46話 恋愛映画を見に行く!

 ノナとエムは試合を終えると、近くの映画館へと向かう。

 打ち上げの一環のような感じである。


 なぜ映画なのかというと、どうしてもエムが見たいという映画があったからだ。


 ミソギは装備をどうするかを考えたいとのことだったので、ダンジョンに残った。

 ノナとエムは、現在映画館の席に座って上映を待っている。


「あちゃー! 特典はハズレだ」

「特典?」

「入り口で銀色のパック貰ったでしょ? あれに当たり券が入っていたらポ〇モンカードと交換ができるんだよ! 私はやってないんだけど、なんでも大会で勝つには必須カードみたいでね! 当たりの確率は10分の1くらいなんだけど、それ目的でリピートする人もいるみたい! おまけに、100分の1くらいの確率で、光ってるカードも出るんだってさ!」

「え? ポ〇モンの映画なの? 恋愛映画じゃなかったの?」

「恋愛映画だよ! ポ〇モンはコラボだよ!」

「なるほど! コラボね!」


 それにしても、この時代は元の時代よりもポ〇モンカードが人気のようだ。

 環境カードがランダム特典なのは、良いのだろうか?


「エムは好きな俳優さんとかいるの?」

「特にはいないよ。それに、この映画は話題の俳優さん達をエキストラとして採用してるから、知ってる俳優さんは少ししか出ないんだよ」

「ええ!? 話題の俳優さんをエキストラに!?」


 かなりのお金がかかっているということが分かる。


「主人公とかヒロインは、じゃあ誰が?」


 無名の俳優だろうか?


「それが、スカウトして来た人達なの」

「スカウト!? ってことは、俳優さんですらないの?」

「うん。アニメのコラボカフェに来ていた人達から、スカウトしたみたい」

「それは凄い!」


 2人が小声で話している間に、上映時間となった。



~映画~


女性『私、東京に行こうと思うの!』

男性『なんだって!? それは本当かい!?』


女性『うん。東京の大学に行きたいんだ』

男性『なんだって!? それは本当かい!?』


 この男性と女性は付き合ってはいないものの、毎日のように会っており、周りからは恋人同士だと思われているくらいの仲だ。

 しかし、女性の上京をきっかけに、しばらく会えなくなる。


 いや、もしかするともう二度と会えないかもしれない。


女性『どうしても叶えたい夢があるから! ごめん!』

男性『なんだって!? それは本当かい!?』


女性『驚かせちゃってごめん……でも、どうしても叶えたい夢があるから!』

男性『夢ってのはな、呪いと同じなんだよ』


女性『それって、夢を諦めろってこと? それは……』

男性『貴方は……貴方のことだけどうぞ』


女性『私のことを応援してくれるの!? 自分のことを一番に考えろって?』

男性『俺に干渉しないでください』


 一見ヒドイことを言う男性であったが、女性は長い付き合いから、彼の本当の気持ちは分かっていた。


女性『分かった! 私、絶対夢を叶えるね!』

男性『その夢、叶えろ! 夢を実現し、真実にするんだ! 君ならできる!』


女性『うん……! 君の気持ち、絶対に無駄にしないから! ……でも……もしさ、奇跡が起きて再会できたらさ、その時は……』


 最後のセリフを言い終える前に、男性は口を開く。

 言いにくそうな女性に配慮をしたのだ。


男性『ノーコメもありや』

女性『……分かった。その奇跡が起きた時に伝えるね』



 そして、あれから3年後。

 東京で奇跡は起きる。


男性『俺はスポーツにハマってる?』

女性『え?』


 なんと、所属するテニスサークルの遠征に行った際、別の大学との試合があったのだが、その対戦相手があの男性だったのだ。


男性『まだまだだね』


 男性は油断している女性のコートに、サーブを打ち込んだ。


女性『また会えたね! でも、ごめん! 私、好きな人ができたの! だから、あの時伝えたかった言葉は……』


 言い終える前に、男性はニコリと笑い、言う。


男性『君の笑顔で元気満タン』

女性『え!?』


 男性は女性の笑顔を見られただけで、十分に嬉しかったようだ。


女性『……ごめんね! 本当にごめん! でも、私の気持ちが変わった頃に、もう一度会えたらその時は……。ううん、奇跡は一度だけだもんね、だから奇跡なんだ……』

男性『自然に体が動いちゃうんだ!』


 暗い話を終わろうと言いたげな感じで、男性はもう一度サーブを打ち込んできた。



 あれから5年が経過した。

 女性の夢は叶わなかった。


 しかし、それはもうどうでも良かった。

 今の夢は、あの時の男性と結婚することだ。


 どうしても彼のことが忘れられなかったのだ。


 そして、とある日の朝礼で2度目のそれは起こる。


上司『新人だ。今日から君にこの人のお世話を頼む』

男性『新人……です……』


 女性が勤めている会社に、転職して来た男がいた。

 その男が……彼だった。


 スーツの上から分かるくらいに、筋肉がムキムキに成長している。


女性『君が新人……?』

男性『はい……』


 男性は柔らかい笑みで頷いた。

 あまりの出来事に、女性は軽い放心状態におちいってしまった。


女性『嘘でしょ……?』

男性『奇跡は一度だったよな?』


 女性の目から、雫が流れる。


女性『う、嘘……』

男性『じゃあ二度目はなんだ?』


 お互いが寄り添い合い、キスを交わした。


女性『二度目は……運命かな?』

男性『計画通り』


 男性は嬉しそうに笑った。


女性『もうっ! なんだか悪役みたいだよ? ごめんね、今まで! 好きです! 付き合ってください!』

男性『なんだって!? それは本当かい!?』


 と、ここで。


同僚『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!』


 同僚の男が発狂した。


同僚『何告白してるんだよぉぉぉぉぉ!!』


 そんな同僚に男性は言い放つ。


男性『虎視眈々?』

同僚『そうだよ! 心のどこかでずっと狙ってたんだよ! ワリぃかよ!? そ、それなのに……どうしてこうなったぁぁぁ!? くそったれぇぇぇぇぇぇ!』


 同僚は男性に向かって、殴りかかった。

 急な出来事だったので、拳を顔面に食らってしまう。


 それに対し、男性は叫ぶ。


男性『なんなんだぁ? 今のは? この10秒は誰にも負けねぇぞ!! 付き合ってやるよ!! 10秒間だけな!!』

同僚『なっ!?』


 男性は同僚の股間を蹴り上げ、鳩尾みぞおちを殴り、トドメに右脚で同僚の顔面に蹴りを入れた。


 えぐるように、それは同僚の顔面に命中した。

 同僚は吹き飛び、机に背中からダイブすると、パソコンや資料やコーヒーが一気に周囲にぶちまけられた。


女性『さ、さっきの答えだけどさ……どうかな?』

男性『じゃ、結婚すっか!』


女性『……はい! 2人で幸せになりましょう!』


~映画終了~



「う~ん」


 ノナに恋愛はまだ難しかったようで、あまり楽しめなかったというのが本音だ。

 やはり、この映画は大人向けということだろう。


「ぐすっ……」


 エムは大人なのか、ハンカチを取り出して、号泣している。

 泣いている顔を見られたくないのか、顔を下に向けている。


「ご、ごめんね! 行こうか」


 エムは泣き終えると、全部食べられなかったポップコーンを持って立ち上がった。

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