第20話 救出成功!
ハル研修所では、フィル・ライアン博士を救出する手立てがクレイとヴィンセント中心に検討されていた。捜査官がたずねた。
「ライアンさん、ファルコンがどこに爆弾を仕掛けたかわかりますか?」
「いや、わからない。急ごしらえの様だったが、爆弾をどこに仕掛けたのか……」
まだ手錠をかけられているフィルは首を横に振る。捜査官はクレイに言った。
「爆弾処理班の到着にはかなり時間がかかります。爆弾がどこにあるかも分かっていません」
クレイは少しいらだって言った。
「早くしないと…… この金属の箱、おそらく起爆装置を何とかできないですかね?」
「エックス線で見ましたが、仕組みがわかりません。モーションセンサーや温度センサーを使っている可能性があるので、動かしたり凍結させるのは誘爆させる可能性があります」
話を聞いていたエミーが、部屋から出て呟いた。
「エメラルド、エメラルド、聞こえる?」
「エミー? ごめん、待った?」
「いいえ。そっちはどう? 地球は取り返した?」
「ようやくね。何とかなったわ」
エミーはほっとした。一件落着。今度はエメラルドがエミーに聞き返す。
「それで、そっちのフィルの誘拐の方はどうなってる?」
「たいへんなところ。フィルに爆弾の起爆装置が仕掛けられているようで困っているの。エメラルド、何とかならない?」
「え、爆弾ってよくわからない」
「一度私に入って、記憶を読み取ってよ。あなたならすぐでしょっ」
「わかった……」
十秒ほど経った。
「大体わかったけど、エミー自身の知識はあまりないじゃん。もう少し勉強したら?」
「余計なお世話よ。それで何か対応は?」
「今回仕掛けられたと想定される爆弾はたいした威力は無いよ。あと犯人達の準備時間が少なかったから、実際は仕掛けられていない可能性もある」
「仕掛けられた前提で案を出して」
「はいはい。えーと、手っ取り早いのはフィルの周囲に防護壁を築いてから手錠の配線を切ることよ」
「防護壁って? どうやって配線を切る?」
「面倒だから私が皆に言うわ。部屋に戻って」
「頼むわ」
エミーは部屋に戻るとクレイ達に言った。
「クレイ、ライアンさん。私に考えがあります。ファルコンはこれまで爆破事件を起こしたことはありません。今回のセットはダミーである可能性が高いです。しかし万が一を考えてライアンさんを防護した状態で配線を切るのが良いと思います」
「エミー、お前……」
クレイは突然、専門家のような知識と提案をするエミーに驚いた。
「みなさん、防護壁にできるものがありませんか? 厚くて固い金属かコンクリートのようなものがいいです。さらにその内側に緩衝用のマットか何かを」
一斉に皆が探しに行って色々なものを持ってきた。そしてエミーが使えるものを選んで皆でセッッティングを始めた。サラが気になった点を指摘した。
「フィルへの直接の爆破の衝撃はこれで防げると思うけど、部屋自体が崩れるかもしれないわよ? それからもフィルを守らないと……」
エミーが答えた。
「ええ、これだけでは不十分です。なので私とミアのアバターで教授を覆います。アバターの筋力を最大にしておけば相当のものが崩れて来ても無事に守ることができるでしょう。そのアバターが配線も切ります」
クレイは鳥の巣の救難テストでエミーのアバターががれきの下からの救助をこなしたことを思い出した。これはかなりいいアイデアだと思った。
「なるほど、それなら安心だ。やってくれるか?」
エミーとミアが頷いた。アバター二体が教授に覆いかぶさった。そして他の全員が研修所の外に退避した。エミーのアバターがフィルにひっそりと話した。
「ライアン教授。今、話しているのはエミー・サマーではありません。エメラルド・コールマンという別の者です。エミーのアバターをお借りしています。信じられないでしょうが、地球外の人間です。私はこれから地球の人類をさらに進化させようと考えています。AEMは素晴らしいものです。今後もご協力いただけますか?」
フィルは目の前の口から出た言葉に驚き、彼女の顔を見つめた。通常のアバターにしか見えない。
「何だって? まさかそんな」
「詳しくは落ち着いたらご説明します……」
エミーは今度は大きな声でミアのアバターに言った。
「ミア、配線を切って」
外でみんなが見守る中、捜査官の一人が言った。
「配線が切断されます」
建物からボンという音がした ――
……しかし建物は無事だった。窓さえ割れていない。
「にせものだ」 クレイが言った。
爆弾では無かった。やはりファルコンはおどしのために爆弾と思わせる仕掛けをしていただけだったのだ。
無事にフィルの手錠が外された。
フィルと二人のアバターが外に出てきた。
サラとフィル、クロエが安全を喜び合った。
誘拐事件はようやく解決したのだった。
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