34話 友達を助けてみた!

☆折原 ミソギside (2024年)


 ドラゴンの口内から発せられた、黄金の光線がミソギへと向かう。


(もう駄目だ……せめて、ノナだけでも助かって!)


 恐怖のあまり、目を閉じる。

 死ぬ時、どのくらいの激痛が体を襲うのだろうか?





















 そんな不安を抱えていたミソギであったが。
















(痛くない……意外と死ぬのって痛くないの?)
















 そう考えていると、ミソギは全く別な場所へと移動していた。

 それだけではない。誰かにお姫様抱っこをされているではないか。


















「間に合ったね!」

「ノナ!?」


 ミソギが思わずそう叫ぶと、ノナは顔をこちらへ向ける。


「おお! 今のミソギ、なんだかヒロインみたいだね! もしも私が少年漫画に登場する男主人公だったら、その主人公を愛している大きなお友達からクレームが来ちゃいそうな展開だね!」

「その口ぶり……中学生のノナだ!」


 ノナはミソギを、ゆっくりとおろした。






☆吉永 ノナside


 完全にバレバレである。

 もうミソギ相手に、隠し通すことは難しそうだ。


 それにしても、またこの時代に来てからをやり直す展開も覚悟していたのだが、どうやら虹色の光線で飛ばされた時から、あまり時間のズレはないようで安心した。


 しかし、自分がここを離れている間、体はどうなっていたのだろうか?

 どちらにしてもしっかりと、後でミソギに説明をするとしよう。


「さてと、まずはあのドラゴンを倒さなくちゃね!」

「いや! 救助が来るまで、逃げ回った方がいいよ!」


「どうして? だって、逃げ回れる場所は少ないよ?」

「だったら戦うって言うの!? 無理だよ!! あいつは神なんだよ!?」


「えっ!? それってもしかして、ネットの情報?」

「あいつが自分で言ってたの!」


「あっ! それなら問題ないね!」

「どうして!?」


「ミソギが言ってたからだよ! 自分を神だとか言うキャラは、最終的に負けることが多いってね!」

「そんなこと言ったっけ!?」


 ノナはシルバーソードを右手で持ち、それをドラゴンのいる方へと向けると、言い放つ。


「かみ殺すよ……なんてね!」

「ノナ……こんな時に随分余裕だね……」


 ノナはドラゴンに向けて、勝利宣言を行った。


「ワレハ……カミ……コロス……デキナイ」

「それはどうかな? と、その前に1ついていいかな? 言葉喋れるんだったら、理性もあるよね? やめにしない?」


 その返事はなく、飛んできたのは黄金の火球であった。


「仕方ないね!」


 ノナはシルバーソードを構えると、それが自動で火球を跳ね返した。


「オマエラ……ニガサナイ……コロス……ソトノオマエモ……シヌ」


 跳ね返された火球を食らっても、ドラゴンは無傷だ。

 ならば、物理攻撃を放つまでだ。


 ノナはシルバーソードでドラゴンを斬るが、弾かれた。


「何それ!? ズルっ! だったら! 【流星群】!」


 剣を振り降ろすと、上空から流星がドラゴンに向かい襲い掛かる。

 だが、ドラゴンはそれを避けようとはしない。


 全て食らうドラゴンであったが、まるで無傷であった。


「くっそー! どうして!? ま、いいや! まだまだ行くよ!」






☆折原 ミソギside


 目の前で1人の少女と神を名乗るドラゴンが、戦いを繰り広げられている。

 ミソギはそれを見ていることしかできなかった。


(ノナ……凄いよ)


 攻撃が効かなくとも、今のノナは諦めたり弱音を吐いたりをしない。

 きっと、自分には……いや、今の自分に真似はできない。


 ミソギはそう感じていた。


(私、やっと分かったよ)


 中学時代のノナを、大人になってから見て、分かったことがある。

 あの頃は気が付かなかったが、今ならそこに気が付く。


(何かの漫画でも言っていたけど、中学生は【一番可能性を持っている時期】だとか、【伸び盛りの時期】だとか、言われることが多い。それがどうしてかやっと分かった)


 若いから、体が成長期だから。

 それが理由かと思っていた。


 勿論それもあるだろうし、人によってはそれが正解だと言う人もいるだろう。


 だが、今のノナを見ていると、ミソギの答えは違うものになった。


(【常に根拠のない可能性を信じられる時期】……そして、【1番自分らしく生きられる時期】。それが中学生なんだ。だから、中学生は1番可能性を持っているんだ)



 人は生きていく中で、様々なことを学んでいく。

 ある時は経験、ある時は外部からの情報であったり、様々な要因で人は成長していく。



 それによって、人は少しずつ大人になっていく。

 立派な大人へと、成長していく。



(けど、それは良いことばかりじゃない)


 謙虚でいる。

 迷惑をかけないように、余計なことはしない。

 辛いことは我慢する。

 やっても駄目だったら、潔く諦める。

 空気を読んで主張しない。


 立派な大人になるのには、他にも様々な条件がある。


 これらは必要なことだ。


 レールに乗って、社会から認められるには、どれも大切なことだ。


 例え思いたくなくても、そう思う。


 今のミソギは、疑うまでもなく、そう思ってしまうのだ。


 その通りにしていれば、好感度の高いモブキャラでいられるから。


 悪役にならないで済むから。


 経験や周りの反応から学習した結果である。


 大抵のことは、人を傷つけなければ問題のない行為だ。

 行き過ぎた行為でなければ、問題はないハズなのだ。


 ただ、良い人間になろうと思って生きた結果、考えや行動の幅を大きく狭めてしまったように感じるのだ。


 これはミソギだけでなく、おそらく多くの大人がそうだろう。

 それが普通なのだろう。


 実際に、周囲に多くの人間はそれを求めている。

 だから、実際に正しいことではあるハズなんだ。


(けど、中学生の時は……あの時は違った。今みたいに大人じゃなかった)


 常に希望を持っていた。

 なんとかなる。自分ならなんとかできる。


 今だったら絶対に諦めることも、諦めようともしなかった。

 根拠のない可能性を常に信じ続けていた。


 勿論、結局無理だったこともあった。

 けど、成功したこともあった。


 根拠のない可能性を信じ続けることができなければ、成功もなかっただろう。


 多くの中学生は、客観的に見ると現実を見ることのできない子供だ。


(でも、だからこそ、あの時は自分らしく生きられた)


 ある程度人格が形成され、立派な大人になる為の情報や経験が少ない時期。

 それが中学生。


 なんでもできると思える。

 常に1%以上の確率で考えることができる。


 人はそれを、”中二病”と呼ぶ。

 なんと素晴らしい響きだろうか。


『ノナはなんか、大人になったよね。私、置いて行かれちゃった』


(デパートで半年ぶりにノナと再会した時、私はノナにそう言った。今思えばどうして中学生に戻ったノナにそう感じたんだろうって思ったけど、きっと今の私にとって、中学生のノナが羨ましかったんだろう。私は大人になっちゃったからね)


 きっと大人になって何かに成功する人は、周囲の人間が思い描く成長ではなく、自分が思い描いた成長をしているのだろう。

 今からでは遅いかもしれないが、自分もそう生きてみたい。


(ノナ……頑張れ!)


 きっと敵を倒し、無事にダンジョン外へ戻れる。

 親友を……根拠のない可能性を信じてみようではないか。

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