30話 東京タワーのダンジョンへ行ってみた!

「ねぇ、ノナってさ。最近本当に変わったよね」


 突然、穏やかそうな声でノナが言う。


「色々あったからね」

「そうなんだ……。そういえば、ノナは覚えてる?」

「何が?」

「中学2年生の時、ノナが寝ている私にちょっかいかけて、その後私が追い回した時のこと」


 その時ミソギから逃げている時に、なぜかこの時代に来てしまったのだから、覚えているに決まっている。


「その時、ノナはなぜか急に倒れちゃってさ」

「倒れたの!? え、それでどうなったの!?」


 私は思わず、叫んだ。

 叫んだと言っても、悲鳴という感じではなく、アニメがいい所で終わって、「ええ!? この後どうなるの!? 気になる!」といった時と似たテンションでの叫びである。


「起きた時には、凄く先の私達の夢を見ていたって、ノナは言ってた。また寝て起きた時には、言ったことは忘れちゃったみたいだけどね」

「そんなことがあったのか!」

「ノナ自身のことだけどね」

「あっはっは! 覚えてないねぇ!」


 今のノナにとっては、空白の出来事だ。

 覚えているの何も、そもそもまだそこに至っていない。


 バレない為に、強引に話題を変えるとしよう。


「そういえば、今日ミソギは私に色々とダンジョンについて教わりたいんだったよね!」

「うん。知識に関してはネットで集められたから、どっちかと言うと、実際の戦闘を生で見てみたいかな」

「よし来た!」


 上手く教えられるかどうかは不安だったので、ホッとした。

 これであれば、おそらく良い所を見せられるだろう。



 と言うことで、やって来たのは東京タワー。

 東京タワーのすぐ隣にあるダンジョンゲートから繋がるダンジョンは、通称東京タワーのダンジョンと呼ばれており、観光目的で来てついでに立ち寄る人も多いらしい。


「あれ?」


 ノナは東京タワーを見てつぶやく。


「東京タワーってあんな白かったっけ?」


 確かに赤と白のシマシマなのは変わりないが、白の割合が多いような気がする。

 ちなみに東京タワーが赤と白のシマシマカラーの理由は、航空法が関係していると、先生が豆知識として披露してくれたことがあった。


「塗り直したんだっけ?」

「前からあんな感じでしょ」

「そうだっけ?」


 記憶違いかもしれない。

 そもそも、今回の目的とは何も関係がない。


 ノナとミソギは東京タワーのすぐ隣にあるダンジョンゲートをくぐり、ダンジョンへと足を踏み入れた。


「ていっ!」


 ノナはショートソードでスライムを斬り付けると、一撃でスライムは粒子となり消滅した。


 ダンジョンはゲームのように、レベルやステータスが表示される訳ではない。

 だが、内部ステータスのようなものがあるのでは? とささやかれているらしい。


 もっとも、戦えば強くなると言うのはステータスがあろうとなかろうと、当然のことかもしれない。

 勉強すればするほど、成績が良くなるのと同じで、戦えば戦う程強くなるというのは確かだろう。


 ちなみにノナは勉強嫌いで、成績が悪い。


「それが本場の戦闘なんだね」

「ミソギもやってみる?」

「うん」


 村人装備にショートソードを身に着けた、要するに初期装備のミソギがスライムを、粒子になるまで何回も斬る。


「結構難しいね。後、装備を変えたいね」

「もし良かったら今度、おごる?」

「それは悪いよ」

「いいのいいの!」


 とは言っても、オーダーメイドの装備をおごるとなると、今のGでは全然足りない。

 あまり強すぎると駄目だが、倒せるレベルのモンスターの大群が現れてくれれば、助かるのだが。


 ドロップアイテムを大量に獲得して、それを売りたい。



「結構倒したね!」


 その後2人は、10匹程のスライムを討伐した。


 スライムの粘液などがドロップしたが、これはあまり高い値段では売れなかった記憶がある。

 だが、ノナとミソギの経験にはなった。


「そういえば、ネットで見たんだけど、このダンジョン最上階にカフェがあるみたいだよ。そこで休憩にしない?」

「カフェ? 行きたい! でも、最上階って遠くない?」

「エレベーターがあるから大丈夫だよ」


 ミソギが言った通り、エレベーターが設置してあった。

 ダンジョンには似合わないが、便利なので使うことにした。


『60階に参ります』


 エレベーターから、落ち着いた声でアナウンスが流れた。

 ちなみにこのエレベーターは、1階と60階にしか行けないらしい。


 基本的にダンジョンは階層が上がるにつれて、モンスターが強くなっていくダンジョンが多いのだが、ここは違うようで、60階にカフェが設置されているとのことだ。


『地震です。緊急停止を行います』

「「!?」」


 確かに少し揺れた。

 ダンジョン内にも、地震はあるのか。


 仕方がないので、エレベーター内で救助が来るまで待とうと思ったのだが。


『緊急停止できません。代わりの処置として、エレベーターを自戒させ、ダンジョン内に搭乗者を放流します』

「何言ってんだこの機械は」


 ミソギが冷静に突っ込みを入れた。

 その後も怒りを感じたのか、ミソギはエレベーターに向かって叫ぶ。


「人のことなんだと思ってるんだ!」

『53階です』


 だが、当然エレベーターはそれに答えることはなく、冷静な声でアナウンスするのであった。

 次の瞬間、ノナとミソギの視界は真っ白になり、気が付くと岩壁に囲まれた場所に立っていた。

 幸いダメージは無く、助かった。


「どうしよう……」

「ダンスマで連絡を取っておくよ。幸い階層も分かってるしね」


 ミソギは冷静に60階にあるカフェに連絡を取り、そこから救助を要請するように伝えた。

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