48話 配信やろうかな?

 映画館から出た2人は、デパート内を歩きながら会話をする。


「感動したね!」

「エムは大人だなぁ」


 ノナの体は満29歳なので、事情を知らないエムにとっては「何言ってるの?」といった感じだろう。

 そもそも、将来的に恋愛することになるかどうかは、今の段階では分からない。


「何回映画見ても、ポ〇モンカード当たらへんがな! お金返してーや!」


 映画館の方から、男の声が聞こえた。

 環境カードを入場者特典、しかも当たるかどうかがランダムなのは、確かにキツイかもしれない。


 何度も映画館に通わなくてはならない上に、下手をすれば数万円を使用する羽目ハメになるからだ。

 そして、カードゲームは同じカードを複数デッキに入れる場合が多いので、その場合を想像すると中々に恐ろしい。



 その後、デパートのフードコートで天丼を食べると、そこをあとにする。


「楽しかったね!」

「うん!」


「ノナさ、本当に配信やらないの? あんなに強いなら、ダンジョン配信でも結構稼げるんじゃないの?」

「そんなに稼げるの?」


「多分稼げるよ! ……多分ね……いや、どうかな……?」

「急に弱気になった!?」


 先程まで、絶対的な自信がありそうな表情だったが、冷静な表情へと変わるエム。


「確かにノナは強いけど、ダンジョン配信はレッドオーシャンだからね」

「レ、レッドオーシャン?」


「レッドオーシャンって言うのは、簡単に言うと、もう沢山の人がやっていて競争率が高いってことかな」

「なるほど! で、それだとどうなるの?」


「チャンネル登録者が伸びにくくなる。こう言っちゃなんだけど、今って色んな探索者がいるからね」


 ということは、やはりやらない方が良いということだろうか?


「稼ぐってなると、やっぱり大変なんだねぇ」

「うん。なんか、私から言っておいてごめんね」


 だが、おかしい。


「ミソギに聞いたんだけどさ。確か結構簡単にバズるんじゃなかったの?」

「折原さんが……?」

「うん!」



~回想~


『ミソギ、何読んでるの?』

『Web小説だよ』


 どうやらこの時代ではWeb小説が流行っているようで、ミソギはよく読んでいるようだ。

 ケータイ小説のようなものだろう。


『文字か……』


 小説を原作としたアニメは昔から好きであったが、小説自体は少し苦手意識がある。

 小説が苦手というよりも、細かい文字を読むのが苦手なのだ。


『異能力学園系?』

『いや違うよ。ダンジョン配信だよ。最強の主人公が配信をしてバズるのが気持ちいいんだ』

『強いとバズるの!?』

『うん』


~回想終了~



「それは多分、Web小説での話を言っていただけだと思う」

「そうなの!?」

「確かにバズるかもしれないけど、継続してバズるのはちょっと厳しいかな……。ほら、やっぱり配信ってエンターテインメント性が大事だから、強いだけだとキツイかな? そもそも一定以上強いと、後は強さとは別な部分で勝負しなくちゃならないしね」


 あくまで強さだけをウリにするのであれば、そういった配信をすればいい。

 だが、基本的配信の場合は一定以上の強さを持った後は、エンターテインメント性が重視されるようだ。


 ただ強いだけの配信では、ダンジョン配信ガチ勢が視聴者のほとんどなので、大金を稼ぐのは難しいらしい。

 バズるには、大勢の人が見て面白いと思える配信をすることが重要だとのことだ。


「なるほど!」

「って、ノナは知ってるよね? 私より配信は詳しいでしょ?」

「いや! 全然詳しくないよ!」

「またまた! 今までマナー違反だと思って言うの我慢してたけど、ノナってVTuberなんでしょ?」

「え? 違うけど?」

「え? 違うの!?」

「いやいや! だって見たでしょ? 私のコメント! ノナおじって呼ばれてた奴! 少し前まで、私VTuberが何かすら知らなかったんだよ? やってないやってない!」


 まるで冗談を言うように、軽く笑いながら言った。

 冗談ではなく、本当に知らないのだが。


「そうなんだ……え? じゃあ、え? 普段何して? え?」

「何?」

「いや、なんでもない」


 ともあれ、配信については気になって来た。

 確かに逆張りをして、やらないと言ったが、無理だと言われると興味が出て来た。


 その辺りも相変わらずの逆張りっぷりである。

 それに、例えお金にならなくとも、趣味でやるのならば何も問題ないではないか。


「私、配信やる!」

「結局やるの!?」

「たまにだけどね」


 あくまで趣味としてだ。



「ということでミソギ! どうすればいい?」

「私に聞くの?」


 ノナはエムと別れた後、ミソギの住むアパートへと来た。

 ミソギもダンジョンから帰って来たようで、家にいた。


「うん! だってミソギしか私の事情知らないし、そういうの絡んでくると、中々他の人に相談できないし!」

「なるほど、確かにそうだね」


 ミソギはペットボトルの緑茶を2本持ってくると、それの1本をノナに投げる。

 ノナはキャッチをすると、お礼を言った後にそれを一口飲んだ。


「まずは、ターゲット層だね」

「ターゲット層?」


「うん。ターゲット層を決めないと、チャンネル登録者をしてくれた人が次の配信を見なくなると思うんだ。例えば、ノナがダンジョンでご飯を食べる配信をしてそれで登録してくれた人がいたとする」

「うんうん」


「次にノナがボスモンスターを倒す配信をしたとして、ご飯を食べる配信でチャンネル登録をしてくれた人が見てくれるとも限らないと思うんだ。勿論、ノナのことが気に入って見てくれる人もいるかもしれないけど、そうとも限らないからね。配信者は他にも沢山いるし。友達と共通の話題を話す為にも、大手の配信者しか見ない人もいると思うしね」

「厳しいんだね」


「うん。だからこそ、ターゲットを絞るのは大事だと思うよ。例えチャンネル登録者の伸びが悪いとしても、確実なファンを得た方がいい……って、私は思ってる。例えば熱狂的なファンがいれば、新しく配信に来た人も、「この配信盛り上がってるな」って思うと思うしね」

「む、難しい……もっと簡単に!」


「分かった。じゃあ、今のこと忘れて」

「ええ!? どういうこと!?」

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