第19話 AIデータの行方

 ハル研修所で、ガイガーが逮捕たいほされた後、クレイ達は爆弾が仕掛けられたかもしれないフィル・ライアンの救出にとりかかった。

 後ろ手にしばられているフィルにクレイが声をかけた。アレックスとエミーも傍にいる。

「ライアンさん、爆弾は何とか処理しますので安心してください」

 フィルが重要な事をクレイに伝えた。

「ありがとう。聞いてくれ、ファルコンの連中はAIデータを削除するために、私の研究室に向かっている。そのデータを削除されるとたいへんなことになる」

「大学に警察をすぐに配備します」

「頼む。だが有効なのはファルコンを途中で阻止するか、セキュリティキーを使ってデータをコピーするかだ」

「ファルコンは僕がすぐに追います」

 アレックスがすかさず言った。話を聞いていたヴィンセントも応援に来てくれるようだ。

「クレイ、あとは頼むよ」

 アレックスはそう言うと駆けだした。

 クレイが再びフィルに聞いた。

「ライアンさん、セキュリティーキーの方は?」

「ジーニクスに隠している」

「クロエさん、ちょっと来てください」

 クレイはクロエを呼んだ。フィルは引き続き説明した。

「特別なキーだ。私がそれを使えばここからでもデータを外部にコピーできる。ファルコンはそれを使うのは間に合わないと判断している」

「データのコピーをジーニクスの人間にやってもらうことはできないんですか?」

「私の個体認証が必要なんだ」


 フィルが今度はクロエに言った。

「クロエ、アナにキーが組み込まれている。アナをこちらに向かって大至急運んでほしい」

 そばで一緒に聞いていた捜査官が言った。

「ジーニクスにジェット機はありますか?」

 クロエが言った。「いえ、本社には今ありません」

 「では、一機すぐにジーニクス社に出しますので、それに乗せてください」と捜査官。

 クロエが少し考えた。

「どれくらいでジーニクスに着きますか?」

「二十分程度です」

「進めてください。ただし、アナは先にうちのアバターが運びます。その方が早いんです。ジェットにはそのパイロットと社員を乗せてください。社に確認しますね」

 クロエはそう言うと、今度はジーニクスの社員に緊急連絡をとった。

「あ、クロエです。例の件でたいへんなの。私の専用ラボに子供のアンドロイドがあるでしょ、それを超特急でハル研修所まで運んで欲しいの。AEM用データの運命がかかってる」

「ヘリか何かでですか?」と連絡先社員。

「いえ、アルバイトのサーシャが緊急配送用の高速フローターを持っているでしょう。彼女にアバター使ってそのフローターで運ばせて。それが一番早いわ。彼女、今日会社にいる?」

「確認します…… いました。行けるそうです」

「頼むわ。あなたとサーシャ自身は警察のジェット機がくるからそれに乗って来て。私と通信が常時つながるようにしておいてね」

「わかりました。社長」


 ジーニクス本社内でサーシャはさっそく準備を進めていた。自身のアバターを操作して、アンドロイドをフローターに乗せる。

「これがクロエの姪っ子さん、アナのアンドロイド……。随分金をかけているわね。どう見ても人間の可愛い女の子だわ。でもこれが重要データと何の関係があるんだろ」

 サーシャが言った。

「社長によると、ライアン教授がこの娘さんのアンドロイドにAEMデータに関わるセキュリティキーを隠していたらしいです」

「ふーん。手の込んだことをするのね」

「何せAEMの教師データは極めて重要ですから」

 アナをフローターに固定させると、サーシャのアバターがすぐに飛び立ち超高速でハル研修所へと向かっていった。サーシャ自身はコントローラでアバターを操作しながらジェット機が来るのを待つ。


 ちょうどその時、サーシャの元に話を聞きつけたリンとカイルがやってきた。

「サーシャさんですか?」

「ええ、私がそうよ」

「私、リン・マイヤーです」

「マイヤー?」

「はい。社長のクロエは叔母です。今送ったアナの実の妹にあたります」

「ええ? そうなの?」

「私もパイロット訓練生で、サーシャさんのパイロットテクニックにはあこがれています。あ、こちら同じ訓練生のカイル・スプリンガーです」

「どうも、カイルです」

「スプリンガー? あなたもしかして鳥の巣のアレックス・スプリンガーの弟?」

 サーシャは制御をさくさくと行いながら答えている。

「そうです」

「それは奇遇だね。アレックスとは大会で会ったことがあるよ」

「それはどうも」

 リンがお願いした。

「サーシャさん、私達も連れて行ってもらえませんか? 研修所には母と叔母、鳥の巣の人達もいるんです」

 サーシャは社員に聞いた。

「警察のジェットにこの子らも乗れるかな? 2人と2体増えるけど」

「問題ありません」

「じゃあ、一緒に行こうか」

「お願いします」

 ジェット機も間もなくジーニクスに到着し、サーシャやリン達と社員が乗り込んで研修所へ向かった。サーシャは機内からもアバター経由でフローターの高速飛行を制御を続けた。

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