53話 テイマーズグランプリ当日!

『なんだ……これは……』

「ドロップアイテムだよ!」

『何やら凄まじい力を感じるのだが、一体どこで?』

「内緒! でも一個しかないから早い者勝ちだよ!」


 これはあの時手に入れたものだ。

 あの激戦の後、実はドロップアイテムを入手していたのである。



「いっけえええええええええええええええええええ! 【ゴッドスレイヤー】!」

「グオオオオオッ!?」




 自称神との戦いの後、消滅したそのドラゴンは、1つのドロップアイテムを落としていった。

 それがこの、虹色の玉であった。


「えっと、怪しい物を食べさせるのもあれだからやっぱり言うけど、これは異世界の術師の化身のドロップアイテムだよ」

『異世界? 異なる世界ということか? 本当にそんなものが存在するのか?』

「フェンリルはフェンリルなのに、異世界を信じないの!?」

『信じない訳ではないがな。我からすれば、ダンジョンの外も立派な異世界だ』


 確かにそうだ。


「ただ、こうも色んな世界があるとなると、中々混乱してしまうというものだ」

「そうかな?」


 であれば、ノナが過去から来たことを話したら、どんな反応をするのだろうか?

 今はまだミソギにしか話していないが、いずれは彼女にも相談をしてみてもいいかもしれない。


 何かしら、元の時代に戻る方法を知っている可能性もある。

 そんなことを考えていると、フェンリルが口を開ける。


「折角だから食ってもいいか? 我は強くなりたいんでな」

「どうぞ!」


 フェンリルの舌の上にそれを差し出すと、彼女はそれをゴクリと飲み込んだ。


『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』


 フェンリルの体は虹色に輝き、それが収まる頃には……


「見た目は何も変わってないね」

『中身は大幅にパワーアップしている!』

「神のドロップアイテムだからね」


 正確には神ではないが、それでも異世界の魔王よりは強いらしいので、物凄い力が手に入ったというのも自然な話だろう。


「で、新たな力は手に入ったの?」

『ああ! 人間に変身できるようになったぞ!』

「それだけ!?」

『それだけとはなんだ! これがあれば、ダンジョンにあるレストランに入れるんだぞ!』

「あー……、確かにモンスターの姿だと入れないかもね」


 人間と一緒であれば入れるだろうが、フェンリルはプライドが高いので、ノナに頭を下げたりしたくはなかったのかもしれない。


『勿論、それだけじゃないぞ! 大幅にパワーアップもした!』

「それはいいね!」


 シルバーソードがない今、もしかするとノナよりも強いかもしれないが、それは言わないでおこう。



 8月の末、テイマーズグランプリ当日。

 テイマーズグランプリの会場である、八王子に電車で向かい、そこから少し歩いた所にあるダンジョンゲートを潜る。


 ダンジョン内部に入ると、ダンジョン内とは思えない空間が広がっていた。

 東京にあるビッグサイトのような内部で、ドアがいくつか設置されている。


 おそらくこのドアの先に、会場や運営の部屋があるのだろう。


 後はダンジョン探索者が大勢いて、皆がそれぞれモンスターを連れて歩いているのも普段中々見ることのできない光景だ。


「あ!」


 その探索者の中に見覚えのある顔を見つけると、向こうもノナに気が付いたのか、こちらへ小走りで寄って来た。


「ノナ! 今日はライバルだね!」


 鹿のモンスター、ケリュネイアを連れている女子高生、後藤ごとう絵夢えむである。


「ケリュネイアはこの前の戦いから、かなりパワーアップしたからね! 今回は負けないよ!」


 エムに合わせるように、彼女の隣にいるケリュネイアが小さく鳴く。


「こっちだってね!」


 パワーアップしたのは、フェンリルも同じだ。

 自称神のドロップアイテムを取り込んだので、かなり強化されていることだろう。


「じゃあ、次はフィールドで会おうね! 行こう、ケリュちゃん!」

「キュイイイン」


 ケリュちゃんというのは名だろうか?

 エムはノナに後ろ姿を見せると、歩いてその場を去る。

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