43話 他人の配信で暴れる平成の中学生

「そういえばさ、その人ってなんていう名前なの? もし良かったら教えてくれないかな?」


 もしかすると、ノナが知っている人物かもしれない。

 例えば、2009年の世界でも、VTuberではないが同じ名前で活動していた可能性もある。


如月キサラギパインさんだよ」

「如月パイン……」


 残念ながら、身に覚えはなかった。

 ただ……


「いい名前だね!」


 なんとなく、いい名前だと、直感的に思った。


「そうだね! 私もそう思うよ!」

「もしも見かけたら、エムに言うね!」

「本当!? ありがとう!」



 後日、ノナとエムは銀座にあるダンジョンへと来ていた。

 ここには闘技場があるので、そこを利用する為に来たといった感じだ。


 闘技場は、闘技場と言う名前ではあるが、外見はボス部屋と変わらない。

 エムいわく、コロッセオのような闘技場もあるらしいが、このダンジョンにはないとのことだ。


「お誘いありがとうね」


 戦いはしないが、ミソギも観戦として来ている。

 配信にも映らないが、誘ったらノナの応援に来てくれた。


「どうも! 皆さん! エムちゃんねるです!」

「どうも皆さん! ノナでーす!」


 なんとなく、エムの真似をしてみた。

 同じように挨拶をすれば、おそらく問題ないと思ったからだ。


・誰?

・今回エムちゃんと戦う相手だろ、どう考えても

・今とは装備と髪色が違うけど、フェンリルに襲われた時にエムを助けてた子だよな

・ノナって言うと、ノナおじを連想してしまう


 コメントが闘技場の壁に、プロジェクターで映し出されている。

 そういったアイテムもあるようで、闘技場ではレンタルが可能なようだ。


「ノナおじって?」


 おじということは、おじさんと言うことだろうか?

 なんとなく気になり、反応してしまう。


 ちなみに、ノナとエムの発言をドローンカメラのマイクが拾ってくれるので、叫ばなくてもリスナーには十分に伝わる。

 それもあり、ノナの何気ない疑問にもリスナーは答えてくれた。


・気にしなくていいよ

・名前が同じなだけで無関係だろ、ノナちゃんに失礼

・一応答えておくけど、VTuberの配信に長文貼り付けてたおじさんのこと


 VTuberの配信に長文……ノナも同じことをしていた。

 それがふとノナの脳裏によぎり、口に出す。


「私も同じことしてたなー! あ、でもちょっとコメントが失礼だったみたいで、そこは反省だけど! って、これ配信だよね!? 配信でこういうこと言っていいんだっけ!?」


・!?

・え!?

・ノナおじって、女の子だったの!?

・いや待て、まだ分からんぞ!


 コメントが、先程よりもにぎやかになっている。


「私おじさんじゃないよ!」


・知ってる

・知ってるけど……

・ノナは顔文字好き?


 顔文字はよく使っている。

 なぜならば、オタクっぽくてどこかかれるからだ。


「うん! 使ってるよ! 配信にコメントする時も使ってたしね!」


 と、ドヤ顔でそれを言うと……


・マジか!

・ノナおじ女の子だったんか!

・いやいや、いやいや……え?

・趣味がアラサーの女の子だと……!?


「あれ? なんか私どこかで有名な感じ?」


 ノナはエムの方へ顔を向ける。


「私もこの前知ったんだけど、なんかどこかの掲示板で有名らしくて。というか、その人ってノナのことだったの!?」

「どうやらそうみたいだね!」


 まさか、有名人……という程かは分からないが、噂になっていたとは。

 しかもなぜか、おじさんだと思われていたらしい。


 理由は分からない。


「えっと、皆さん! それじゃあ、今から私とノナで戦います! 皆さんいいですか? ブラッディデスゴブリンを倒したのは、ノナなんです! ノナの強さを見たら、ビビっちゃうからね!」


・本当に強いの?

・エムちゃんの方が強いでしょ、新スキルも手に入れたみたいだし


「皆! ネタバレ禁止!」

「青春禁止ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ♪」


・は?

・は?

・自由過ぎるw

・ノナちゃん、ノリがオタクなんよ

・今はオタクもオシャレだったり、空気読めたりする人も多いからな

・懐かしい空気だ


「おっとごめん! ついネタを挟んでしまった! 私の癖なのだよ!」


 ノナは右手の親指と人差し指でVの字にすると、それを顎に当ててドヤ顔をしながら言った。


「と、とりあえず皆! 応援よろしくね!」


 エムは一瞬困惑した。



 試合前の挨拶を終えると、闘技場の端と端に、ノナとエムはそれぞれ立つ。


「私、あれから強くなったからね! 負けないよ!」

「なんかこの前よりも燃えてない!? なぜそんなに本気を!?」


 これでエムが勝ったら、ダンジョン警察にますます近付いてしまうではないか。


「リスナーの皆は色んな人の配信を見てるからね! 手を抜いたらバレちゃうから!」

「そうなの? でも、いいや! こっちこそ負けないからね!」


 ノナとエムは、右腕に黒いリストバンドのようなものをはめると、互いの頭上に緑色のHPゲージが表示された。

 これを先に削り切った方の勝ちである。


 配信画面に映し出されたカウントダウンが開始され、それが0になるとエムは杖を構える。


「ファイアボール!」


 エムの杖から、火球が発射された。

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