33話 〇〇を取り戻してみた!
☆吉永 ノナside (2009年)
あれから数日が経過した。
結局、モヤモヤは晴れず、思い出せそうで思い出せないでいた。
「君が絵を描いてるなんて珍しいね。見てもいいかい?」
昼休み、ノナがノートに絵を描いていると、ミソギがそう言ってきた。
「いいけど、私普段絵描かないから、あんまり上手くないよ」
「気になったからついね」
ノナは普段描いていないので、あまり上手くない。
ミソギは絵を描くのが趣味なので、ノナよりも上手く、特に細身の男性キャラクターを描くのが得意だ。
そんなミソギがノナの絵を見て、「うんうん」と頷いた。
「架空のゲーム機を書くなんて、発想が素晴らしいね」
「そう?」
「うん。このスイッチとか、売れそうだしゲーム会社の人にでも見せてみたら?」
「いや、それは流石にマズいって!」
「どうしてだい? 素晴らしいと思うけどね。良い具合に携帯ゲーム機と据え置き機が混ざり合っている」
「いやいや盗作になるって! ……あれ?」
「どうしたの?」
「いや、なんでも……なんか……なんか思い出せそうなんだけど……」
そういえば、どうしてゲーム機など、描こうと思ったのだろう。
「別にいいけどね。後個人的にだけど、僕はこれが好きだね。ディーエスに3D機能を付けた、スリィディーエスって奴。3D機能はどっちでもいいとして、この左スティックが携帯機についている所が好きだね」
「色々コメントするね」
「うん。良いと思ったからね。それにしてもいつもの君だったら、これだけ褒められたらもっとテンション高くなっていそうなものだけど、今日はどこか具合が悪いのかい?」
「そういう訳じゃないんだけどさ……なんか私が褒められている感じじゃないというか……」
なぜなのだろうか?
いつものノナであれば、褒められたら非常に嬉しく感じる訳なのだが。
「ありがとう」
ミソギはノートをノナに返した。
「それはそうと、次の情報の授業だけど、動画は作れたかい?」
次の情報の授業では、動画を作って来ることが課題となっている。
内容はなんでもありだが、ノナは漫画の紹介動画を作った。
とは言っても、動画サイトで広告収入を貰っている人達のように上手くはいかなかったが。
(広告収入……?)
ニコ動にそのようなものが、あったであろうか?
自分で自分に対して、疑問符を浮かべた。
モヤモヤしたが、心配されそうだったので、元気に返事をした。
「作ったよ! 楽しみにしてて!」
◇
課題となった動画を皆の前で発表をすると、盛大な拍手が巻き起こった。
「吉永さん、アイデアが凄いですね!」
「そうですか?」
「はい! 動画の右下にキャラクターを設置して時に動きを入れることにより、まるで一緒に動画を見ているような気分を演出するのは流石だと思いました!」
「とは言っても、自分で書いたキャラクターの絵が、あんまり納得いかなかったんですよね」
「アイデアが凄いです! 欲を言えば例えばですが、リアルタイムで表情や動きをトラッキングして動かしながら話せれば、もっと面白いかもしれませんね!」
「あ! それって、VTuberって奴でしたっけ? 私も最近覚えたんですよね!」
反射的に叫んでしまった。
ノナ自身も、意味が分からないと感じている。
VTuberとは……?
「吉永さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ!」
下を向いて数秒黙ってしまったので、先生を心配させてしまった。
これ以上心配させたくないので、顔をあげて、元気に返事をした。
◇
「君、やっぱりなんか変だね」
「そう?」
休み時間に、ミソギはノナに話しかけられる。
「私は元気だよぉ! あっはっはっは!」
「うん、それは知ってる。普通に話している分には元気だと思うよ。ただ、君、最近良いアイデアを出すよね。それは良いんだけど、それで褒められた時だけは、テンション下がってるよね。そこが気になってさ」
「それは……私にも分からない!」
◇
次の授業が始まった。
国語の授業だ。今回は作文を書くのが主な授業内容らしく、作文用紙が配られた。
先生は、今回のテーマを黒板に書きながら、それについて説明を始める。
「今回の作文のテーマは、ずばり!
【15年後の自分】です!」
「15年後の自分……?」
そう言われた途端、脳に電撃を浴びたかのような衝撃を受け、モヤモヤが晴れる。
様々な記憶が、走馬灯のようにノナの脳裏を駆け巡った。
「そうだ……」
15年後に精神が飛び、ダンジョン探索者になって、仕事を辞めてエムと出会ってミソギと再会した。
3人で海にも行った。
最近アイデアを褒められてもそこまでテンションが上がらなかった理由も分かった。
あれらのゲーム機は、実際に存在する。ただそれを描いただけだった。
VTuberも存在する。
確か、自己紹介コメントを様々な放送に書いた記憶がある。
(ドラゴンと戦ってる途中、私は虹色の光線を受けた! そして、元の時代に戻って来た!)
ノナは完全に記憶を取り戻した。
なぜ今まで忘れていたのだろうか?
(でも、私が15年後に飛んだ日よりも数日前だ! 15年後に飛んだのは、日付で言うと……明日だ!)
明日、急いで戻らなくては。
あのままだと、ミソギが危ない。
だが、良いのだろうか?
元々の目的は、元の時代に戻ることだったハズだ。
それに、あれは今の未来だ。
今ここで助けなくても、知識だけ持っていれば、回避することもできるのではないか?
いや、違う。
あの時点のあのミソギは、あそこにしかいない。
助けないと、後悔する。
一生後悔して生きることになる。
漫画のセリフを引用して、ミソギに言ったではないか。
『生きていれば後悔することなんて山のようにあるんだ! 後悔しない生き方なんて無理ってもんよ! 後悔しまくるのは確定な人生なんだ! だったら、自分の好きなことをして思う存分後悔しようぜ!』
その通りだと、ノナは改めて思った。
◇
次の日。
朝食を食べ終えると、リビングを出ようとするが、忘れ物があった。
「お母さん、お父さん!」
「なんだ?」
「なぁに?」
「行ってきます!」
「おう! 気を付けてな!」
「いってらっしゃい!」
ノナはニコリと笑ってみせると、家を出た。
そして、運命の昼休み。
ノナは、机に伏せて寝ているミソギを見つめる。
「……ミソギ! あっちのミソギも絶対助けるからね!」
ノナは、ミソギの腋下をくすぐった。
すると、笑い声が聴こえ、ノナの方を向いた。
「何をしてるのかな?」
「人助けかな!」
「ふざけているのかな?」
ミソギはイタズラっ娘な笑みを浮かべ、2本のホウキを左右の手で逆手に持つ。
「かみ殺す!」
「よし来たっ!」
ノナは走って逃げる。
あの時と同じように、グラウンドにまで逃げた。
そして、あの時と同じように目の前が真っ白になった。
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