54話 フェンリルが変身してみた!

 バトル部門とレース部門で分かれているテイマーズグランプリだが、それらは並行して行われる訳ではなく、1つずつ行われる。

 ノナも両方に参加したかったので、おそらくそういったテイマーの為にこのような仕様なのだろう。


 最初に行われるのはバトル部門だ。

 その名の通り、自分のテイムモンスター同士を戦わせて、優勝を目指すといったものである。


 予選はかなり大きな森林のフィールド内で行われる。

 その中で最後の8名になるまで、サバイバルゲームをするという訳だ。


 このフィールド内では痛覚も実際のダメージも受けないので、代わりに頭上に表示されるHPゲージが消費される形となる。

 ノナがこの前エムと戦った闘技場と同じ仕様という訳だ。


 基本的になんでもありだが、本選と同じようにテイマーが攻撃をすることは許されない。

 そしてテイマーは勿論のこと、登録したモンスターのHPが0になった場合も、その時点で失格だ。


『それでは、皆さん! 頑張って生き残ってください! 予選開始です!』


 フィールド内に運営のアナウンスが響き渡る。

 今回の参加者は、100人と少しだ。


 この森林にその人数のテイマーが押し込められているので、どこから奇襲が来るか分からない。


「頑張ろうね!」

『そうだな! 折角強大な力を手に入れたのだ! となれば、暴れたいというものだ!』


 巨大な狼のモンスターであるフェンリルは、ニヤリと笑ったかのように口角を上げた。

 まるで悪役のようなセリフだが、気にしないでおこう。


『ここで隠れてるのも面倒だ! 奥の手を使ってもいいか?』

「奥の手?」


 もしや、人間への変身のことだろうか?

 そういえば、まだ見たことがない。


「人間に変身するって奴?」

『違うぞ? あれは戦闘向けではないのでな!』


 フェンリルの体が虹色に輝く。


『我は強大な力をこの身に取り入れた! そしてその結果、我も誤算だった程の力を手に入れた! その正体が……これだ!!』


 光が収まると、そこには6枚の翼を持った銀色の龍がいた。


「その姿は!?」


 異世界の術師の化身……つまりは自称神の色違いだ。


『驚いたか!』

「どうして龍に!?」

『なぜにそこまで驚く。我が人化できるようになった時は、あまり驚かなかったではないか』


 そういえばそうだ。


「いや! モンスターが人化するって、色んな作品でよくあるじゃん!」

『モンスターと人間では、全く種族が違うではないか! であれば、われが龍の姿を手に入れたというのも、自然というものよ!』

「……確かに」


 反論しようと思ったが、確かにそうだ。

 フェンリルと人間はなんの関係もない、全く別の生き物だ。


 彼女の言う通り、フェンリルが人化するのが自然なのであれば、龍化するのも自然なのかもしれない。

 それにしても、あの姿になれたのは、やはり異世界の術師の化身……つまりは自称神のドロップアイテムを吸収したからだろうか?


「ところでフェンリル、相手の精神を別な空間に送ったりする技って、手に入れていたりする?」

『そんなものないぞ!』


 自称神を完璧に再現している訳ではなさそうだ。


『さて、特別に背中に乗せてやろう!』

「おお!」


 フェンリルの姿で乗せて貰ったことはなかったので、初めて背中に乗る形となった。


「何するの?」

『我も早く終わらせたいのでな!』


 フェンリルは、口内に白銀のエネルギを溜め、それを光線にして下に向けて打ち込む。

 一か所だけではなく、飛行しながらフィールドを破壊するように打ち込んでいく。


『はっはっは! 見ろ! 人が……』


 フェンリルが言いかけた所で、こちらに向けて下から矢が飛んで来た。

 彼女はそれを避けるが、その相手を見つけると、睨みつける。


『許さん! はあああああああああああああああああっ!!』

「ぐああああああああああああああああああっ!!」


 矢を打ち込んできたゴブリンと、その隣にいたテイマー目掛けて、フェンリルは口から白銀の光線を打ち込んだ。

 ゴブリンとテイマーのHPは0となり、どこかへと吹き飛んで行った。


「強い!」


 こうなってしまっては、シルバーソードがない今、本当にどうしようもないだろう。

 味方になってくれて、本当に良かった。


『そろそろ限界だ! 降りるぞ!』

「え?」


 フェンリルが下へ戻ると、ノナは彼女から降りる。

 フェンリルは元の狼形態へ戻ると、少し疲れたような表情をする。


 それにしても、龍になれるようになった今、フェンリルは少し紛らわしい。

 後で名前を考えておいた方がいいかもしれない。


『やはり、あの形態は力の消費が激しいな!』

「やっぱりそうだよね」


 強すぎる形態には、リスクや制限が付き物である。

 誰もいない所で、10分ほど休むことにした。


 だが、フェンリルが暴れたおかげか、10分後には再びアナウンスが流れるのであった。


『そこまで! 本選出場メンバーが決まりました! 戦闘を行っている方達は今すぐ中止してください!』

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