49話 受けるネタを教わってみた!

「忘れてってどういうこと!?」

「そのまんまの意味だよ。さっきは念の為に説明したけど、ノナは今のままでいいと思うよ。戦略的な配信や動画よりも、好きな風にやった方がいいと思ってね。ノナにはノナにしかない独自性もあるし」


「独自性ってどういう意味だっけ?」

「簡単に言うと、ノナの場合は他の人にはないものがある」


「二次元についての知識とか?」

「少し違うかな? それだったら、他の配信者にもノナ以上の知識を持つ人は沢山いるからね」


「違うの!? じゃ、じゃあ、タイムスリップしてきた所とか?」

「ほぼ正解だね」


 ほぼということは、90点くらい正解という意味だろうか?


「どの辺が不正解なの?」

「タイムスリップしてきた人って言うのは、皆に話せないでしょ? だからそれ自体じゃなくて、ノナがついこの前まで2009年を生きていた人間という所がポイントなんだ」


「古い人間だからいいってこと?」

「ほぼ正解だね」


 先程と同じ返答が来た。


「それ好きだね」

「惜しいからね。どこが惜しいのかというと、流行だよ」


「流行?」

「そうだね。例えば、昔流行ったネタやノリを、あえて今やる人はいるかもしれないけど、天然でそれができる人はいないと思う。だって、時間が経過してるからね。その頃学生だった人も大人になっている。例えば私もそうだね」


 天然で昔のノリをできるという点が、他の人には真似ができないノナの独自性。

 おそらく、ミソギの言っていることはそういうことだろう。


「でも、それって受けるのかな?」

「大衆受けはしないと思うよ。今と昔は違うからね。例えば礼を挙げるとそうだね」


 ミソギは腕を組む。


「パロディネタ、メタネタ、壮大なボケ、壮大なツッコミ……ノナが生きていた時代では多くの人に大受けしていただろうけど、今の時代だと寒いと言われることが多いね。勿論、全部が全部じゃないけどね」

「受けないの!?」

「残念だけど、大衆受けは難しいよ。だからこそ、希少性もあるんだけどね」


 ということは、どういうものが受けるというのだろうか?


「どういうものが大衆受けするの?」

「バズったものだね」


 バズるは確か、ネットで注目を浴びることを指す言葉だった。


「ってことは、バズらせるにはバズる必要があるってこと!?」


 鶏が先か、卵が先か? という奴だろうか。


「でも、ノナはあんまりそういうことを考えなくていいよ。寒くてもなんでも、やってみるといいさ。ネットというフィールドを凍りつかせろ」


 ミソギは「キリッ」とした表情で、言い放った。


「大丈夫。自分を信じて死ぬ気で死なない程度にやればいいさ。本当に15年前とは全然違うからね」


 ミソギは右手の平に、左拳をポンと置いた。


「もう1つ例えを出してあげようか? ノナの好きなアニメでね」

「アニメで?」


 先程の話の続きだとすると、受けの違いのことだろうか?


「昔……いや、ノナにとってはそこまで昔じゃないね。流行っていたアニメに『宮永ハルカの咆哮ほうこう』ってあったでしょ?」


 『宮永ハルカの咆哮』とは、2006年に放送されたアニメであり、オタクの代名詞とも呼ばれたアニメだ。

 これをきっかけに深夜アニメに興味を持つ者も多く、これを語ろうとするとにわかオタクされる可能性が高い。


 この時代ではどうだろうか?

 そして、このアニメの注目されたポイントの1つとして、ED曲である『ハレハレ☆ダンス』がある。


 映像はアニメキャラがダンスを踊るというものなのだが、それがアニメオタク達に大受けし、文化祭などで踊る人達もいたという。

 ニコ動にも踊ってみたが、多数投稿されていた。


「そのアニメがどうしたの?」

「初めて放送されたのが今だったら、軽くだけど炎上するかもね」


「なぜ!?」

「ハレハレ☆ダンスがかなり有名だったでしょ? 今だったらネットをやっている人も昔より多いし、おそらくもっと話題になるよね。でも、ハルカにはたまにだけど、下ネタギャグがある。そうなったら、軽い炎上が起こると思うんだ」


「深夜アニメって、下ネタ無い方が珍しくない?」

「今はそうでもないよ。それだけ、深夜アニメが世に浸透しているってことだね。全部が全部じゃないけど。それに踊れるアニソンはネットでバズりやすいからね。多くの人に注目を浴びた後だと、ちょっとした下ネタも問題になるのさ」


「そうなの? でも、私もミソギもあんまり下ネタ好きじゃないっしょ?」

「うん。だから今のは例えだよ。それだけ何が受けるのかが変わってきているってことさ。だから私は正直見たいんだ。15年前の中学生が現代のネットに降臨したら、どうなるのかをね」


 またしても、「キリッ」とした表情でミソギは言い放った。

 ノナは両腕を大きく広げ、目を輝かせる。


「なんだか壮大だね!」


 ミソギは「ふっふっふ」と、クールに口角を上げる。


「その方が面白いでしょ?」

「うん!」


 ノナは元気よく頷いた。


「投げ銭や広告収入があれば、収入にもなるし。流石にこの時代のノナが戻って来た時にニートはやばいからね」

「ってことは、本気でやらないとマズい感じ!?」


 思わず、一歩後ろへ下がってしまう。


「半分冗談。そもそもTUBEだけで生活とか宝くじでそれなりの賞が当たるくらいの運が必要だし、あわよくばって感じだね。とにかく、楽しんでおいで」

「なんだか、ミソギお姉ちゃんみたいだね」

「今のノナから見たら、お姉ちゃんかもね」

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