第24話 ザック、そしてアナ

 クルーザーの中にいるザックの頭の中で突然声が聞こえた。

「ザック。突然で申し訳ないが私はスターバックという者だ」

 ザックは混乱する。

「何者だ? どうやって通信している?」

「直接、君の頭の中にコンタクトしている」

「どうやって? どこにいるんだ?」

「地球じゃない。はるかに進化した星からだ」


 スターバックは詳しく説明した。ザックは半信半疑ではあるが、スターバックが言っていることを理解した。

「なるほど、お前がいう事が正しいと仮定して、これからどうするつもりだ?」

「エメラルド、いやエミー・サマーというパイロットがいるが、彼女に借りがあって、返さなければいけない。君の記憶を把握させてもらい、少しの間、君の体を借りる」

「おいおい、俺の体を乗っ取るつもりか?」

「いや、一時的に借りるだけだ。悪いようにはしない」

「いつまでだ?」

「たぶん今日だけでいい」

 こうしてスターバックはザックの体を借りて乗移った。

 一方、ジェイスもヘブンの記憶を地球のジェイスにコピーした。


「ジェイス、気分はどうだ?」

「ザック、いやスターバックか?」

「ザックでいいよ」

「まあ何てことはない。ヘブンでの記憶が追加されただけだ」

「そりゃあ、良かった。さて状況は把握できた。エメラルドがダウンロードしたエミーというのは研修所でお前が相手した個体のようだな?」

「ああ、そうらしい」

 これまでの会話を聞いていたハウザーが混乱した。彼だけはヘブンの記憶が無い。

「お前ら、何話しているんだ?」

 ザックが答えた。

「ああ、ごめん。何でもないんだ。少し予定を変更する」

「ザック、お前なんか急に変わったな。話し方がおかしいぞ」

「そうか? 気のせいだ」

「予定を変更するだって、逃げないのか?」

「ああ。交渉が必要になった」

「大丈夫なのか? 捕まらないか?」



 ◇ ◇ ◇



 撤収後、みんなが集まっているところ、フィルとクロエはせっかくなのでアンドロイドのアナを起動させてみんなに披露していた。見た目には四歳の普通の女の子にしか見えない。リン(12才のアナの妹)と遊んでいる。

 しばらくして、ザックがエミー達と合流した。

「エメラルドか?」

 エミーはその名前で呼ばれたので少し驚いて返した。

「え、ええ。誘拐犯のザック・ランバートね?」

「体はな。意識は僕だ、スターバックだ」

 エミーとエメラルドは意識がほぼ融合しているのですぐわかった。

「ザックにダウンロードしたのね。あなたまだ何も償いしていないわよ」

「何をすればいい?」

「フィルと相談するわ」

「フィル・ライアンには誘拐の件を問わないように掛け合ってくれ。一度逮捕されると面倒くさい」

「そんなことできる訳ないでしょ。罪はきちんと償いなさいよ」

「頼む。警察側とは話をつけた」

「うーん、フィル次第ね」

 エミーはフィルと話す前に、まずサーシャ(=妹のサファイアが融合)に相談することした。


「話の筋から、みんなにヘブンの説明をしないといけない感じ。どうしよう?」

「もう話してもいいんじゃない。どうせ多くの人は信じないよ。それに信じても信じなくても地球の人たちの生活は変わりないし」

 エミーはしばらく悩んだ後に決めた。

「もういいや。話しちゃおう」

 エミーはみなに、ヘブンと地球のことを説明した。クレイが何度も質問を繰り返したが、最後には全員が納得した。アレックスが言う。

「エミー、驚いたな。地球ってそういう存在なのか」

 次にサラが聞いた。「これは公表する? たいへんなことになるかも」

 クレイが少し考えてから言った。

「俺が警察に簡単に言おう。どうせ信じてもらえないから大騒ぎにはならない。フィル、どうだ?」

 フィル・ライアンが答えた。

「そうだな。それでいい。パニックを起こさせない必要がある。慎重にしよう」


「ライアンさん。ザック=スターバックには罪の償いをさせなければいけないわ。誘拐もそうだし地球の盗難もよ。スターバックはかなりのことができるわ。ある意味何でも。何か償ってほしいことはありませんか? その代わり逮捕は免除することになるけれど」

 フィルは考えた。

「そうだな。AEMデータは問題なくなったし、私も解放された」

 遠目に、リンとアナが遊んでいるのが見える。サラとクロエをちらっと見た。

「ヘブンの技術でアナのアンドロイドをもう少し進化させてもらえないかな?」

 エミーがザックに言った。

「できるんじゃない? なんなら大人並みにでもできるでしょ」

「簡単だな」ザック(スターバック)が答えた。

 ザックはさらにすごいことをさらっと言った。

「もしかして生体の方がいいのか? 生体なら何歳にでも成長させられるぞ」

「何だって? 生き返らせることができると言うのか?」

 フィルが驚く。

「少し違う。実際はコピーだ。でも、記憶も移植されるから完璧だぞ」

「どうやってやるの?」エミーが聞いた。

「遺伝子と記憶情報からヘブンの加速成長システムを使う」とザック。

「なるほどね。ヘブンで成長させるんだ」

 サーシャ(サファイア)が感嘆した。


「わかったわ。サラ、ライアンさんそれでいい? 何歳がいいですか?」とエミー。

「生きていたら十四歳かな? フィル?」サラが言った。

「そうだね」

「14歳ですね、わかりました。リンや家族の記憶も入れておきますね」

「それがいい!」リンも同意した。

「それじゃあスターバック、決まった。十四歳のアナを完璧に作って」

 こうして、アナがヘブンの技術でことになった。

 フィルが感謝の意をエミーに伝えた。

「ありがとう、エミー、いやエメラルドかな」

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