6.姉さん

 姉さんは、私の理想のきれいを全て持っていた。私は毎日姉さんと会うたび、昨日の姉さんとの差異を探した。髪の毛が伸びて毛量が増えている。口紅の艶が違う。昨日よりも肌にハリがある。太腿が、脹脛が、ある。姉さんは私の理想の姉さんだった。私は姉さんと会っていない時も姉さんのことを考えた。教師に殴られているときも、同級生の女たちにチョークで落書きされているときも、姉が私に命令しているときも、私は姉さんのことを考えた。

 私は中学校に上がった年の春、姉さんと初めてセックスをした。公園の楠の陰になっている茂みでセックスをした。姉さんがピクニックに使うような小さなビニールシートを持ってきて、私たちはその上でセックスをした。姉さんの長い脚はビニールシートからほとんど出ていて、私は、は、それが余計に興奮した。セックスをしても、その後はいつも通りだった。日が暮れるまでの時間を喋ったり遊んだりして潰してから帰った。私は今までに感じたことのないほどの、アタマが破裂しそうなほどの快楽を知った。こんな、こんなものが!? こんなものが!? 姉さんの中にいることが人生の中で唯一の快楽であると知った。私は真の幸福を知った。これこそが幸福。姉さんとセックスすることが幸福。私は姉さんと交わるために生きているのだと思った。私の生そのものが姉さんと交わるということなのだと思った。生きることは交わること。私は水汲みポンプのように、姉さんに繰り返し繰り返し挿入する。姉さんの股から体液を汲み上げる。姉さんの体液が私の皮膚を通して体内に染み込んでくる気がする。本当に染み込んでいる。姉さんの血液が私の血液と結びついて、最後の一滴まで結びついた時、私は終わるのだと感じた。姉さんとセックスをしている間はまだ、私は完成していない。もっともっと行為を重ねて、私と姉さんの体液が最後の最後に交わりきった時、全てが完了するのだと感じた。その時に、私は姉さんになる事が出来るのだ。

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