42話 誤解の新人

 次の日。

 ノナはエムからの誘いで、デパートへと来ていた。


(急にどうしたんだろう?)


 昨日の夜、話したいことがあるとエムから連絡があった。

 丁度、謝罪文をアーカイブに張り付け終わった後のことであった。


「お待たせ! 急にごめんね?」

「私も夏休みだから大丈夫だよ!」

「そ、そうなの? 配信とかはしなくても大丈夫なの?」

「ダンジョン配信? この前も言ったけど、今の所やるつもりはないよ!」

「いや、そうじゃなくて……って、追求するのはマナー違反だよね」


 2人はデパートのフードコートに移動すると、お好み焼きを購入する。

 ノナは特にマヨネーズを多めにかけると、席に座る。


「ノナっていつもそのコート着てるけど、暑くないの?」


 ノナは黒のロングコートを着ているが、デパート内は涼しいので問題なしだ。


「クーラー効いてるから大丈夫だよ!」

「ここに来る時暑くなかったのかなーって」

「暑かったね! でも、かっこよさは重要だからね!」



「で、今日は急にどうしたの?」


 ノナが聞くと、エムは答えにくそうに一瞬目を逸らし、戻した後に口を開いた。


「ノナさ、私の配信に出てみる気はない?」

「え?」

「あ、別にノナが配信するって訳じゃなくて、ゲスト的な?」


 焦っている様子を見ると、何やら訳ありのようだ。


「何かあったの?」

「あー……えっと……うん。実はね……」


 実はこの前ノナが一撃で倒したゴブリンが、ブラッディデスゴブリンと言う名のかなり強いモンスターだったらしく、ノナが配信に映っていなかったせいでどうやらエムが滅茶苦茶強い新人ということにされているらしい。


「いいじゃん! かっこよくて!」

「それが、実は昨日、ダンジョン警察からのお誘いがあってさ」

「ダンジョン警察!? でも、エム高校生じゃん!」

「うん。けど、将来的にならないかって話を持ち掛けられたんだ」

「おお! 就職先が決まったってことだね!」

「いやいや! それはないよ! だって、ダンジョン警察って給料がダンジョン内通貨のGなんだよ? 基本趣味みたいなものだから、専業にはできないし、それに私はダンジョン配信者として活動したいんであって、ダンジョン警察には特になろうとは思ってないから!」


 ダンジョン内通貨しか貰えないということは、考えようによってはタダ働きか。

 となれば、ダンジョン警察は、本当にそれになりたい人達の集まりだということだろう。


 後はその様子を配信すれば、場合によっては稼げるだろうが、副業でそれをやるとしてもわざわざ警察にならなくても個人でダンジョン配信をしていればいいだろう。


「だから、その……ノナの強さを皆に見せたいなって!」


 エムが困っているようだったので。


「分かった!」


 エムの依頼を受けることにした。


「え!? いいの!?」

「うん! 困っているみたいだしね! でも、私はあの時よりもかなり弱体化してるから、前みたいにワンパンできないと思うよ?」


 シルバーソードを失ったのは、かなり大きい。


「それでもいいよ! それでも、私より全然強いと思うから! 後、今回戦う相手はモンスターじゃないからね!」

「違うの!?」

「うん! 私と戦って!」

「ええ!?」


 ダンジョン内は痛覚がかなり弱まるとはいえ、少しは痛い。

 それに、ダンジョン死の危険性もある。


 これでは、危険だろうし、思い切り戦うことができない。


「闘技場で戦えば大丈夫だよ!」

「闘技場?」

「知らない? 闘技場って言うのはね!」


 ダンジョン内には、闘技場と言う施設が存在するらしい。

 その施設内では、ダメージ0、痛覚0。つまりは全力で戦えるエリアとのことだ。


「でも、それだとどうやって決着を付けるの?」

「HPゲージを削り合うんだよ!」


 その闘技場には、ゲームのようにHPを可視化する装備が置かれている。

 それを使用することにより、まるでゲームのように試合ができるという訳だ。


 肉体へのダメージは0でも、仮のダメージでゲージは減るので、その辺りも配慮されている。


「ゲームみたいだね!」

「そうだね! でも、私も手は抜かないからね!」

「私勝てるかな」


 これで負けたら、エムはますますダンジョン警察に推薦されてしまうことだろう。

 なんとしてでも、勝たなくてはならない。


「エムがダンジョン警察にならなくても済むように、私頑張るね!」

「よろしくね!」



 ここでノナはとあることが気になった。

 今回は訳ありの為、戦うことにはなったが、本来エムはあまり好戦的な性格ではないような雰囲気だ。


 それなのに、なぜダンジョン配信をしようと思ったのだろうか?


「エムってさ、配信好きなのは分かるけどさ、どうしてダンジョン配信をしようと思ったの?」


 エムは柔らかく笑うと、5秒後くらいに口を開く。


「それはね……とある人に見つけて貰う為かな」

「とある人?」

「うん。その人はVTuberなんだけど、私がダンジョン探索に誘った後、配信を辞めちゃったみたいで。だから私がダンジョン配信者で有名になれば見つけてくれるかなって思ったから」


 そういえば前に、チャンネルが消えてしまった推しがいたと、話してくれたことがあった。

 おそらく、その人のことだろう。ダンジョン配信をしようと思った動機そのものだとは、思わなかった。


「今回の配信で、その人に見つけて貰えるといいね」

「そうだね。でも、気長に行こうと思う。それに、ノナ達とダンジョン探索するのも楽しいしね! 配信で皆と話すのも楽しいし、ダンジョン配信を始めて良かったよ!」

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