアが争っている間に、馬のモンスターにまたがった男性テイマーが、フェンリルを抜かしていった。

 その時……


「キュイン!!」

「ぐああああああっ!!」


 ケリュネイアはテイマーの男を口で咥え、それをマーリオカートのバナナのように、こちらに向かって投げつけて来た。


「任せて!」


 ノナはカオスソードを引き抜くと、飛んで来たテイマーを弾いた。

 名も知らぬテイマーは、地面をゴロゴロと転がる。


『あの鹿! なんて奴だ!!』

「一応ルールには沿ってるから……」

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