44話 平成の中学生vs令和の高校生

 挨拶代わりに飛んで来たのは、サッカーボールくらいの大きさの火球である。

 そんな火球に対抗するように、ノナはアーツを発動させる。


「【ファイアボール】!」

「!?」


 エムは驚いたようで、一歩後ろへ下がった。

 それもそのハズ。以前のノナは、ファイアボールなど使えなかった。


 しかし、試合を約束したその日から時間は経過しているのだ。

 一週間程だろうか。


 この時代のノナはニートなので、時間はたっぷりある。

 毎日アニメを見たり漫画を読んだり、美味しい物を食べたり、たまにダンジョン探索などをして修行をしたのだ。


 ファイアボールのアーツも、その時の修行で手に入れたものだ。


「ふんもっふ!」


 テニスボールくらいの大きさの火球を、エムが放った火球へ向けて、ジャンプしながら右手の平でバレーのサーブのように弾いた。

 が……


「あれ?」


 てっきり、同じ技同士がぶつかり合って、熱い戦いが始まるかと思ったのだが「ぽふっ!」と消えてしまった。

 エムのファイアボールの方が強かったようだ。ノナは慌てて右に大きくジャンプをしながら避けた。


「やるね!」


 ノナは、いい技のぶつかり合いだった感を演出し、すぐに立ち上がる。


「仕方ない! 剣を抜こう!」


 やはり、ファイアボールはノナには向いていないようだ。

 カオスソードを鞘から抜き、ドヤ顔をしながら右手で構える。


(シルバーソードと違って、相手に近づかないと攻撃できないし、自動で防御してくれないし、ピンチの時も奇跡は起きないんだよね。かっこいいけど、そこら辺が難点なんだよね)


 ノナは心の中でカオスソードに向けて、軽い愚痴をこぼした。


(でも、それでいいけどね! 私が奇跡を起こせばいいだけだからね!)


 ノナはエムに向かって走るが、エムはファイアボールを3発撃ち、近付けさせないようにしている。

 ノナはなんとか避けつつ、エムに接近する。


「いっけええええええええ!」

「きゃっ!」


 カオスソードの刃が、エムの右肩から右腰に向けて走った。

 カオスソードもシルバーソード程ではないが、かなり高威力のようで、その衝撃で吹き飛び壁に軽くめり込んだ。


・ノナおじつえええええ!

・というか、あの剣何?

・オーダーメイドだろ

・エムちゃんやられちゃうん?

・落ち着け、エムにはまだまだ秘密兵器があるだろ


「そうだね! 皆ありがとう!」


 一体何が来るというのだろうか?

 考えていると、エムは水色のクリスタルを取り出す。


「そ、それは!?」

「ふっふっふ!」

「何!?」


 ずっこけそうになるエムであったが、すぐに気を取りなおし、説明を始める。


「これは召喚石だよ! これでテイムしたモンスターを召喚するの!」

「おお! それは凄い! あれ? でも、エムってモンスターテイムしてたっけ?」

「ついこの前のことだよ! そして、この子は強いよ!」


 エムの右手に乗った水色のクリスタルが光る。


「出ておいで! ケリュネイア!」

「け、ケリュ?」


 どんなモンスターなのか、想像がつかない。

 だが、すぐにその正体が判明する。


 エムが叫んだその後、クリスタルは更に光り輝き、彼女の目の前には神秘的な鹿のモンスターが立っていた。

 エメラルドグリーンの毛並みが、非常にツヤがある。角は金色に輝いており、明らかにその辺りにいそうなモンスターではないことがノナでも分かる。


「ケリュネイア……」


 丁度近くにいたミソギが「ササッ」と、ノナの背後へ回り、ボソッとつぶやいた。


「後藤さんの召喚したモンスターはギリシア神話、ケリュネイアの鹿がモチーフのモンスターだと思うよ」


 ミソギはダンジョンスマホを見ながら、続きを言う。

 というか、先程から見ていたようだ。


「えーと……ケリュネイアの鹿は女神アルテミスの聖獣とされる雌鹿で、矢よりも早く移動できるという。角の生えた雌鹿は当時のギリシアには居なかったが、この鹿には生えている……だってさ。ウィキは勉強になるね」

「解説ありがとう!」


 解説が終了したミソギは「ササッ」と、遠くへと移動した。


(あくまでその神話をモチーフにした存在で、実際は違うハズ!)


 それならば、勝てる。

 例え神話が相手だろうと、この前のようになんとかするとしよう。


(そもそも女神のつかいであって、女神そのものじゃないみたいだしね!)


 それになんといっても、今回は攻撃を受けてもただHPゲージが削れるだけなので、やりたい放題やってみようではないか。


(それに……こんなこともあろうかと!)


 ノナはニヤリと笑う。


「フハハハン」

「どうしたの?」


 ノナはニコ動でネタにされている、カードゲーム主人公の序盤の笑い方の真似をした。


「こっちにもいるんだよねぇ!」


 ノナは腰の収納箱から、銀色の指輪を取り出すと、それを中指に装備する。


「おいで! フェンリル!」


 シーン……。


「フェンリル!? フェンリルー!?」


 おかしい。念の為、フェンリルと話し合っておいたのだが。

 もしや、どこかのダンジョンで冒険中なのだろうか?


「キュイィィィィィィン!」


 物凄いスピードでケリュネイアが接近してくる。

 シルバーソードがあれば、余裕でカウンターをするか、防御をすることができたのだが。


「ちょっと! フェンリル!?」


 ノナは指輪に向かって、フェンリルに呼び掛け続けた。

 だが、反応はない。


「やばっ! 私の体がフィニッシュ!」


 ピンチだと思ったがケリュネイアがノナに触れようとした時、ノナの指輪から出てくるようにしてフェンリルが出現した。

 ケリュネイアはフェンリルに弾き飛ばされるが、空中で体勢を立て直すと、無事に着地をする。


「キュイィィィィ!?」

『待たせたな!』


・喋ったァァァァァ!?

・え!? あの時のフェンリル!?

・神話対決だと!?

・ノナおじ何者だよ

・召喚石使ってないってことは、テイムされてないのに反則じゃないの?

・テイムモンスターの定義としては、探索者が何らかの方法で召喚したモンスターだから、別に反則じゃない

・そもそもどうやって、テイムしないで仲良くなったんだよ

・というか、フェンリルの声かわいいね

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