精霊に愛されたハズレ王女~再会した幼なじみに溺れるほど愛される~
有木珠乃
第1章 精霊の愛し子の婚約者探し
第1話 夢見の精霊と愛し子
光に満ちた
正確には、精霊に性別はない。けれど
「よく来たな、リリア」
けれど声は男性そのもの。この違和感がルートリを精霊だと思わせる。それと同時に、ここが夢の中だということも。
何せルートリは
現実に実体化することは可能だけど、基本は夢の中にしか出てこない。それも気に入った相手のみ、自分の領域に招いては、こうして歓迎してくれるのだ。
私はそれが嬉しくて、乳母に習ったカーテシーで挨拶をした。
「今日もお呼びいただき、ありがとうございます」
相手が貴族でなくても、ルートリはさらにその上をいく上位存在。敬意を示すのは当然の行為……なんだけど、ルートリは眉を
「いつも畏まらなくていいと言っているだろうに」
「そんなことはできません。ルートリにはいつも助言をいただいているんですから」
気さくに話すことなんてもっての外だ。
敬称を付けて呼ぶことをルートリが嫌がるものだから、呼び捨てにしているけれど……これだって、慣れるまで大変だったのだ。
何せ私は、ルートリから助言をもらっている身。主に私に関することが多いけれど、内容は身近なものばかりではなく、もっと大きな助言も受けることがある。
そのほとんどが百発百中で、助言というより予言に近かった。
だから精霊という立場以外でも敬意を示したいのに、ルートリはそれさえも嫌がる。特に私がすると余計に不機嫌になってしまうのだ。
「それはリリアが辛い目に遭わないためにしていることなんだ。他の奴らは、そのおこぼれをもらっているに過ぎない。だから奴らにそう言われたとしても、私の前では普通にしておくれ」
「だけど……」
言葉に詰まると、ルートリは手招きをするように手を振った。が、私はそれが何を意味しているのかを知っている。
だってここは夢の中。夢見の精霊ルートリの領域であるため、すべて彼の意のままに動く。勿論、私の体さえも。
ルートリの手に合わせて、体が宙に浮き上がる。すると、白いワンピースのスカートがふわりと広がった。腰に結われた水色のリボンもひらひらと揺れて、まるで妖精になったような気分である。
そう、ルートリは私を喜ばせるのが上手い。私が沈んだ顔をすれば、こうしてあやしてくれるのだ。
けれどそのまま下ろしてくれるわけではなく、ルートリの元へ行き、その隣に座らされた。そして上げられた手は、私の頭の上に。ルートリと同じエメラルドグリーン色の髪を、優しく撫でられた。
「リリアを粗末に扱う連中のために、私のご機嫌取りなどしなくていい。まぁ、リリアがしたくてしているのなら、有り難くいただくが?」
「っ! 勿論、ルートリの機嫌が良くなるなら、いくらだってしますよ。あっ、助言がほしいからじゃなくて、ルートリは友達だから。いつも笑っていてほしいんです」
「う〜ん。いつもにも増して、リリアは可愛いことを言うな。心が清らかで澄んでいるのも私好みだ」
「へへへ」
思わず嬉しくなる。ここでは誰も、下品な笑い方だと言われないから尚更だ。
「だからもういい頃合いだろう」
「何がですか?」
ルートリが唐突に理由の分からないことを言うのは、いつものことだ。そう、これが通常運転。だから私は気にせずに尋ねた。
「リリアは今、いくつになる?」
「十七歳です」
「確か、人間の結婚適齢期はだいたいその頃だと聞いた」
えっと、誰に? とは愚問だ。私よりも何百年と生きているルートリに聞いたところで、いつの時代の誰、となってしまうからだ。
「適齢期というより、結婚できるのが十八歳なので。つまり、来年ですね」
「そうか。やはりこれくらいだったか」
「ルートリは人間の結婚に興味があるんですか?」
「いや。でもリリアの結婚には興味があるよ」
「私の?」
有り得ないわ、と思わず現実世界の自分を見て、内心否定する。しかしそれさえもルートリにはお見通しだった。
「こういう反応をするから、ますます心配になるんだよ」
「そう言われても……結婚は無理だと思います」
「ふむ。だったらこれはどうだ。リリアの結婚相手を探せと、奴らに言うんだ。いつものように、私から助言を受けた、とな」
「まぁ!」
私はルートリと同じ薄紫色の瞳をパチクリさせた。
「嘘はいけませんわ。それにこれは幸いだと、酷い人のところに嫁がされるかもしれません。でしたら、今のままで十分です」
「大丈夫だ。言っただろう。私からの助言だと」
「え? でもさっきのは……まさか本気なんですか? 嘘ではなく」
「精霊は嘘をつかないんだよ、リリア」
あっ、そうだった。私ったらそんな基本的なことも忘れてしまうなんて……。
「でも私はこんな人間だから、誰も結婚したがらないと思います」
夢見の精霊ルートリに呼ばれるほどの人間だけど、私は精霊士ではない。所謂、愛し子と呼ばれる存在だ。
だからルートリのいう“奴ら”に奇異の目で見られている。いや、邪険の間違いかな。
ルートリのお陰で表立った嫌がらせは受けていないけれど……“奴ら”に目をつけられたくない者が多い。だから、進んで私に関わろうとする奇特な人などいないのだ。
「いや、確実に一人はいる」
「っ! 本当ですか?」
「あぁ。だが、念の為に聞くが、今の発言は本心か?」
「はい! ここで嘘をつく理由はありませんから」
するとルートリは、私の頭を撫でながら盛大なため息を吐いた。
何故?
「相変わらず報われない奴だな」
私のこと? いや、ルートリは私のことを奴呼ばわりしない。けれど“奴ら”を指しているわけでもなさそうだった。
では一体誰が、と首を傾げると「そこは聡いのにな」と言われ、ますます分からなくなった。だが、ルートリは教えてくれるつもりもないらしい。
私はそのままルートリの領域から弾き出されるように、現実世界で目を覚ましたからだ。
「おはようございます、リリア王女殿下」
するとまるで待っていたかのように、侍女がベッドの脇で頭を垂れる。
しかしそのベッドは装飾が施されたものでも、天蓋がついているものでもない。一国の王女に似つかわしくない、簡素なベッドだった。
シーツも柔らかくなく、ふかふかだってしていない。一つでも可愛いところがあればいいのだが、それさえもないのだ。
時々、本当に自分が王女なのか、疑ってしまうほどだった。けれどこうして侍女が世話をしてくれるのだから、一応、王女なのだろう。
「本日は国王陛下との謁見がありますので、早速ですが取り掛からせてもらいます。よろしいですね」
有無を言わせない侍女の声に、再び自分が王女なのかという疑問が脳裏を過った。
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