29話 フェンリル、気が狂いそうになる

「錬金術……?」


 錬金術と言えば、ノナの場合は鋼鉄の錬金術師という作品を連想する。

 5年程前にアニメをやっていたが、その頃のノナは今よりもまだ幼く、少々ストーリーが難しいと感じていた。


 そういえば、元の時代では、現在2期が放送中だったな。

 こちらはアニオリの1期と違い、原作通りのアニメ化らしい。


 見ていなかったので、後でチェックしておこうと考えていたのを思い出した。


 錬金術師といえば、後は〇〇のアトリエといったゲームもあったが、そちらは完全にノータッチだ。


(そういえばアトリエシリーズは、この時代の店頭でも見たなぁ。最新ゲーム機での発売ってことは、今もシリーズ続いてるのかな? 凄いねぇ)


 ともかく、このフェンリルは意外なことに、錬金術ができるらしい。


『ああ! 我の新たなスキルで、錬金術が可能になったのだ! 錬金術ができるフェンリルなど、他にいないだろう!』


 フェンリルの声は、どこか得意気とくいげであった。

 そんなフェンリルに、ミソギは問う。


「錬金術って、錬金釜が必要なんじゃなかったっけ?」

「そうなの?」

「うん。ネットの情報だけど」


 てっきり、魔法陣書いてやるのを想像していたのだが、違ったようだ。

 だとすると、その釜はどこにあるのだろうか?


『いい質問だな! 我の体内がその代わりだ!』

「「体内!?」」


 私だけでなく、ミソギも驚いた。


『ああ! 体内で錬金術ができると便利だぞ! 料理も錬金術で作ったしな! あれは中々に美味かったぞ!』


 一体、どうやって作って、どうやって食べたのだろうか?

 気になるが、あえて聞かなかった。


「えーと、この指輪はなんなの?」


 ノナは指輪を拾った。

 胃液などは付着しておらず、想像とは違い綺麗だ。


『その指輪を持った者が立ち寄ったことのあるダンジョンに、我も自由に移動できるという装備だ! それを持って、行ったことのあるダンジョンであれば、そこのダンジョンにお前がいなくとも、我は自由に行き来できる! 付けていなくてもいいから、持っていてくれ!』


 ファストトラベルって奴かな?


「そうなんだ! それは凄いけど、どうしてこれを私に?」


 ノナがそう言うと、フェンリルは少し悲しそうに叫んだ。


『気が狂うからだ! 他のダンジョンの存在を知りながら、我はずっとこのダンジョンにいる! それだと、いずれ狂ってしまう!』

「あー……確かに同じ場所ばかりだと飽きるかもね」

『それに、我は最近自我を獲得したばかりだ! 好奇心旺盛な女の子なのだ!』


 女性のような声だったが、やはり性別もその通りであったようだ。


『分かるか!? 下手したら我は一生ここで過ごすことになるんだぞ!? 自分のこととして考えてみろ! お前も嫌だろ!?』

「あー……それは嫌かも」


 ただし、このモンスターはフェンリルだ。

 今はシルバーソードのおかげで、なんとか倒せるようになったとはいえ、強いモンスターということに変わりはない。


「じゃあ、約束して欲しいんだけど、もう人を襲わないで欲しいんだ」

『ああ! 我はこう見えても意思を持ってから、一度もお前以外の人間を襲ったことはないぞ! モンスターは食いまくっているがな! ただ、お前は別だけど、それでもいいか?』

「なぜ!?」

『勝ちたいからだ!』

「殺し合いじゃなければ、いいけど……」


 いきなり襲われて死ぬのは避けたい。


『ぐぬぅ……仕方ない……か』


 不意打ちする気満々だったのか。


「とりあえず、約束守れるなら、この指輪は貰っておくよ」

『おお! ありがたいぞ!』


 無事に挨拶は済んだ。

 ミソギも最初は怖がっていたが、今はどこか物珍しそうな表情でフェンリルを見ている。


「触ってもいいかな?」

『仕方ないな』


 ミソギがフェンリルに言うと、フェンリルはお礼にと特別にミソギに触ることを許可した。


「もふもふだね。手入れとかしてるの?」

『してないな』


 ミソギの問いに対して、フェンリルは首を左右に振った。

 もふもふタイムが終了すると、ノナとミソギはダンジョンをあとにしようとする。


『ちょっと待て!』


 フェンリルは思い出したかのように、呼び止めた。


「どうしたの?」

『お前には、まだ礼をしていなかったな』

「気にしなくていいよ!」

『いや、我が気にするのだ。無料の情報だ。聞いておけ』

「情報?」

『ああ。なんとなく……野生のカンという奴なのだが、なんだか今日は朝起きてから、嫌な予感がしている。何かが起こるかもしれない。気を付けておけ』


 地震を予知する動物がいるのと、似たような感じだろうか?

 ダンジョン内のモンスターであるフェンリルがそれに似た何かを感じているということは、ダンジョン内で、今日何かが起こるということなのか?


『何もないかもしれないが、一応用心しておけ。ちなみに我のそういった予感は9割外れている』

「あ、そうなの」


 ということは、何もない可能性の方が高そうだ。



 ダンジョンを出て、街を歩くノナとミソギ。


「嫌な予感か~。9割ハズれるって、予感っていうよりもただのカンじゃん!」


 確かに、普段から用心することに越したことはないが。


「偶然だろうけど、ツイックスでもなんか今日予言あったよね」

「そうなの?」

「あれ? 知らない? ダンジョンが原因で世界が滅亡するとかなんとか」

「そうなんだ! というか、ツイックスって何?」

「え……? SNSだけど……」

「それってネット?」

「それはそうでしょ」

「ネットかぁ……私、皆と違うことがかっこいいとと思うタイプだから、やってないんだよねぇ!」

「自分で言うことか!?」

「後はアングラ感かなっ! 今の時代のネットには、アングラ感がないからねっ!」


 右手をVの字にし、顎に手を当てて、少し格好付けながら言った。


「アングラ感って……」


 少し呆れられているような気もするが、気のせいだろう。

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